パンデミックで引き起こされた様々な変化を受けて、ファッションも転換期を迎えている。かねてより懸念されていた環境問題に関してのエシカルな動きは加速し、工業的な変化はもちろん、Black Lives Matterなどのムーヴメントからも文化の盗用やフィッシングをはじめとする問題にもさらに目が向けられるようになり、作り手のアイデンティティが強く問われる時代。そんな時代に、オリジナルを生み出すにはどのような思考、プロセスが必要なのか。自分のルーツとこれまでの生活の中で育んだゴスへの愛情などをミックスアップさせた表現で注目を浴びるセントラル・セント・マーチンズでファッションを学ぶKrissieに話を聞いた。(→ in English)
ーーファッションを勉強されているあなたにとってファッションはどのようなパワーがあると思うか教えてください。
Krissie「ファッションはあなたが望むものを具現化することができ、自信を与えてくれると思います。ファッションは非常に多面的ですし、境界がありません。そうした外側での表現を通してアーティストとしての表現を絡み合わせることができますよね。服はあなたが誰であるかについて多くを物語りますし、意味を伝えます。言葉なしで他の人とコミュニケーションすることができ、自分の中にある世界をどう認識しているかということにチャレンジし、啓発し、そして豊かにするものだと思います」
ーーあなたのファッションへの情熱を生み出しているルーツはなんですか。
Krissie「子供の頃、私はいつもドレスアップするのが大好きでした。趣味の1つはディズニープリンセスにドレスアップすることで、それが後にコスプレに変わっていったのです。そして自分よりさらに素晴らしい誰かになるという考えから自信を得ることができたのです。私は常に芸術的なことが得意で、ものを作るのも大好きでした。その2つを組み合わせるのは理にかなっていますよね」
ーーゴスなメイクやファッションの表現が目立ちますが、それらは何に影響されて始まったのですか。
Krissie「ゴスを初めて知ったのはまだ幼い頃で、近所の人がゴスだったんです。当時はゴスが何であるかわかりませんでしたが、彼らの家に行くのが大好きでした。彼らは信じられないほどの素晴らしいハロウィーンパーティを開いていて、私は最初で最後となるハロウィーンパーティを経験しました。母は厳格なクリスチャンで、ハロウィーンは“悪魔”に関連する異教の休日として祝うことが許されなかったのです。中学時代には誰もがスクリーモ、ロック、メタルを聴いていたのは面白いことですよね。その時もハロウィーンへの愛情からなんとかついていっていました。アニメクラブにも通っていて、日本の文化も大好きになっていました。コスプレをすることで、ワードローブと自分がごちゃ混ぜになるような感覚になっていたんです。私はいじめられていたため幼少期はとても落ち込むことが多く、この魅力的な暗闇に安らぎを感じることで自分が存在していることを受け入れやすくなったのです。14歳でパンクスタイル、その後にゴシックの実験を始めました。それ以来、私のオルタナティヴ・スタイルは進化してきました」
ーーゴスは個人主義で、保守主義に反対するもの。あなたはそのフィロソフィーに共感したのでしょうか。
Krissie「ゴスになることはまたダークに傾斜することです。私はダークさはタブーだと思って育ちました。黒人コミュニティの古い世代には、新しいことや別のことを試すことにかなり躊躇があります。恐怖と“白人のようにやろうとする”ことへの固定概念のため、私もしばらくの間は自分のアイデンティティを拒絶し、そうした関心を恥じていたんです。でもやがてそれが自分のルーツと調和することができる、全体的に豊かなコミュニティであり、生き方であることに気づきました。私は自分自身になることができ、解放されたのです。私たちはみんな、自由を感じるのが大好きですよね。このスタイルによってそうした感覚を得ることができ、他の保守的なルックスから思い込まされそうになる羞恥心から脱することができるのです。みんな自由にファッションを表現したいはずなんです」
ーーセント・マーチンでの「Jersey project 」は18世紀のタイトなレーシングと結核をテーマにした作品でしたが、二つを関連づけた理由は? また、そのプロセスを教えてほしいです。
Krissie「私はコントラストを用い、互いに対立しているように見えるコンセプトをまとめあげることを楽しんでいます。私の作品にはしばしば社会的苦痛のメタファーとして病気が登場します。そのプロジェクトのために、私はコルセットによる女性の抑圧を、窒息する病と蘭とを組み合わせてリサーチしました。病気の症状とヴィジュアルには、コルセットで締め付けることによる影響をよりうまく説明するためのテクスチャーを用いました。蘭は美しいですが、18世紀から教科書では寄生性のネガティヴなものとされています。病気、コルセット、蘭。その矛盾や共通点を見た人に考えてもらいたいと思い、蘭をバラバラにしたものを服のデザインと色の構成要素として使用し、これらのシルエットをいくつかのコルセットにつなぎ合わせて、ヴィジョンを実現しました」
ーーなるほど。ファッションは外見の意識だけでなく、政治的スタンスを表す道具でもあります。Black Lives Matterはどのようにこれからのファッションを変えてゆくと思いますか。
Krissie「現在、多くの人が世界中でブラックの地位向上に熱心に取り組んでいると思います。現時点ではこのムーヴメントにスポットライトが当てられており、このアピールを実現すべく業界が変わるきっかけとなるかもしれません。しかし、私は多くの人に、さらなるすべての人のための正義を求めることができるよう衣服でも社会的な政治的声明を擁してほしいと願います。誰もがファッションを意識するだけでなく、社会は変化していると認識する必要があります。私たちは、直ってきたように見せかけて何度も転移している癌の解決策を見つけようとしているところ。Black Lives Matterはまだ続いており、私たちは真の正義のために戦っている最中。ブレオナ・テイラーやジョージ・フロイドのような事件が私たち全員を脅かす大きな問題の氷山の一角であることを、誰もが知るべき。私たちが無知のままでいることが、問題の一部になるリスクがあるのですから」
ーーでは、あなたは自分の”race”がどのようにファッションの世界で表現されてると感じますか。
Krissie「セントラル・セント・マーチンズの学生である私は、未来のファッションの世界に目を向けています。大学全体の多様性はクラスで分かりますが、黒人の学生は2人だけ。私はそのうちの1人です。黒人はファッション業界で十分に表現の場を与えられておらず、セントラル・セント・マーチンズはその現実を端的に表しています。ロンドンを拠点とする一流の大学としては多様性を反映する必要がありますが、現実はそうではない。私のクラスでは、統計的に見れば、半数は黒人の学生であるべき。この現実は不信感と名ばかりの黒人差別撤廃につながるだけです」
ーーあなたのアイデンティが自分の作品に反映することはありますか。そのアイデンティで限界を感じることは?
Krissie「人種的トラウマなどの問題を取り上げ、自分自身、家族、先祖に影響を与えた問題を表現する必要があると感じています。私は人種的トラウマを通してすべての集団的な辛苦を表現し、精神病を病気やバクテリアとして白日のもとに晒します。時折は自分が消費されたように感じ、リミットをかけることもあります。Black Lives Matterは、黒人アーティストとして世界に前向きな変化をもたらしたいという自分のモチベーションをさらに促してくれました」
ーーパンデミックによって、ファッションのプレゼンテーションも変わってきています。あなたはどのようにオリジナルを生み出していますか。
Krissie「私の制作プロセスはさほど変わっていません。最大の損失は、私のコンセプトを育てるのに役立つようなコミュニケーションが取れないこととアイデアのシェアが思うようにできないこと。環境が変わらない中でプレッシャーと直面しているけれど、どちらにせよ制作の動機は自分の内側から見つけなければならないのですから」
ーー自粛などでクリエイティヴになりづらいと感じてる人もいまが、どのようにインスピレーションを探し続けているのでしょう。
Krissie「私はオンライントークに参加し、本を読み、自分のクリエイティヴィティを発揮するために小さなプロジェクトを設定しています。作品に関する以外の多くの問題が時間とアビリティに影響してくるので、非常に難しかったです。The Mighty Booshのショーと実験的なメイクのセッションを定期的に取り入れることで自分を立て直していました。私はいつも自分の外見をミックスアップすると気分が晴れるのです。あとはフラフープを取り入れています。心と体をアクティヴに保つ優れたエクササイズとスキルになっています」
ーーオンラインでたくさんの情報に触れてしまう中でオリジナルをどのように構築していますか。SNSのライクや、フォロワーで左右されることもあるのでしょうか。
Krissie「私は個人的な経験をいかしてオリジナルの作品を作り続けています。そこから、本、映画、アート、オンラインのアーカイヴなどを使ってリサーチのソースを拡大するというやり方。この方法は、流行りのソーシャルメディアやファッションにソースを限定するよりもはるかに成功していると思う。私はそうしない傾向があります。アーティストに最大に貢献してくれるのは結局は常に自分自身であり、社会はアーティストが望めば貢献してくるかけど良し悪し。私は自分のオリジナリティを他の人がどのように解釈するかを指図したり、自分の作品がどれだけ人気になるかをコントロールしないけど、作品を見て気に入った場合は、Instagramの https://www.instagram.com/que3nofthedamned/ でフォローできます」
ーー自分の中で、アイデンティティを確立できたと思う瞬間、または殻/壁を破れたという瞬間は?
Krissie「私は新しい音楽を発見するのが大好きです。人々を驚かせるテイストを持っているし、サウンドスケープと歌詞の中から自分のピースを見つけていくのが好きです。そうすることで自分の気分を知ることができ、服へのインスパイアを受けることもできるし、逆に自分ぴったりで踊らざるをえない何かを見つけることもできます。時々私は自分自身に対して挑んでいます。例えば、私は家から離れて自立して生活し、この通過儀礼の間に多くの障害に直面してきました。最近、私は人としての自分のニーズや自分が住んでいる世界への欲求についてより声を高くあげるようになりました。私は毎日自分の新しい一部を発見しているんです」
ーーパンデミックや環境保護のための取り組みでファッションの方向性は変わりつつあります。そのことについてはどう思いますか?
Krissie「その通りですね。パンデミックによって一般的な服装にもPPE(Personal Protective Equipement)が導入されましたし、気候変動によってよりサステイナブルでコンシャスな製造に向かっています。ブランドはすぐにマスクを採用し、理想的な素材の選択を促してきました。そうした動きには励まされますが、消費者が真に意識的であり、これらの選択を行うことの背後にある正当性と意味を私たち全員が問い、理解することを願っています。あなたのエコブランドのバッグは環境や社会問題に配慮したものですか? カーボンニュートラルですか? 利益はどこに? ある問題を別の問題に置き換える余裕はありません。私たちはそんなことに目をくらまされず賢くなければなりません」
ーーこのファッション転換期でファッション学生として、これからやるべきことは何だと思いますか。
Krissie「制限があってもモチベーションを維持し、休暇モードから抜け出すことが重要です。この時期に自分を慈しむことはとても重要だと思いますね。ファッションを学ぶ学生として私たちは心身の健康よりもファッションを優先しているのではと思うことがあるので」
ーーファッションでの表現にしても、自分の殻を破るということにしても、アクションを起こしたい、一歩踏み出したい人のために何かアドバイスは?
Krissie「自分の幸せのためにあなたの服装のセンスにとやかく言い、あなたが幸せになることに集中できなくなるような人たちのために自分のチョイスを曇らせないで意識的なチョイスをしてください。あなたにインスピレーションを与え、それによってあなた自身のスタイルの選択をより高めてくれる人々に目を向けてください」
text Maya Lee