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text by Yukiko Yamane

I & Fashion Issue : イェッぺ・ウゲルヴィグ『Fashion Work 1993 – 2018: 25 Years of Art in Fashion』インタビュー/Interview with Jeppe Ugelvig


Not For Everyone t-shirt. Courtesy DIS


NYとロンドンを拠点に活動するデンマーク出身のキュレーター兼評論家イェッぺ・ウゲルヴィグの著書『Fashion Work 1993 – 2018: 25 Years of Art in Fashion』は、90年代のニューヨーク、パリ、ベルリンのアートなファッションシーンをまとめたスクラップブックだ。バーナデット・コーポレーション、スーザン・チャンチオロ、BLESS、DISの4ブランドによるジャンルを超えた実践を通して、アートとファッション界のあまり知られていない歴史を紐解いている。美学を貫くオルタナティヴなデザイナーが、いかにしてファッションシステムを繰り返し覆してきたのか。この本は、アートとファッションを行き来する若きアーティストたちのバイブルとなるに違いない。そんな彼のブックローンチ兼サイン会がベルリンのイベントスペース『Yvonne Lambert』にて開催。BLESSとのコラボレートイベントということもあり、会場となる中庭にはBLESSのアイテムがずらりと並ぶ。オープン直後の穏やかな時間、ファーハンモックに腰掛けるイェッぺに、これからのアートとファッションについて話を聞いた。(→ in English)


ーーいつからファッションに興味を持つようになりましたか?


イェッぺ「ファッションが初恋でした!若い頃はインターネットを使ったり、ファッションマガジンを読んで過ごしていましたね。10歳のときに初めてコンピューターを手に入れたんです。オンライン、my spaceやblogspotは生活の大半を占めてましたね。デンマークの小さな町出身で、ネットでファッションマガジンを買っては、熱心に読み漁っていました。そんなこともあり、14歳の時にはコペンハーゲン拠点のファッション雑誌『Cover』でインターンをして、後にアバンギャルドなファッションレーベル「MoonSpoon Saloon」で働きました」


ーー10代の頃から、すでに興味を持っていたのですね。


イェッぺ「当時はセントラル・セント・マーチンズへ行くのが夢でした。夢が叶って、18歳でロンドンに引っ越してきてからは、美術への関心が高まってきて。よりアカデミックになり、美術評論もするようになりました。デンマークの雑誌『DANSK Magazine』のエディターになったとき、ファッションというものは、時として少し表面的なものであることに気が付いたんです。アートから学んだことをファッションに取り入れたい、あるいはこの2つを組み合わせてみたいと思いました。とても知的なものと服飾に関するもの、この2つの分野の架け橋になる方法はないかと考えたのです」



ーーこの本を制作する前に展示をされていますよね。


イェッぺ「Center of Curatorial Studies of Artの学生でした。最終論文をしなければいけなくて、これらのアーカイヴを発見しました。それでバーナデット・コーポレーションとスーザン・チャンチオロを繋ぎ始めたんです。それからスーザンと仲良くなって、彼女のアーカイヴをすべてデジタル化しました。資料を全部私がハンドスキャンしましたね。ある意味、NYの歴史でもあります。彼らととても親しくなりました」



Preparing for Bernadette Corporation S/S ’96 fashion show. Photography Cris Moor



Bernadette Corporation Fall/Winter ’95 fashion show at CBGB Gallery, 1995. Courtesy of Bernadette Corporation and Greene / Naftali Gallery


ーー準備に結構時間がかかったのでは?


イェッぺ「1年くらいかな。3000ドルの予算でやったんですけど、クレイジーでした。BLESSは初対面の学生である私を信じて協力してくれたんです。彼らは展示アイテムを詰め込んだスーツケースをLAの空港までハンドキャリーで送ってくれて。それを現地の友達が空港で受け取るっていう。配送料をカバーするほど予算が無いので、人の手で運んでもらわないといけなかったんです。壁紙もですね。とても面白かったですよ。展示自体やったことがなかったので、自分が何をやっているのかまったく分かりませんでした。
おかげさまで展示は大成功。ニューヨーク州北部の小さい美術館で開催しました。小さい展示ということもあり、この歴史をもっと多くの人に見せたいと思い続けていたんです。アーティストたちは、これが印刷され、この歴史が明らかにされることに興奮し、光栄に思っていました。だから当初は、ヨーロッパでの開催も考えていたんですけど、多くのミュージアムがファッションに興味を持っていないので、実現はとても難しいことでしたね。そんなときに知り合いから『本にするのはどう?』って言われて。たしかに自分はライターであり歴史家、展覧会には出てこなかったアーカイブ資料もたくさんあります」



ーーヨーロッパといえども、まだコンサバティヴなんですね。


イェッぺ「そうですね、アート・ミュージアムとファッション・ミュージアムがあるので。ファッション・ミュージアムは、マルジェラやココ・シャネルなどのビッグネームやガーメントにこだわっていますよね。それに比べて、私がフォーカスしているのはとてもアンダーグラウンドな歴史なので」


ーーこのプロジェクトを始める前から、バーナデット・コーポレーションやスーザン・チャンチオロ、BLESSやDISは好きでしたか?


イェッぺ「歴史的にもバーナデット・コーポレーションはよく知っていますし、セントラル・セント・マーチンズ在学中は『DIS Magazine』のヨーロピアン・エディターとして働いていました。初めてファッションやアートの記事を執筆したのも『DIS Magazine』ですね。まだNYに引っ越していなかったので、そのシーンには参加していませんでした。当時、記事やレビューを執筆していたことは私にとってトレーニングでしたし、そこでライティングを学びました。『DIS Magazine』という素晴らしいプラットフォームの一部であり、ファッションとアートの両方を、同じ批判的かつ知的に扱うことができたのは素晴らしいことでしたね。当初スーザンはバーナデット・コーポレーションの一員で、スーザンが自身のブランドをローンチするときにスタイリングを手伝ってくれたのはバーナデット。そのスーザンはBLESSやDISと仲良しで。このプロジェクトをリサーチしている内に、すべてが繋がっていることに気付いたんです」




Run 7. Photography Rosalie Knox. Courtesy of Susan Cianciolo and Bridget Donahue, NYC




Run 3, Pro-Abortion Anti-Pink. Photography Cris Moor


ーー自分の道を見つけようとしているファッション学生に、本書を通じてどんなことを伝えたいですか?


イェッぺ「歴史、制作に焦点を当てることで、歴史はいつも奮闘している人たちによって作られているということを示したいです。お金も予算も何もないところから制作しているけど、それ以外の選択肢は常にある。ファッションスクールでは、ブランド名は自分の名前、年4回のコレクション、ファッションウィークでのショー、卸売りをしなければならない、といった昔ながらの典型的なアイデアを教え込みますよね。正しい、普通、マルジェラ、あるいはオールドスクールな方法で、それをしなければいけない。でもこの歴史は、ファッションには他にもたくさんの方法があることを示しています。年に2回のコレクションである必要はないですし、イメージや本、家具など何でもいいんです。これはファッションの練習でもありますし、学校では教えてくれないことだと思います。多くのファッション学生がアートをしたいと思うように、アート学生もファッションをしたいと思ってる。そしてこの本は、そのための歴史があるということを伝えようとしてるんです。すでに歴史があるから、あなたにもできる。もちろん時代は違いますが、いつだって可能性はあります。この二つのシステムを交渉する新しい方法があるんです」



ーーフォーカスした25年間の中で、ファッションとアートにおいて一番大きな出来事は何でしたか?


イェッぺ「一番大きかったのはインターネットの登場、これがすべてを変えました。グローバリゼーションとインターネットは連帯しています。サプライチェーンの輸出やインターネットの台頭、最近ではファッションが工業的になったこともありますね」



ーーパンデミックを経て、ファッションとアートに変化はあると思いますか?


イェッぺ「まだこれからですが、明らかにパンデミックが発生したときにショップは閉店し、ファッションハウスはすべて銀行口座を凍結し、広告を買わなくなりました。これは出版にとって生命線です。今のところファッション・ウィークはすべて休みで、ラグジュアリーなファッション業界というよりも、メインストリームのファッション業界に打撃を与えたと思います。今の時代、アートファッションのハイブリッドな人たちは、インスタグラムのようなソーシャルメディアで活動しているか、ギャラリーや美術館で活動しているかのどちらかです。そして、物事は一時停止されたものの、キャンセルされたわけではなく、延期されただけです。いつになったらまたパリ・ファッション・ウィークが見られるのか分からない。同時に、アート・ファッション・プロジェクトは、カレンダーに左右されませんでした。分かりませんよね。
今、金融危機があれば、新しい90年代のNYが見れるかもしれません。『DIS Magazine』はこの前の金融危機から生まれました。彼らは本物のファッション雑誌を作りたいと思っていましたが、広告の関係で資金が足りなかったんです。多くの若者がファッションブランドを立ち上げたいと思っていますが、今はそれができませんよね」



ーー上の世代を含めてみんなの意識を変えていくために、私たちができることは何でしょうか?


イェッぺ「すべて変わらなければいけません。ファッションは持続不可能、特にファストファッション。私たちが置かれている大量消費システムは、地球を破壊しているだけで、最大の汚染源の1つ。グリーンファッションのラインを作ったり、オーガニックのTシャツを作ったりするだけでは十分ではないんです。それがどうやって作られているのかというところから、システム全体を見る必要があります。自社内での職人的な独立は、その解決策の1つだと思いますが、それがすべてではありません。自社生産をしていても、素材はどこから来ているのか、誰が生地を染めているのか。バングラデシュから来ているのか、誰が綿を集めているのか知っていますか?化学薬品を散布する度にガンになる人たち。企業には何の責任もありません。身近な従業員以上の政治的責任を考えていないのです。このプロジェクトは「ファッション・ワーク」と呼ばれていますが、この本では語られていないシステムの大部分は、もう1つの「ファッション・ワーク」と呼ばれる工場や畑です。小さなジェスチャーだけではなく、トータルな革命が必要なのです。ユニクロやH&Mがサステイナブルを謳っているけど、あれはほとんどジョークですよ。問題はユニクロではなく、ファッションのシステムにあるのだから。Tシャツを買わなければならないというのは、永遠に持続不可能なこと。それは、地球が代償を払っているということを意味しているだけなのです」



N°10 Scarves Sponsored by flyers, 2000. Courtesy BLESS



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N°54 Remembrance Subito presentation, 2015. Courtesy BLESS


ーー近年アートとファッションの距離が近付いているように感じます。この関係性についてどう思いますか?


イェッぺ「アートとファッションはいつだって近付いたり離れたりを繰り返しているけど、90年代はとても近い存在でした。20、30年代のヨーロッパも、とても近くて、その後は離れましたね。おそらく今はインターネット、メディア、テクノロジーを通して、再び近づきつつある時代ですし、そう思いたいです。今度は何が来るのか、今からワクワクしています。もちろんこれは歴史的なプロジェクト、今は『DIS Magazine』ですら休刊しているので。私たちは、アートとファッションが非常に商業的で退屈な方法で混ざっている、新しい方法を見ていると思います。大きなラグジュアリーハウスがアートプロジェクトを行っていますが、インディペンデントな批評家たちもファッションにも興味を持っている。アメリカやアジアでも何か面白いことが起こっています。
2000年代初頭、ファッションは非常にニッチで小さな産業から世界的なマス・エンターテイメントへと変化しました。アメリカのトップモデルやプロジェクト・ランウェイの時代ですね。ファッションがマス・カルチャーの一形態となり、アートから離れていく時代です」


ーーもうすでに次のプロジェクトを進めているとか。


イェッぺ「今、東南アジアのファッションプロダクションに焦点を当てたプロジェクトを進めています。来年北京でやるプロジェクトです。中国南部のファッションプロダクションに焦点を当てています。日本や韓国にはファッション産業がありますが、タイ、インドネシア、マレーシア、香港、フィリピン、ベトナムといった南シナ海周辺の国々に注目しているんです」



Hoop Dreams. Courtesy DIS


text Yukiko Yamane


Jeppe Ugelvig
Jeppe Ugelvig is a critic and curator based in New York and London. He writes, curates, and publishes across art, fashion and its various intersections. A graduate of Central Saint Martins and the Center for Curatorial Studies, Bard College, his writing appears regularly in Frieze, i-D, ArtReview, AnOther, Flash Art International, PIN-UP, Spike, and LEAP, amongst many others. He has staged exhibitions and projects in London, Berlin, Copenhagen, New York, Turin, and Ramallah. The book is designed by Laura Coombs, currently Senior Designer at the New Museum of Contemporary Art and a Lecturer at Princeton.
https://jeppeugelvig.com/bio

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