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今なお語り継がれる、アムステルダムで起こった日本人バラバラ殺人事件 その真相は



1968年8月、オランダ・アムステルダムの運河に放置されていたアタッシュケースからバラバラ死体が見つかった。被害者はブリュッセル駐在の日本人商社員。毒物によって殺害された後、手術用の鋸で両手足首を切断されたという。当日、男性は「アムステルダムに行く」とアパートの管理人に言い残していたが、現地に取引先の商社は存在せず、また、遺体からは所持していたと思われる現金200万円も消えていた。


当時のオランダではバラバラ殺人のような猟奇事件は滅多になく、捜査の行方に、日本、オランダ両国のマスコミの注目が集まった。


被疑者として浮かび上がったのは、被害者とは別の商社に勤めるブリュッセル在住の日本人男性だったが、事件発覚の約2週間後、彼はベルギーを車で走行中に事故死。結局、事件は被疑者死亡のまま迷宮入りとなった。


ただ、そもそも被疑者と被害者は過去に一緒に旅行をした程度の関係性しかなく、また、「日本人同士の諍いであろう」という警察の予断も指摘されるなど、様々な点で疑問を残したままの幕引きであったことは間違いない。


それゆえ、異国の地で起きた不可解な猟奇殺人は長きにわたって人々の記憶に残り、その後、多くの作家たちが本事件をモチーフにした作品を発表している。


中でも真っ先に挙がるのは、1970年に松本清張が書き下ろした『アムステルダム運河殺人事件』だろう。本書は、事件に興味を持った新聞記者と医者がアムステルダムまで足を運び、お互いの推理を競うという筋書きの「推理小説」だ。しかし、事件の概要が忠実にトレースされているだけでなく、執筆にあたって、実際に松本清張自身も、元新聞記者の森本哲郎を伴って現地に赴き、独自調査を繰り広げるなどフィクションの枠を超える作品に仕上がっている。20日間にわたる調査の末に導き出した真犯人とは一体、誰なのか?『日本の黒い霧』などで見せた松本清張の明晰なロジックと推理が冴え渡る一作だ。


また、最近では原進一が2016年に発表した『アムステルダムの詭計』も有名。作家・島田荘司が選ぶ第8回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞した本書は、事件から20年後のアムステルダムが舞台。被害者の知人を主人公とし、オランダ人画家フェルメールや西洋美術史など様々な視点を通じて虚実を巧みに織り混ぜながら謎に迫っていく構成は、読むものを巧みに惹きつける。また、前述した『アムステルダム運河殺人事件』も物語において重要なキーポイントの一つ。同書を元に事件を紐解きつつも、筆者が辿り着いた「新たな解」に注目だ。


このほかにも、菊村到の『運河が死を運ぶ』、津村秀介の『偽装運河殺人事件』、有栖川有栖の『幻想運河』など同事件を扱った作品は無数に存在する。


ひょっとしたら……これらの中に真相に辿り着いている作品があるのかもしれない。


松本清張『アムステルダム運河殺人事件』
朝日新聞
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原進一『アムステルダムの詭計』
原書房
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