Photo by Iris Bergman
オランダのクリエティヴ業界を盛り上げているアーティスト11人を取り上げる「.nl Issue」特集。近年、多くの国が国境を閉鎖しナショナリズムが高まり、世界共通の言語でもあるアートを通して団結することが以前よりも重要となってきている。NeoLでは、現在の状況と予測不可能な未来のために、議論ができる空間を様々な形で人々に提供するアーティストやアクティビストへのインタビューに取り組み続けている。本特集では、限界に挑み続け、フロントランナーとして走るオランダに在住するアーティストを紹介し、国の魅力についてはもちろん、今現在の環境、社会構成、政治などの問題を乗り越えるために必要とされる緊急性と行動力を喚起したい。
劇場やアート、ダイニング、エンターテインメントの複合的な芸術施設であるThe Performance Bar。特徴的なのは、あらゆる芸術表現の境界をなくし、テーマや形態が変化し続けている点だ。スマホ使用禁止のルールを設けるなどして、自分を自由に解き放ってもらうための環境作りは、いまの社会にとって重要な発想であると言える。設立者のDaniel van den Broeke と Florian Borstlapは、以前開催したワイルドなパーティーで大忙しの現代人を魅了したことでも知られている。そんな彼らに4周年を迎えたThe Performance Barの誕生秘話からそのコンセプト、また今取り組んでいるプロジェクトについて話を聞いた。(→ in English)
ーーThe Performance Barは、劇場とアート、ダイニングとエンターテイメントが融合したバーです。このアイデアは、どこから浮かんだのですか?
Daniel「florian と私があるフェスティバルで、6日間テントを使える機会を頂いたことがあったのですが、そこでcafe eekという名前でバーをやったのが一番の始まりですね。その当時は、予算がなかったのでインターネットでタダで貰えるものを探しだして、バスタブとオルガンと木材を使ってバーを作りました。小さいテントで変なことしてる人たちがいるって聞きつけてたくさんの人が来てくれて、結果的に6日間すごくうまく行きました。でも、それが終わった後、自分たちがめちゃめちゃこのバーが好きだってことに気づきました。そこで、フェスで使っていた素材の質が低く、もう一度バーを組み立てることは無理だったので、その素材の資金集めとしてクラウドファンディングを始めました。ちょうど同時期に偶然WORMのディレクターと話す機会があって、空きのスペースがあると聞いたんです。そこで、僕は彼にバーのことを提案すると、彼はokを出してくれてThe Performance Barが実現したのです。今年で4年になります」
ーーThe Performance Barで、パフォーマンスをしたい人は、ウェブサイトを通じて申し込みができるそうですね。
Daniel「そうです。The Performance Barのステージに立つには、誰もが偽りのない本当の自分を見せなければならないので、そのようなことができるパフォーマーを理想としています。もちろん様々な理由があるとは思いますが、私たちのステージに立ちたいパフォーマーというのは、社会的な経験を求めている人が多いと思います。そのような人が集まった環境なので、うちにはシリアスな雰囲気があまりありません。だから、お客さんとパフォーマーが直接繋がることができ、たくさんの反応が自然に湧き出てくるのです」
Photo by Iris Bergman
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ーーでは今までの中で、印象的だったパフォーマンスはありますか?
Daniel「正直毎週、圧倒されてますね。でも、お客さんだった人がボランティアでパフォーマーをやったときはすごく感動しました。彼女はすごく興奮していたし、その友達たちもサポートしてあげていました。私にとって、その人の内側で秘めている何かを、初めて外側に表現できた瞬間というのはすごく美しいものだと思うんですよ。また、その場にいる人が皆同じ気持ちで、パフォーマーにエネルギーを送っている状態が作れているというのは素晴らしいことだと思います。そこにいる全ての人が、観客というだけでなく、そのパフォーマンスの一部であるのです」
ーー携帯の使用禁止のポリシーに厳しいと伺いました。このポリシーによって、他のバーと比べて、人々の振る舞いに関して何か変わったことはありますか?
Daniel「かなり違うと思います。携帯を見てしまうと、その場の雰囲気に完全に浸ることはできないと思うので、このポリシーを掲げています。ですから、パフォーマンスバーでは、誰も下を向くことはありませんし、そのおかげで人々の間での直接的な交流の時間も長くなったと思います。実際、Facebookで、携帯使用禁止についてアンケートをとってみたら、90%の人が賛成と言ってくれました。やはり、たった1人のスマホいじりでも、その周りのたくさんの人の気持ちを不快にさせると思うんです。インスタを見てるとき、多くの人は、何か現実世界より面白いものがあると思って信じ込んでいるような気がします。あと、パフォーマンスを自分の目で見ないで、カメラで撮るのに夢中になっている人もいます。それって、すごく悲しいですよね」
ーーThe Performance Barでは協調性は必要なく、非同調性こそ新たな価値を作る、というように考えていらっしゃるように感じます。現実世界において、The Performance Barが既存の価値観や社会的構造を壊すことに貢献できると思いますか?
Daniel「そう思います。私たちは、このバーをマッサージの一種のような場所で、「ここは、本来のあなたを表現できる場所」とみなさんに説明しています。真面目な堅い仕事に就いてる人などいろんなタイプの人が来るのですが、「金曜日にリラックスできる場所があって助かる」と感謝されますよ。
その例の一つとして”Pas de Pantalon”という下着か裸がドレスコードのパーティーを開催しているのですが、このパーティは大人気で、チケットは必ず売り切れます。お客さんは、性的な行為なしでも官能的な気持ちになれて、精神的にとても解放されるようです。もちろん、トラブルを防ぐために、事前にそのパーティーの来場者にパーティに参加した理由を聞くなどして、かなり厳密なチェックを行い、それをクリアした人のみが入場できるような仕組みを作っています。こういうイベントを実現できてすごく幸せです。ですから、そういう意味では、外の世界へも影響を与えられているのではないかと思います。
また、個人的には、60年代のオランダの加熱したヒッピー運動に、ベビーブーム世代の私はかなり影響を受けたように思います。というのも、その当時の子供向けのテレビ番組も、アーティスティックで風変わりだったんです。そういう意味では、かなり幼い頃から、社会の規範にたいして既に立ち向かっていたのかもしれませんね」
Photo by Iris Bergman
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ーーThe Performance Barは、アートセンターのWORMによる新たな取り組みでもあります。WORMは、ロッテルダムの前衛的なアートシーンを活性化させていると思いますか?
Daniel「そうですね。今はすごく重大な役割を持っていると思いますが、もともと、とても賢い数人がここにいる風変わりなアートやカルチャーシーンを重要視し、サポートして補助金を得るために尽力したことがWORMの始まりです。それが徐々に組織化して今では、近所に良いスペースを見つけられない全てのアーティストのための開放的なスペースになったのです。WORMは、あまり硬い雰囲気は無いし、やりたいことはなんでもできるので、これからもっと評価されるようになると思いますね。WORMの実験的な姿勢に私たちも助けられています」
ーーロッテルダムは、アンダーグラウンドシーンとアートシーンがオランダの他の都市と比べて非商業的だそうですね。ところが、高級化によってアンダーグラウンドシーンが衰えていると伺いました。このことについて、どのようにお考えですか?
Daniel「アンダーグラウンドシーンは、完全に衰えたと言えるでしょう。でも、活気ある若者が沢山いることは事実で、彼らは面白いことをたくさんしているようです。このバイブスは、どんどん活気付いていくと思いますが、カルチャーシーン自体は、依然として年の高い人々に支配されているように感じていて、正直これからどうなるかわかりませんね。高級化は、時に最悪の結果をもたらすこともあります。もし、The Performance Barの近くにマクドナルドができたら、わたしは多分泣きます。政府がこの問題の本質をしっかりと認識出来たら、状況が改善されると思いますね。というのも、政府は私たち一般市民に寄り添ったふりをするばかりで、いつも結局大きな機関にお金を全て渡してしまうんです」
ーーこれから、The Performance Barをどのような場所にしていきたいですか?
Daniel「”Pas de Pantalon”に取り組んでいる最中なので、あまり他のイベントを開催することはできないかもしれません。でも、4周年のパーティーを行う予定です。今週は、virtual performance barを行う予定で、内容としてはパフォーマーがデジタルアートなどのパフォーマンスをプラットフォーム上で行うというものです。日本人の方達にもぜひこのパーティに参加して欲しいです!これからもデジタルアートにこのスペースを活用して情熱を持って取り組んで行きたいですし、The Performance Barがいつか小さな宇宙船のような存在になるといいなと思います」
text Ayana Waki
Performance Bar
This transformable stage/bar blurs the boundaries between café and theatre, bar and stage, artist and audience. The Performance Bar presents all kinds of acts that span across the categories of art and entertainment.
https://www.performancebar.org/
https://www.instagram.com/theperformancebar/