2011年に学生街である弘大にオープンしたTHANKSBOOKSは既成の出版物から良書を選別、独自のキュレーションを提示し、多くの書店にビジネスモデルとしてインスピレーションを与え続ける存在だ。カフェやギャラリー併設という複合的な施設のあり方を示した時期を経て、類似した書店が増加した今は、書店本来の有るべき姿として、書店のみに専念する形態にシフトして新たな支持層を集めている。選書やイベントなどを担当し、現在の書店の雰囲気を形作っている店長のソン·ジョンスンとマネージャーのウム·ソジョンに話を聞いた。
――2011年にオープンした際は家具や小物類なども販売しましたが、移転後、本だけに特化した理由は?
THANKSBOOKS「オープン当初は本当に何もない状態から始めなければならなかったので、近くのブランドとの協業でウィンウィンできる方法を考えなければなりませんでした。今は自分のショールームを持っているバイヘイデイ(家具ブランド)ですが、当時はショールームがなかったので、私たちがショールームの役目を担当することで家具を提供してもらうことができました。小物は現在も販売しており、本と直説的または間接的に関連のある小物だけを販売しています。ノート、しおりなどがメインですね。 例えば、携帯電話のケースなどは販売していないです。以前にはコーヒーも販売しており、2階にギャラリースペースがあり、複合文化空間を志していましたが、弘益大学前の商業スペースの変化(4大オンライン書店のオフラインの売り場集結)及び複合文化空間の増加によって、本屋の本質に立ち返り本の販売に集中しようと決心しました」
――本だけの販売にしてみて、どのような変化がありましたか。
THANKSBOOKS「前の空間を懐かしがっている方が30%、さらに書店らしくなったという反応が70%ほどでした。 私たちもカフェとギャラリー運営のために分散していたエネルギーを本に集中させることができ、本の種数とカテゴリーに変化を与えました。この変化に対する回答として、移転前より多様な年齢層が訪問し始め、男女顧客の性比も1:9から4:6ほどに変わりました」
――選書は客層に合わせて店長が行うということでしたが、最近はどのような本が好まれていますか。1、2点具体的な書名も可能であればあげていただけますでしょうか。
THANKSBOOKS「図書の選別は店長とマネージャーの二人が一緒にしています。 数年前、大ブームが起きたフェミニズム関連の図書が依然として多く出刊されており、昨年からは共生に関するもの―動物、菜食、ヴィーガンに関する図書の出版·販売も増えています。 “動物を食べるということについて(동물을 먹는다는 것에 대하여)”、”とにかく、ヴィーガン(아무튼 비건)”などです」
――おっしゃるように韓国の文芸では近年女性作家、クィアの作家の躍進が目立ちますが、そのような文芸の動きが書店の取り組みにも何か影響を与えてますか。
THANKSBOOKS「女性作家とクィア作家の著しい躍進のおかげで、THANKS BOOKS内のフェミニズムセクションが非常に豊かになりました。 ジェンダーやセクシャルのマイノリティ関連図書はコーナーを突き抜けるほどに出版される種数が増えて、本を販売する側にも楽しさをもたらしてくれています。より多くの方々に本が届けられるように、フェミニズム図書の関連イベントも頻繁に行っています。 (昨年は低い山(낮은산)出版社から出た3冊のフェミニズムシリーズでイベントを相次いで進行したことがあります)」
――素敵な取り組みですね。街の本屋さんであり続けるために意識して行ってていることはありますか。
THANKSBOOKS「”人がいる”という感じを失わないようにしています。 ホンデ(弘大)で路面で本屋を運営するというのは、商業的な空間であり、売上が維持されなければならないということでもありますが、販売だけのためのビジネスライクな感じにならないように努力しています。 ですから、先ほど話したように、本と関係のない雑貨は売れるとわかっていても販売していないんです。
また、大型書店の売り場では見つけにくい本を前面に押し出そうとしています。THANKSBOOKS内の売り場は、出版社がお金を払って購入するようなシステムではないので、私たちだけの基準で大きい出版社、小さい出版社の区別なく、流れに合わせて陳列しています。 そのおかげで多くの方が”大型書店では見つけることができなかった面白い本が多い”と言ってくれています。同様の流れを作るための一環として、1ヶ月に1度のショーウィンドウの展示と、小さな街中の書店でしかできない30人程度の人数が集まるブックトークを多く開催するようにしています」
――今まで行ったブックトークの中で印象的だったものがあれば教えてください。
THANKSBOOKS「やはり本を中心にしたブックトークが一番多いのですが、本の中に書き込むことができなかった後書き的なものや作家個人の話を聞きたい方々の参加が多いです。記憶に残っているのは、最近開催した『とにかく、トッポッキ>아무튼 떡볶이』『ユーゴー(위고)』の著者であるヨジョとのイベント。 ヨジョはミュージシャンであり、作家で、書店の運営もしています。 特に弘大を拠点に活動したミュージシャンであり、本に登場するほとんどのトッポッキ店が弘大に位置しているので、ここでのイベントには意味があったと思います」
――他にここをサランバン(溜まり場)にするために行っている取り組みはありますか?
THANKSBOOKS「文化、芸術界の関係者はもちろん、クリエーターの方にも多く訪問してもらえているので、文化の最前線の流れを逃されないように努力しています。 このような需要を反映して、読者の最近の関心事とTHANKS BOOKSの職員の関心事を適切に交えて良い図書を選別するようにしていますね。引越し以降は弘大地域を拠点にして活動する作家、アーティストとの展示やイベントも頻繁に行っています。例えば、イラストレーターのカヤ(콰야)の展示、作家のイスルア(이슬아)の展示。今年からは街のタウン誌や情報をもっと自由に備え付けられる空間を別に設けようと計画しています」
――SNSの使い方も他店の刺激になっているようです。どのようなことに気をつけてポストされていますか。
THANKSBOOKS「インスタグラムは、ヴィジュアルが一番重要なSNSなので、写真を大事にしています。 単純に綺麗に撮るだけではなく、それぞれの本の魅力と雰囲気をどう表現するか常に考えて撮っていますし、他の所でたくさん紹介された本は同じ時期に紹介することを控えていますね。 THANKS BOOKSに通っていただいている方が気になるような新刊を主に紹介しています」
――インテリアも素晴らしいですが、釘を使わない棚へのこだわりは?
THANKSBOOKS「今回の引越しの際に新調した本棚は必ずしも”釘があってはならない”というわけではありません。しかし組み立て式なので私達がスペースを自由に調整できるという長所がありますね。 分野別に図書を並べていますが、その調節が簡単にできるんです」
―― 一度死んだと言われていた韓国の書店の中でも独自のビジネスモデルを確立した草分け的な存在ですが、どうしてここまで独立系書店のムーヴメントが拡大したと思われますか。
THANKSBOOKS「いつだったか本で、『韓国であれ日本であれ、若者が“どうせ潰れるならやりたいことをしよう”という雰囲気が形成されたため、小さな本屋がたくさんできたようだ』という言葉を読んだことがあります。 私もこの意見にある程度同意します。 ソウルや全国各地に広がった独立書店は、作業室の一部を本の販売空間として使う場合もあり、本を基盤として活動した方々(編集者、図書マーケッター、作家など)が書店を兼業する場合が多いようです。これに加え、趣向が力になる時代の流れがかみ合ったためではないかと思います。多彩な独立書店ができたおかげで”XXで本を買った”ということが自分の個性を表すことになったようです」
――非常に興味深い意見です、ありがとうございます。韓国において独立系書店のコミュニティのようなものは存在していますか。存在しているとしたら、その中でTHANKSBOOKSはどのような役割を担っているのでしょうか。
THANKSBOOKS「”全国の町の本屋ネットワーク”があります。町内の本屋さん数十店が連携して問屋とのやり取りの仕方を調整したり、様々なイベントを企画したりしていると聞きました。私たちはコミュニティに加入していないのですが、各町の小さな書店が集まって深夜の本屋を開催するなど面白いイベントをたくさん行っているそうですよ。例えば、解放村のコヨショシャとストリジブクエンフィルムなどが集まって月1回深夜本屋のイベントを行っているそうです」
――他国のイベントへも参加しているようですが、他の国と比べて韓国の方の本との関わり方への違いはありますか?
THANKSBOOKS「まだ比較するほど多くの国の行事に参加していませんが、個人的な感想では韓国は本を非常に特別な位置に置いているという印象を受けます。 同じ商業空間でも書店の雰囲気やロマンを特別視されている方が多いですし、本は国で免税商品とされていたり、本を大切に思っているように感じます。ただ、残念なことに、本が好きでも購入は難しいという方も多く、販売促進のために出版社やオンライン書店でグッズを作っています。 グッズが欲しくて本を買う方もたまにいらっしゃいますが、あくまで副次的なものとしての制作です。 日本は単行本についているグッズがないですが、この部分が大きく違っていますね」
――先日は日本のイベントへの出店も行われていましたが、今後、日本で企画されていることはありますか?
THANKSBOOKS「東京の神保町で書店(チェッコリ)を運営しているキム·スンボク代表からのお誘いで昨年11月第1回K-BOOKフェスティバルに行ってきました。 韓国の本についての熱い関心を持っていただいていることを確認してきたのですが、今後に関してはまだ具体的な企画はありません。日本側から韓国の本と書店について関心をもっていただければ、どんな席でも楽しく行こうと準備しています」
――個人的には、韓国では日本以上にペーパーレス化が進み、出版業界が危機に瀕し、大型書店の存亡が危ぶまれるようになったことで逆に独立系書店が増加した印象です。今後の韓国の独立系書店の動きはどうなると予測されていますか。
THANKSBOOKS「その部分については私たちも簡単にお話しできることではありませんが、当分はこのまま続けられるのではないかと思います。 何軒もなくなって、何箇所かはまた新しくできながら、ですね。 幸いなのは私たちも来年に10周年を迎えする予定であり、各地で3年、5年、10年を超える小さな本屋が生じているという点です。今営業している書店たちが長く一緒に続けることができたらいいですね」
――最後にTHANKSBOOKSの現在の目標、そして今後の予定、企画していることがあれば教えてください。
THANKSBOOKS「弘大の前にある書店としてはトレンドや変化にいちはやく反応しながら、同時に全ての年齢の方々が気軽に入れる書店になってほしいです。 毎月開催されているショーウィンドウの展示はもちろん、企画コーナーとともに昨年から継続して行っているトークプログラムをはじめ、様々な方法で本と読者を繋ぐ空間になろうとしています」
photography Ryoko Kuwahara
text Sunkyung Ahn/Shoko Mimbuta/Ryoko Kuwahara
THANKSBOOKS 땡스북스
57−6 Yanghwa-ro 6-gil, Seogyo-dong, Mapo-gu, Seoul, South Korea
Tel: +82 (0)2 -325-0321
Opening hours: 12:00-21:00
Instagram:https://www.instagram.com/thanksbooks/