オンライン書店や電子書籍の波に対抗することで、新しい書店のあり方が問われている。ベルリンのクロイツベルク地区に佇むZabriskie(ザブリスキー)は、カルチャーと自然に特化したインディペンデント書店だ。カフェ併設の店内に漂う、アンビエント音楽と香ばしいコーヒーの香り。知的好奇心をそそるディープなセレクションと自然の声に耳を傾けるリーディングとイベント。オープンから早6年、オーナーであるLorena Carràs(ロレーナ・カラス)とJean-Marie Dhur(ジャン・マリー・デュアー)に新しい書店のアイデンティティについてうかがった。(→ in English)
ーーお二人とも以前は別の仕事をされていたそうですね。
Lorena「オープン前はここをプロジェクトスペースとして使用し、自然、環境、音、出版の芸術的実践に関する展示を手掛けていました。その頃から書店を開くというアイデアがあったので、Jeanに相談したんです。小さな書店を持つことが私の夢でした。オープン前はベルリンにある他のアートギャラリーでも働いてましたね」
Jean「NGOへの執筆、ワインバー勤務、週末はDJ と、書店を持つ前はいろんな仕事をしてました。大学では文学を勉強したのですが、当時は自分の書店を持つなんて思ってもみなかったです。でも今では赤い糸が見えるんですよ。サブカルチャーへの関心は私の人生にいつもありますしね」
ーーアートや写真など専門書店がある中で、カルチャーと自然に特化した書店はなかなかないですよね。
Jean「一番大切なのは、棚にわたしたちが好きな本だけあるということ。大手オンライン書店よりもわたしたちがより特別な存在なのは、そこにかなり個人的な繋がりがあるから。そして、紹介する本への深い知識があり、それをカスタマーに提供できるからです。お金を稼ぎたいなら、書店を開かない。本が大好きだから書店を開く、とても特別かつ個人的な興味関心のために専門の書店を開くんです。わたしたちは自然と環境、サブカルチャーとカウンターカルチャーに関心があったので、そこに焦点を当てることは理にかなっています。それに、わたしたちが関心を抱くトピックの多くは他の書店では過小評価されているので、その点を埋められるニッチがあると感じますね」
Lorena「嬉しいことに、多くの人たちがエコロジーや環境の変化に興味を持っています。みんな心配していますし、物事をよりよくする方法についてもっと知りたいんです。もちろん、利己的なグリーン・キャピタリズムもありますが、より多くの人が目を覚まし、自分たちの生き方を変えなければならないことに気付いています。そして幸いなことに、科学者だけでなく多くの作家や芸術家が環境や自然、気候の重要性を発見し、これらのトピックに関する本やアート作品が出版されているんですよ」
ーーカルチャー色が強くここでしか見つからない本が多い印象ですが、どうやってセレクションしているのですか?
Lorena「最初は250〜300タイトルしかありませんでした。それから今のセレクションに発展しましたね。本の見つけ方には様々な方法があります。好きな出版社、他の書店、ブックフェア、友人や顧客からの推薦。でも主にインターネットやブログを通したリサーチですね。あと他の本の参考文献目録やマガジンなども挙げられます」
ーー店名はミケランジェロ・アントニオーニ監督の『砂丘(Zabriskie Point, 1970)』から名付けられたそうですね。
Lorena「そうなんです!名前選びはちょっと大変でした。映画や風景、カウンターカルチャーに関連する一方で、特別な名前を付けたくて。もう一方は解釈のために非常にオープンであること。Zabriskie、これは結局のところポーランド人の名字です。例えば、メキシコのコミューンの曖昧な名前などたくさんの名前を考えました。でも最終的にサイケデリックなカウンターカルチャー映画のタイトルに惹かれたんです」
Jean「同作はワイルドネス、サイケデリック、反乱、カウンターカルチャーといったトピックを扱っています。名前はどことなく取り残されていますよね。今ではパスポートに載っている本名ではなく、書店の名前で呼ばれているんですよ。現在わたしたちはザブリスキーズです」
Michelangelo Antonioni『Zabriskie Point (1970)』
ーー 一度覚えると忘れられない名前ですよね。定期的に開催されるリーディングイベント、“Between Us and Nature – A Reading Club”について教えてください。
Lorena「リーディングクラブは3年前にアーティストのEva Fiore Kovakovskyとエコロジーとアートに関する研究者のSina Ribakから提案されました。アナ・チン著『マツタケ――不確定な時代を生きる術(The Mushroom at the End of the World: On the Possibility of Life in Capitalist Ruins, 2015)』や彼女が寄稿しているエッセイ集『Arts of Living on a Damaged Planet – Ghosts and Monsters of the Anthropocene(2017)』などの本を取り上げて、テキストを読み、あとがきについてディスカッションをしたんです」
ーー実際にどんな人たちが参加されるのでしょうか?
Jean「アーティスト、科学者、研究者、キュレーター、学生など、さまざまなバックグラウンドや異なるアプローチを持つ人たちが参加します。大半が女性ですね」
ーー専門家を招いて散歩をするウォークイベントもZabriskieらしい企画ですよね。
Lorena「2016年より毎年春から夏にかけて、近隣に生息する植物や鳥について詳しく知るためのウォークイベントを開催しています。所要時間は約2時間、近所や市内の他のエリア、ベルリン周辺の田舎を歩くんです。友達で自然療法医のDanielが植物のウォークイベントをしています。第一回目は店の周辺を一周しました。このとき20種類以上の薬草が見つかって、効能や用途などDanielがこと細かに教えてくれたんですよ」
Jean「街中に生えている野草なので、ハーブティーや薬には使用しないほうがいいですね。車や犬のおしっこなど細塵がたくさんついてますし。公園は大丈夫ですが、普通の道路は控えましょう。参加者には後日メールでイベント中に教わったすべての内容を送るようにしてます」
Lorena「バードウォークのガイドは、ジャーナリスト兼生物学者のChristian Schwägerl。ブランデンブルグの森で開かれた共通の友人の誕生日パーティで、バードウォークをしていた彼に出会いました。それで、お互いの地域であるベルリンで一緒に何かをしようというアイデアが生まれたんです」
ーー楽しそうですね!本だけでは得られない体験がたくさんありそうです。
Lorena「さらに美しいのは、都市生態系にいる他の生物を直接体験できることです。散歩中、わたしたちはとてもゆっくり進み、静かになり、たくさん耳を澄ますでしょう。わたしたちの周りにいる他の生物たちが持つより優れた感覚を得られます。まさにその瞬間にいる、禅のようなんです」
ーー書店として温暖化など地球が抱える問題についてどう向き合っていますか?
Jean「もちろん本や読書を通じてですね。わたしたちが持っている本は、環境に対するあらゆる視点とアプローチを提供し、人類中心の世界観から離れることを助けます。わたしたちが現在生きている状況は危機的ですが、終末論的ではなく、その状況でポジティヴに生きるために役立つたくさんの本があるんですよ」
Lorena「リーディングクラブもそう。植物、動物、海洋、環境全体に対する人間行動の必要な変化に関するとても大事な問題に取り組んでいます」
ーー最後に、これからの活動について教えてください。
Jean「3月末にここから50m先へ移転します。角を曲がって30秒のReichenberger Straße 150です。今よりスペースがあって明るいのですが、この近所にとどまることに変わりはありません。将来的にはリゾプリントのZINEやスモールブックを取り扱う小さなパブリケーションも始めたいですね」
Lorena「近いうちに別のフィメール・リーディンググループを企画しています。文学、科学、芸術における女性の視点にフォーカスして、あまり知られていない女性思想家に関する本を読むというものです。また、街の風景を認識することにフォーカスした、今までとは違うウォークイベントも導入します。そのうちの1つは、ベルリンに残る氷河期の痕跡を探索するという内容です」
photography Martina della Valle
text Yukiko Yamane
Zabriskie
現住所:Manteuffelstraße 73, 10999 Berlin Germany
2020年4月1日以降:Reichenberger Straße 150, 10999 Berlin
営業時間:月〜土 12:00〜19:00 (日曜定休)
電話:+49 30 695 667 14
Website:www.zabriskie.de
Instagram:https://www.instagram.com/zabriskiebuchladen/