本は時に読者にも物語を生むことがある。読書を通して新たな交流が始まったり、本で得た知識が現状を打破するきっかけとなったり、あるいは1冊の本が人生の生き方をも変えてしまうことさえある。
本書『書店主フィクリーのものがたり』はそんな作品だ。
島に1軒だけの本屋を妻と2人で営んでいたフィクリー。しかし、妻を事故で失い、いまはただ1人。しかも、売れば大金になるはずの稀覯本まで盗まれてしまう。愛する妻と財産を失い失意にくれるフィクリーだったが、それでも彼は本を売り続ける。そんな、ある日、書店の中にぽつんと幼児の女の子が置き去りにされていた。彼女の名前はマヤ。フィクリーは彼女を育てる決意をする。マヤをきっかけに書店に集まって来る島の人々。普段はあまり本を読まない島民まで店に足を運ぶようになり、いつしか、みなが本を読み、買い、語り合うようになっていった。そんな中で、本好きになったマヤはすくすくと成長し……
本書にはフィクリーという男の心情や人柄を表すような実在の名作が多数登場する。海外文学に親しんでいる人は思わずニヤリとしてしまう場面も多いかもしれない。普段あまり本を読まない人は本書をきっかけに興味の湧いた本を手にとってみるのもいいだろう。
きっとそこから新しい物語が始まるはず。
『書店主フィクリーのものがたり』
ガブリエル・ゼヴィン
早川書房
1870円
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