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text by Yukiko Yamane
photo by Pro qm

Can’t live without Books : Interview with Katja Reichard from Pro qm(Berlin)/ 書店特集:プロ・キューエム カティア・ライヒャード(ドイツ・ベルリン)インタビュー

©️ Katja Eydel


1999年のオープン以来、ベルリンの中心からこの街の変化を見つめ、議論してきたPro qm(プロ・キューエム)。”1平方メートルあたり”という名の店内には、建築やデザイン、政治や都市開発など厳選された本がテーマ別に並ぶ。そのセレクションはクリエイターや他の書店からの評価がすこぶる高く、口コミで訪れるものが後を絶たないほど。今回ベルリンのインディペンデント書店を語る上で、パイオニア的存在である同店のインタビューは外せなかった。Pro qmの共同創設者兼ストアマネージャーであるKatja Reichard(カティア・ライヒャード)の言葉には、ベルリンの書店シーンの過去と今が詰まっている。(→ in English


ーーまずはPro qmオープンまでの経緯を教えてください。


Katja「90年代前半に共同創設者であるJesko Fezer(イェスコ・フェザー)とAxel Wieder(アクセル・ヴィーダー)に、アーティストとして出会いました。当時のベルリンは壁崩壊後だったので、至る所で再建工事の真っ只中。街が急激な変化を遂げる中、わたしたちには文化的なプロジェクトや議論ができる場が必要だったんです。拠点にミッテ地区を選んだのは、この街の中心で議論をしたかったから。当時のミッテ地区は今より安価な空きスペースがたくさんあって、わたしも大学卒業後に別の友達とプロジェクトスペースを持っていたんですよ。それから3人でPro qmをオープンすると決めました」


ーーなぜアートスペースではなく書店だったのですか?


Katja「わたしたち3人のメインフォーカスは”都市”。当時はそれに関する本を読み漁りました。特にアメリカ人アーティストのマーサ・ロスラー著『If You Lived Here: The City in Art, Theory, and Social Activism(1991)』はとても大事な1冊。90年代の大きな社会問題だったニューヨークのホームレスネスについてのドキュメンテーションです。こういった大事な本を取り扱いたい、わたしたちのコミュニティや他のアーティストへ向けて発信したいという思いから書店という形を選びました。なので、ベストセラーではなく、私たちが好きな本を取り扱っています。また、ここが議論のプラットフォームであることに変わりはありません。書店の経営については、友達の書店b_booksから教わりました」


ーー2007年に一度移転されていますよね。


Katja「前の場所はジェントリフィケーションの影響で家賃が4倍にまで高騰してしまって、2007年に現住所へ移りました。現在、Jeskoは設計理論の教授として主にハンブルグ、Axelはキュレーターとしてノルウェー拠点です。ベルリンに残ったわたしがストアマネージャーを務め、素晴らしい仲間と一緒に運営しています」


ーーPro qmといえば、書店の枠を超えた活動も注目されています。


Katja「オープン当初からたくさんのプレゼンテーションやアートプロダクションを手掛けてきましたね。2000年には、デザインチームBLESSとともに“Ars Viva”というアート・プライズを受賞しました。これはドイツの文化支援団体Kulturkreis des BDIが、毎年新人アーティスト数名に贈る賞です。Pro pmは建築やデザイン、都市に関する“参加”についてリサーチを担当しました。受賞後はBLESSとともにドイツ国内3ヶ所のミュージアムで展示をしたんですよ。でも実は審査員の間で書店はアートに含まれるのかということについて議論が起こったとか。正直BLESSもデザインかアートかカテゴライズできないじゃないですか。同じくPro qmもカテゴライズできないんですよ」



©️ Katja Eydel


ーーたしかにBLESSとPro qmには似たものを感じます。Katjaさんはベルリン出身ですが、これまでの書店シーンはどうでしたか?


Katja「当時からインディペンデント書店はありました。70年代後半にオープンしたクィア書店Prinz Eisenherzやフェミニスト系の書店、もちろんBücherbogenも外せません。大学近くにあるKiepertはとても大きな書店で、たまに英語の本をオーダーしていました」


ーー当時、ベルリンでも英語の本は取り扱われていたのでしょうか?


Katja「ほんの一部の英語書店以外は、ドイツ語の本がメインでした。インターネットが普及する前だったので。Kiepertには電話帳みたいな大きなカタログがあって、それを見て英語の本をオーダーするんですよ。著者とタイトルを探して小さなオーダーカードに記入、それをスタッフに渡して本が届いたら受け取るというシステムです」


ーー時代ですね。2000年代後半からベルリンのインディペンデント書店は増え始めた印象です。


Katja「スペシャルな書店が増えましたね。自然と文化にフォーカスしたZabriskieやイスラエルやポーランド、スペイン、アラブ系の書店など、一気に多様性が広がったと思います。do you read me?!やROSA WOLFといったファッションマガジンを取り扱う書店もできましたし、ZINEに関してはやっぱりMottoですね。当初は『Pro qm』もファッションマガジンやZINEを今よりたくさん取り扱っていたのですが、彼らの登場もあり数を減らしました。わたしたちはフレキシブルなので」


ーーそのときの状況に適応していくんですね。


Katja「呼吸するようにね」


ーー電子書籍など出版業界のデジタル化についてはどうお考えでしょうか?


Katja「正直どちらでもいいと思っています。例えばよく旅行する人は電子書籍の方が便利でしょうし。実はわたしも1〜2冊持っているんですよ。でも普段はタイポグラフィーやヴィジュアルを覚えてページを進めているので、電子書籍だとそれが難しい。あとみんな一日中コンピューターの前で過ごすと思うので、読書もデジタルとなると疲れますよね。コンサバティヴですが、やっぱり紙がいいです」





ーー紙媒体が厳しい状況に反して、ベルリンではインディペンデントマガジンが常に誕生している印象です。書店という立場から見て、このことについてどう思いますか?


Katja「まだ他の都市と比べて家賃も物価も安いからだと思います。家賃を払うために他の仕事を掛け持ちしなくても、プロジェクトに集中できる可能性がある。それに昔と比べて出版のプロセスが簡単になりましたよね。もちろんいいことなんですけど、一方で作ったことに満足して次に繋がっていない状況を懸念しています。ベルリン市内であれば配送など自己管理できますが、他国となるとどうでしょう。本を輸出するには時間もお金もかかります。なので、続けるためにもディストリビューションをどうするのかしっかり考えるべき。少なくとも2度考えるべきですね」


ーーとても的確なアドバイスですね。「本が好きすぎて在庫過剰が課題」と過去のインタビューで語られているのを拝見しました。


Katja「そうなんです。しっかりマネージメントしなければと言いつつ、大好きな本はいつも棚に残しておきたいじゃないですか。他のスタッフからその本はもうみんな持ってるしわたしたちは図書館じゃないと指摘されますが、やっぱり再オーダーしたいですし、そこは葛藤しますよ。今はできるだけ旧作のオーダー数を減らして、新作に目を向けるように心がけています」


ーー最後に、Katjaさんにとって書店とはどういう場所ですか?


Katja「職場であり生活空間。Pro qmなしの生活は考えられません。それに自分が出かけなくても人がここに集まってきてくれるというのもいいですね。気負わず、簡単に出入りできる。ここはハードルの高くないオープンな場所です」





photography Pro qm
text Yukiko Yamane


Pro qm
Almstadtstraße 48-50, 10119 Berlin Germany
営業時間:月〜土 11:00〜20:00 (日曜定休)
電話:+49 30 24728520
Website:www.pro-qm.de
Instagram:https://www.instagram.com/proqm/


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