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text by Shoko Mimbuta/Ryoko Kuwahara
photo by Yudai Kusano

真夜中の物語:マリア / Midnight Stories : Maria




口承、書物、インターネット、様々な形式はあれど、人々は昔も今も“物語”を求めている。物語は人々の糧や指針、支えとなり、時に孤独を癒し、時に憧れや憎しみを生みながら、人々に寄り添い続けてきた。現在のSNSも自分の物語を語り、また人の物語もまた指先一つで瞬時に覗き見ることができるツールとして爆発的に広がりを見せたと言えるだろう。『真夜中の物語』特集ではそうした中でも、私たちが自分の内なる深遠さを覗き込む真夜中という時間に生まれる物語、真夜中に寄り添う物語などに焦点を当て、人との関わりから離れた時間にこそ浮かび上がる自分自身を見つめ直す。ひいては他者との関係に終始晒されている現代において、自分の時間をもち、思考、想像、創作する大切さを改めて考えたい。
真夜中の闇に感覚を研ぎ澄まし創造をする人間もいれば、剥き出しになる自我や欲望に対面する人間もいる。真夜中を主たる時間として活動するセックスワーカーのマリアが対面してきた時間と人、そして己の物語を聞いた。


ーーマリアさんのお仕事の内容を具体的に教えていただけますか。


マリア「私は高級デリヘル(デリバリーヘルス)と呼ばれる種類のお仕事をしています。個人ではなくお店に所属していて、ドライバーさんにお客様の自宅やホテルへ車で送っていただいて、お客さまと時間を過ごすというものです。食事をするだけのデートコースもありますが、基本的には性的サービスをするパターンが多く、私のお店では本番と呼ばれる性行為は禁止とされています。60分で何万円いうサービスに加え、交通費を頂いているので、金銭面に余裕のある方が多く、そういう方はお仕事や人間関係で非常に疲れていらっしゃったりするので、実際には性的サービスをする時間よりもくつろぎながらお話をするような時間が長かったりもするんです」


ーーホステスなど他にも夜のお仕事がある中で今の形態を選んだのはなぜだったんでしょう。


マリア「まず、私の中でクラブやキャバクラ、ガールズバーは複数の人と対話して場を盛り上げるものという認識があって、みんなで喋る場では黙ってしまう性格だから向いていないんです。また、キャバクラの場合は営業でLINEが必須になりますよね。常に営業連絡をするより、風俗界でその時間内に好きになってもらって、また来てもらうという方が潔くて良いなって。今の業種を選んだのは、単純に一番お給料がもらえるというのと身体が一番楽だからです。また、お客さまの質が高いので、普段だったら会えないような方々とお話をすることで自分の見識を広げるチャンスでもあります」





ーーこの仕事をはじめたきっかけはなんですか。


マリア「私は17歳で家出をしてNPO法人に引き取られて、高校卒業までシェルターとかステップハウスと呼ばれる虐待から身を守るための家に住んでいました。卒業後はもう守ってもらえないので自分で生きていくしかなかったんです。そのあとは親の薦めで看護系の高校に通っていたのもあって、寮のある病院で勤務しました。未成年だと親の保証がないと家も借りれず、寮付きの病院を選んで働いていましたが、看護助手はお給料が月に8万円、その上夜勤もあるし、人がどんどん死んでいってしまうのを見ていないといけない環境で、体力的にも精神的にもキツくなってしまって。どうにか抜け出したいと思ったんですが、誰にも頼ることもできなかったので、夜のお仕事を始めました。それが19歳の頃です。右も左も分からないので川崎のある寮付きのピンクサロンに務めたものの、どんなお客さんでも入れてしまうようなお店だったので客層も悪く、お店側からのスタッフのケアも行き届いていない劣悪な環境で。そこを20歳になるタイミングで辞めて、お昼の仕事としてダーツショップで器具の販売をしていました。専用器具を取り扱っていたので知識も必要で、その知識をもとにお客様に説明をして販売するんですね。とにかくピンサロを辞めたくて始めたんですが、売り上げを上げるのが楽しくなってきて、自分のグッズを売るまでになったくらい営業の業績を積めたんです。すごくやりがいを感じましたし、接客業が向いているという特性を自分で発見することができました」


ーーその特性についてですが、接客する上で自分なりのノウハウがあったとしたらどういうものだったんでしょうか。


マリア「いかに信頼してもらえるように話すかが大事だと思います。ダーツをする人口は男性8割、女性2割なんですが、女性がダーツショップで知識を披露しても、俺の方が知識があると思われたり知識の戦いになってしまうことも多くて。そうならないように、ちゃんとした知識を入れて丁寧に説明すること、お客さまの方が知識があったらそれをちゃんと受け入れて話す素直な接客スタイルは心掛けていました。そうすることで、お客様もだんだんと心を開いてくれて信頼してもらえてリピーターになってくれたり、他のお客さまを連れてきてくれたりするようになったんです」


ーーああ、それは接客だけじゃなく、他のお仕事や対人にも通じるお話ですよね。そこから夜のお仕事に戻られたのはどうして?


マリア「2、3年ダーツのお仕事をしていたんですが、ある日ふと思ったんです。お客さまのほとんどが男性で、やってることの本質はピンサロと変わらないんじゃないかって。同じ接客業だけど、そこに身体が伴うことでお給料が違ってくるだけだと。そう思って、夜の仕事に戻りました。同じデリヘルでもお店によって対応が違うので、今のお店に決めるまでに何軒も体験入店を繰り返してお店の実態を見たうえで今のお店に決めました。最初のお店で苦労したので、働く側としてもちゃんとお店を選んで働きやすいところを見つけるのは大事だというのは痛感していました」





ーー先ほど、やってることの本質は同じでそこに身体が伴うだけで対価が高くなるというお話がありましたが、その考えに行き着くには、まずは生活のためのお金が必要だという考えがあったからでしょうか。


マリア「そうです。でも正直にいうと、遊びたかったというのもあります(笑)。派手な遊びということじゃなくて、普通に飲みに行ったり、友人の誕生日会やお別れ会には絶対に行きたかったけど、昼間のお仕事だと時間もお金も限られますからどうしてもできないことが多くて。今は目標金額を貯めたらこの仕事を辞めて、そこから新しく何かできたらいいなと思っています。やっぱり風俗という仕事は、若ければ若いほど稼げる仕事。普通のお仕事は年数を重ねるほど、スキルをつければつけるほどお給料が上がっていくものだと思うんですけど、逆に風俗は続ければ続けるほど減少すると私は認識していて。それをわかったうえで人生設計をしたほうがいいなって」


ーーすごくしっかりした考えですね。起業も視野に入れていますか。


マリア「はい。会員制のフィットネスを考えています。いまのお客さまたちのように高収入で会食する機会が多い方は高カロリーのものを食しがちで、健康が心配ですから」


ーーやはり身体に向き合うことに興味があるんですね。元々勉強されていた医学の知識も応用できて良いですね。マリアさんのお仕事はとてもプロフェッショナルな姿勢を求められる接客業ですが、セックスワーカーに対しての偏見が根強いのも事実です。そうした偏見を感じる場面もありますか。


マリア「はい、そういうことは多いです。お客さんと接しているときが一番多いですね。深い意味はないのかもしれないけど、元々がセックスが好きなんだろうと決めつけてそれを言葉にしたり態度でぶつけてくる方もいますが、必ずしもセックスワーカーがセックスを好きで商売にしているわけではない。その認識が浸透していけばいいなと心から思います。お金を払われていても私たちが売っているのは性的サービスであって個人の尊厳ではない。酷いことを言われたらもちろん傷つくし、風俗を利用する上でやってはいけないことなんじゃないでしょうか。
セックスワーカーじゃなくても私生活で遊んでる人はいるだろうし、逆にセックスワーカーでも遊ばない人もたくさんいるので、職業は関係ないと思うのですが、勝手な決めつけでそういう風に言われるのは本当に悲しくなります。いまNetflixで配信されている『全裸監督』に対してのTwitterなどでの感想などを読んでいても偏見が凄まじくて本当に悲しくなりました。外国の方の接客をすることもあるんですが、『全裸監督』を観て日本の女性はこうなんだって信じてしまっている方もいて、及ぼす影響に対してあまりに考えがない描かれ方だなって。自分で選んだ職業ですし、偏見を持たれるのも仕方がないと多少はわかりますが、個人の尊厳って、その人の仕事に左右されるものじゃないはずですよね。夜のお仕事をしていると心ない言葉をかけられたり、許せないことをされたり、そういうことがすぐ身近で起きるんです。でもそれは仕方ないで済まされていいものじゃないはずなんですよ」


ーー本当にそう思いますし、常に自分が偏った見方をしていないか自問自答していくことや、いい意味で想像力を持って人に対峙することが大切だと思います。最後に、マリアさんいとって真夜中ってどういう時間か教えてください。


マリア「真夜中は私にとっての日常なんですが、修行の時間だと思って過ごしています。傷つくことや塞ぎ込んじゃうようなことがあった時に、ちゃんと瞑想して自分の考え方を決めたり、昇華させるための時間。夕方に起きて朝5時に寝る生活をしているから、なんでこの人と一緒にいた時にイライラしちゃったんだろうというようなことを夜中に瞑想して、答えを出していくんですね。それを繰り返すことによって自分が強くなっていく感覚があります」





photography Yudai Kusano
text Shoko Mimbuta/Ryoko Kuwahara
edit Ryoko Kuwahara

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