NeoL

開く
text by Yukiko Yamane
photo by Chihiro Lia Ottsu

14 Issue:Erochica Bamboo(Burlesque Dancer)




年齢は単なる数字であって、オトナになるという境界線は人ぞれぞれ。定義できないからこそ、誰もが答えを探している。多感で将来のことを考え始める14歳の頃、みんなは何を考えて過ごしたのか?そんなファイルを作りたいと始まった「14歳」特集。東京、NYに続くベルリン編には、年齢やバックグラウンド、仕事の異なる個性豊かな15名をピックアップ。
12本目は世界で活躍する日本人バーレスクダンサー、エロチカ・バンブー。日本のキャバレーやナイトクラブで経験を積み、2003年にカリフォルニアで開催されたバーレスク世界大会にて最優秀賞「ミス・エキゾチック・ワールド2003」を獲得。今年で芸歴35年を迎える今もなお、現役ダンサーとして世界のショービズ界を渡り歩いているレジェンドだ。常に道を切り開いてきたバイタリティ溢れる彼女の14歳とは?(→ in English



ーー14歳のときはどんな子でしたか?


エロチカ「シャイで1人が好きでした。親は放任主義で、父は会社を休んで撮影へ行き、社交ダンサーの母は踊りに行っては終電で帰って来てましたね。わたしもよく1人で出かけては、ライヴや映画を観てました。親戚のお姉さんが貸してくれたビートルズやクリーデンス・クリアウォーター・リバイバルの影響で、洋楽にハマって。周りは聖子ちゃんで騒ぐ中、日本語のラブソングに照れてたわたしは洋楽の美しいメロディに惹かれて毎日聴いてたんです。ネットがない時代。情報は雑誌かテレビ。そしてどこかへ行きたいという気持ちは常にありました。手っ取り早く行ける外国はアメリカの雑誌。『Seventeen』を買って、そこに載っているサンドウィッチのレシピを見て作ったり、多様性のある人種や日本にないカラフルで綺麗な色彩から海外を夢見たりしてました。中学でアメリカ留学の話が出たのですが、親に早過ぎると言われてダメでしたね。土曜日は東京12チャンネル(現在のテレビ東京)で放送してる『午後のロードショー』を1人で鑑賞。ラス・メイヤーとか海外のB級映画をやってたんですよ。その頃からメジャーよりマイナーに興味がありました」


ーー14歳のときにどんな24時間を送っていたか、円グラフに書いてみてください。





ーーでは、14歳のときにどんなことを考えていましたか?





ーー円グラフを拝見したところ、毎朝泣いていたとか。


エロチカ「明るくて夢見る世界の女の子でしたが、同時に孤独感もあって寂しくてしょうがない。とにかく毎朝5時に起きて外を見て泣くんです。でも時間を決めてました。きっちり。漠然とした孤独感に泣くことで、どこか解消しスッキリして登校してましたね。アンニュイな子たちに憧れもあったけど、自分はなれない。でも孤独感はあるし、学校は行かなきゃいけない。感情豊かで能天気でとてもセンシティヴでした」


ーー当時の思い出でよく覚えていることがあれば教えてください。


エロチカ「家庭科の授業で”子どもが生まれたらどういう生活をするか”という課題が出たんです。周りはこんな奥さんになりたいとか盛り上がっている中、”何で?子どもを作るかどうかわかんないじゃん”と思いましたね。わたしはいかにもいい奥さんになりそうだったらしく、周りから”ちかちゃんはすぐ結婚していい家庭築くよ”と言われたけど、”はあ~?勝手に決めるな”と感じてて。普通に友達はいるけど1人が好きで、どこのグループにも属せなかったんです。自分の時間との線引きがあるんですよね、今もそうなんですけど(笑)」


ーー14歳のときに抱いていた夢は何ですか?


エロチカ「アーティスト。とにかくアーティストになりたかったんです。それしかなれないと思い込んでいました」





ーーそれでバーレスクダンサーになったのですね。


エロチカ「最初は人前で裸になる踊り子にはなりたくなかったのですが、3年目で色々気付かされて決着をつけたんです。そして大好きになりました。それまでは大嫌いで辞めることしか考えてなかったのにね(笑)」


ーーそもそもどういう経緯で始まったのですか?


エロチカ「ある舞踏カンパニーの合宿に参加した際にスカウトされました。そこでは脱落者が出るほど体力的に辛い目にあって。当時は美大で油絵を専攻してましたが、将来が見えなかったんです。体はしんどいのになぜか踊りの世界に惹かれ、結局そのカンパニーに所属したものの、お金を稼ぐ仕事はキャバレーのショー。当時はバブル期、踊り子もすぐ逃げちゃうから誰でも即ステージに上がるという風潮で、たった3日間練習してそのままデビューすることに。わたしは体型もチャビーだし、化粧もできない、衣装もお下がり。観客からも”引っ込め!”とブーイングが出る始末。でも3ヶ月先までスケジュールが埋められていて逃げられない。今じゃ考えられないですよね?(笑)だけどなぜかこの世界に魅力も感じてたんです。ある時期これはしょうがないと諦めました。踊れない、顔も不細工、デブ、オバハン。それじゃ逆にオバハンの踊りを作ろうと思ったんです」


ーーネガティヴな部分を強みにしたのですね。


エロチカ「そのブーイングのお陰で、自分次第でネガティヴなこともポジティヴに変えられるんだと気付かされました。わたしはオリジナルなんだからこういうのもあっていいじゃん!と思い、コメディに路線変更したんです。そしたらいきなりウケちゃって。”なんだ、これでいいんだ”。本当はそういう踊りをやっちゃいけないんですけど、”無理でしょ!”って(笑)。今まで感じていた綺麗な人しか出ちゃダメというルールを壊しました。辛い3年間から得た決心のおかげで体型もメイクもショーダンサーに生まれ変わり、ショーが大好きに。なんといってもキャバレーというわたしの好きなBカルチャーの世界を楽しまないと!それからカンパニーが解散して1人になり、ドラァグクィーンとショーをした時期などを経て海外へ。色々行ったけど台湾、北米、日本、ヨーロッパという流れで今に至ります」








エロチカ・バンブーのバーレスク人生はこちらから:https://www.designstoriesinc.com/writers/erotica_bamboo/


ーーバーレスクダンサーを始めてよかったこと、大変なことはありますか?


エロチカ「大変なことは言うほどないかな、あ、でも荷物が多いことはつらい!(笑)最初の3年間は自分のスタイルが分からなくて辛かったけど、それ以外本当にないんですよ。ヤクザに騙されそうになったけど、持ち前の明るさで冗談みたいな解決法を生み出すとか。いろんな人に出会えるのはおもしろいですね。皇室からヤクザ、医者や社長から日雇いのおじさんまで。10代からやってるし常に旅するので、この世界から社会を教えてもらいました。あとエネルギーが見えてくること。踊ると会場の空気が見えて、自分次第でその色が変わることに気付きました。お客様の元気があればエネルギーが大きくなってグルングルン返ってくる。同様に疲れたお客様ばかりのキャバレーだとこっちも疲れたり。ドイツのキャバレーショー『LET’S BURLESQUE』では台風のような渦が起きます。写真では伝わらないライヴ感、それはその場にいないと感じられないものです。ダイナミックでグラマラス、すごくパワフル。それを味わうのが一番楽しいんですよ。バーレスクは本来バラエティに富んでるもの。8頭身、コルセット、道具を使うものだけがバーレスクじゃないんです」 





ーー14歳のときに影響を受けた、大好きだったものはありますか?


エロチカ「横尾忠則の自伝や、村上龍『限りなく透明に近いブルー(1976)』は当時のわたしにとって衝撃的でした。洋楽は60年代のポップに夢中で、ビートルズのジョン・レノンが好きだったんです。『絵本ジョン・レノンセンス (1964)』は未だに持ってますね。彼の世界観は訳がわからないけど(笑)。彼の言葉から人と一緒じゃない方がいい、インディペンデントであれということを教わりました。映画はやっぱりB級映画。そこにはいろんなこだわりが見えます。ストーリーじゃなくて映画のシーンを断片的に覚えてるんです。カウボーイのいる退屈そうな荒野や、雨の降る暗いお屋敷、世の中に相容れない不良の泣きっ面とか、田舎町のダイナーで働く訳あり女性のファッションや、彼女が入れるコーヒーの湯気とか。匂うんです!だからいろんな要素を取り入れられるバーレスクをやってるんだと思います。まさにコラージュ、それをオリジナルにするんですよ」





ーー当時の自分に伝えたいことはありますか?


エロチカ「不安やカオス、キラキラした楽しさとか、そのときにしか味わえない感情がたくさん出てくるけどしっかり味わって。全て今の希望に繋がります。人生の最終目的に辿り着くには、繊細で大人かどうか分からないこのハテナな時代がとても大事。答えが出ないことが最高に楽しいって伝えたいですね」


ーーいま14歳を生きている人たちに伝えたいメッセージはありますか?


エロチカ「とにかく好きなものを選んで。それがそのときに必要なものだから、今これがほしいと思ったものに忠実になること。でも世の中に出るとそれを挫かれることが出てくる。それでも”うるさい!”と言って突き進んで。周りに合わせなくて大正解。空気読まなくてOK。自分の中にあるクリスタルを大事にしてもっと磨くんです。それが何なのか未だに分からないけど、クリスタルが転がるままに進んできた人生だから。辛いことも恥ずかしいことも含めて気軽に行こうよ!川上音二郎の’’心に自由の種をまけ、オッペケペー!’’で。あと行ける人はぜひ海外へ。客観的に日本を見れると思います」


ーー最後に何かお知らせがあればどうぞ。


エロチカ「所属してる『LET’S BURLESQUE』のドイツツアーが9月から始まります。あとベルリンで『スナック人生』というポップアップスナックを、現地クリエイターたちのサロンとして月2ペースでオープンしています。東京からの反応がいいので、東京でもいつか開催したいですね。日本ではバーレスクについてまだまだ誤解がありそう。見たことのない人はぜひ見に来てください。日本からの出演依頼も募集中なので、いつでも声かけてね!」







photography Chihiro Lia Ottsu
text Yukiko Yamane


Erochica Bamboo
@erochica_bamboo_:https://www.instagram.com/erochica_bamboo_/




This interview is available in English

1 2

RELATED

LATEST

Load more

TOPICS