子どもが問う“なぜ?”“どうして?”には物の道理や理屈が通じないがゆえの鋭さがある。その子どもの持つ視点にも近い至極真っ当で純粋な世界への疑問を、培った知識や経験、センスでコーティングし、読む者の首元に突きつけるような鋭利さに磨き上げたインディペンディントマガジン『PETRICHOR』。軸となるコンセプトから作り手たちのストーリーが派生し、息づき、その伝播のためには過激さも厭わないが絶対的な品格を持つヴィジュアルと言葉たち。それらをまとめあげる4人――エディター/スタイリスト/デザイナー/音楽家と多くの表現方法を持つ編集長・歌代ニーナ、建築を学びアパレルへ転身したHIMAWARI、メイクアップアーティストであり自身のブランドglamhateを展開するDaisuke Fujiwara、特殊メイクの勉強中というLala Sagara――に、『PETRICHOR』との出会いや役割、それぞれに自由な表現を極めながらも共同作業を行う意義について語ってもらった。
――今回は家族写真というコンセプトをいただいての撮影でしたが、このコンセプトを提案された理由から聞かせてください。
歌代「『PETRICHOR』は私たち4人が内部スタッフとして在籍しているのですが、もともと家族っぽいノリでやっていたというのと、各々の立場がハッキリしているということ。あとは雑誌の中でセルフパロディをやっているくらいパロディが大好きなので、同じくらい作り込みたかったというのがあります」
Daisuke「この企画の前に“家族写真を撮ってみたい”という話が出ていたこともあって、コンセプトはスムースに決まりましたね」
――撮影でのヘアメイクやスタイリングはコンセプトを重視しながらも各自の個性が際立っていました。こういう場合はどのように意思疎通をはかっているんですか?
歌代「グループラインです」
Daisuke「でも、ウチらちゃんと写真送ったりとかしてこなかったよね? 結局バイブスで通じてる」
HIMAWARI「普段みんなでこうやって喋ってる話に内容全部が盛り込まれているんですよね」
Daisuke「特にニーナと私は日頃から服を着る時に勝手にテーマを決めがちなんです。テーマを設けることによって自由じゃなくなる、この“狭まる!”って感覚になるのが良くて、その範囲内で超ふざけるのが大好きなタイプ。今回のお父さんとお母さんも超嬉しかった」
歌代「で、HIMAWARIは日ごろから少年っぽい格好だから」
HIMAWARI「普段のままでしたね、無理ない範囲で」
――Lalaさんは?
Lala「……」
Daisuke「喋って?(笑)」
歌代「こうやって、普段から反抗期の娘って感じなんです。だから、私が服を選んで花柄のワンピースを着てもらいました」
――反抗期でも、お父さんの言うことはきくという感じですか?
Lala「まあ……一応?」
3人「(笑)」
歌代「ほら~! ひどくないですか?でも、この感じがかわいいんですよね。ね、Lalaちゃん? ね?」
Lala「……」
Daisuke「反応してくれない(笑)」
――今のお話でみなさんの立ち位置はわかりました(笑)。『PETRICHOR』の実務的な部分では、お父さんであるニーナさんがチーフディレクターを担ってらっしゃいますが、各ページの割り振りはどうなっているんでしょう?
歌代「それぞれに担当しているページがあり、そのページは好きにしてといった感じですね。私は撮影に立ち会ったり、モデルやフォトグラファーを紹介したり、全体的にテーマからズレ過ぎないように一応クリエイティヴ・ディレクションに関わっていますが、わりと各自に任せています。というのも、『PETRICHOR』に関わってくれている人たちは内部も外部もギャランティが発生していないんです。だからこちらが強要するというのは成立しないし、できない。できるだけ関わってくれた人の意見を尊重できるようにしています。そのぶんキャスティングが大事で、同じイメージが共有できる人じゃないと難しいですね」
――毎号テーマが設定されていますが、ニーナさんの個人的な体験や想いが投影されたテーマになっていますよね。その個人的なヴィジョンをスタッフはじめ協力してくださる方々に共有するというスタイルですか?
歌代「この4人はみんな友達なので、設定する前からなんとなく既に共有できていることが多いかな」
HIMAWARI「“今回このテーマにします”とカッチリ言うのではなく、普段の会話の中でニーナが“こうしようと思うんだよね”と言ってきたものをみんなで意見交換しながら作り上げていますね」
歌代「幸いなことに私の友達はみんな何かを作ることが好きだから、いつでも“こういうことがしたい”と話し合える環境にいるんです。“大人と子供”というテーマもその中の何気ない会話の中から生まれました」
――もともと3人で0号を作っていて、その後1号でDaisukeさんが参加されたそうですが、それぞれの参加のきっかけは?
Daisuke「0号の時からみんな知ってはいたんです。周りの友達から“Daisukeに近い子達がいるよ”というのは散々言われていたんですが、むしろそんなことを言われまくってしまったら“なんで私に合うかどうかアンタがわかるわけ?”みたいになっちゃって(笑)」
歌代「そう(笑)。ダイちゃんの親友を私はもともと知っていて、その子が“Daisukeはニーナと絶対に合う”と言い続けていて、でも私は私で人間嫌いだし……まあタイミングが合えばそのうちね~みたいな」
Daisuke「で、案の定タイミングが合っちゃってその瞬間に“はい~! 悔しいけどみんなが言う通りでした~!”ってね(笑)。そこからは鬼のスピードで近づきました」
歌代「初めて会ったのは2017年秋のAVALONEの展示会かな。私としては、何であろうと自分たちの力でゼロからなにかを作り上げている同世代は応援したいから、ダイちゃんが自分のブランド(glamhate)をやっていることを知って、応援したい気持ちはもちろんありましたし、私生活でもかなり合う感覚だったから『PETRICHOR』をやろうと声をかけました」
Daisuke「そういう意味ではお互い好都合だったんだよね。私も元々本作りに興味があったし、ニーナもメイクできる子を求めていたわけだし、キタ~!って」
歌代「HIMAWARIもLalaも同じ2017年に会ったんです。でもHIMAWARIは知り合い歴はもっと前からだったね」
HIMAWARI「うん。よく行くバーが一緒だったんだよね。でも、周りからは逆に“混ぜるな! 危険”的に見られていたらしくて誰も紹介してくれなかった(笑)」
歌代「案の定初めて会った時もなんか風船持って入ってくるわ、許せない感じのギャルメイクしてたし、なんなの!みたいな」
HIMAWARI「そんなことない!ギャルじゃない!(笑)」
歌代「で、なんか昼活しようとなって花やしきに行くことになったんだよね」
――えっ、「許せない!」って感じだったのに急に遊びに行くことになったんですか?
歌代「ヤバすぎてウケるって感じたんですよね(笑)。でも喋ったら気が合って、私から昼活しようと誘いました。それで大学で建築を勉強していたことや、空間デザインをやりたいという話を聞いて一緒に何かやろうとなったんです」
――『PETRICHOR』では建築の知識をどんな形で活かされているんですか?
HIMAWARI「必要なプロップを作ったりするほかに、撮影の時に被写体との距離を判断するのにも活かされていると思います。でもここでやっていることは、今まで学んできたことと全く違うので新しいことをやっているという感覚ですね」
歌代「こちらの目線から言えば、HIMAWARIは建築の勉強をしていた人だから、モノの配置や距離感の判断などに必要な立体的な考え方は抜きん出ていると思います。Lalaは、0号のメイクアップを担当してくれていた方が撮影に連れてきていて。そこからアシスタントの部分を担当してもらうことになりました」
――Lalaさんがニーナさんと会った時の第一印象は?
Lala「バイブスが似ているなって。私普段もメイクが真っ赤っかなんですけれど、まずそこが似てたから、“お?”って(笑)。ちょうどニーナが『PETRICHOR』をやるとなったのが2017年の夏で、出会ったのが秋だったのかな。どうしてもこの撮影現場に行きたいと思ったんですよね。そのときはメイクのアシスタントをさせてもらって、その後“アシスタントしない?”と声をかけてもらって。ずっと絵を描いていてインスタに載せていたので、ニーナが“Lalaシリーズ描いてみたら?”と言ってくれました」
歌代「私が中心になってみんなを呼び込んだ形ではあるんですけど、ダイちゃんとHIMAWARIは私が紹介する前から知り合いだったんだよね?」
HIMAWARI「でもそんなに深くはない関係だった。よっ友(“よっ”と挨拶しあう程度の間柄)くらいかな?」
――じゃあグループになってから気が合うなとわかったんですね。
歌代「2人ずつだとテンションが変わるかもしれないけど、グループとしては本当にちゃんと成立してますね。私たち今年一か月一緒にロンドンに行ったんですよ。同じ部屋に泊まってたけど、みんな共同生活に向いていないタイプだから“絶対いつか誰かが誰かのこと殺すだろう”って思ってたんです。でも大丈夫だった(笑)。それがビックリで」
Daisuke「初めての共同生活だったけど、楽しくてビックリしちゃった。また行きたいくらい。ここの4人は誰かがヘルプを申し出れば助けるけれど、それ以外は基本的に関心がないし干渉しあわないんです。4人ともなんとなく精神的に似通っているところがあって。同じテーマを考える時も、他の人とは違う“これだよね”という感覚が4人の中に共通しているんですよ。似たヴィジョンを持てるというところに信頼がおけるからこそ、説明しすぎなくても伝わる4人だし」
歌代「こういうバイブスで、みたいな適当な会話でわかっちゃう。あと私生活の話を深くしているということも大きいですね。大人と子供というテーマで話した時も、お互いピンとくるものが同じだった。そういう意味で本当に家族感が強いよね。3週間LINEしてないのにいきなり“てかさ~”で会話できちゃう」
――ニーナさんは音楽活動もありますが、『PETRICHOR』との比重はどうですか?
歌代「今は半々って感じですね」
――『PETRICHOR』とThirteen13ではアウトプットの仕方は違いますが、根幹は繋がるところがあるんでしょうか?
歌代「はい、裏方の私と表方の私という感覚です。でもThirteen13のMVも『PETRICHOR』がクリエイティヴ・ディレクションで関わっていますし、直結しているところもあり。歌の内容も近いし」
―― Thirteen13のMVのクリエイティヴ・ディレクションでは各自どんなことをされていたのですか?
HIMAWARI「『PETRICHOR』での役割と一緒です」
歌代「HIMAWARIとダイちゃんに画面越しに見てもらって、私がプレイバックしなくてもこの人たちがオッケーと言えばオッケーなんだと判断できるようにしています。予算があまりないぶん時間がかけられないので、例えば私がメイクしている間に、信頼がおける判断を私の代わりにやってもらえる人がいるのはありがたいです。キレイの定義も映像スタッフの方々のジャッジと私たちのジャッジでは違うので」
――なるほど。みなさんそれぞれにとって『PETRICHOR』はどんな存在なんでしょう?
Daisuke「さっきのロンドンでの共同生活の話がまさになんですけど、基本的に私は共同作業が苦手なんです。でもなぜか唯一上手くやれているのが『PETRICHOR』なんですね。だからここは私にとって人となにかを作ることを学ぶ場です。全部一人でやっちゃいたいタイプだったんですけれど、ここを通して人と作るのも悪くないなって思えました」
歌代「私も同じタイプなんですけれど、クリエイティヴは一人じゃできないこともあって。共同作業は人を信用しないと成り立たないし、信用する人を選ばないといけないですよね。そういう意味で、好きにやってもらいながらも一緒に作業できるようなこのチームはまさに家族的な存在だと思います」
HIMAWARI「私はモノ作りが好きなんですけれど、誰かにお尻叩いてもらわないと動けないんですよ(笑)。だから良い機会を与えてもらえてるなと思っています。たぶん自分ひとりだったら形に残す前に構想だけで終わってしまうので、お尻叩いてもらって完成できているという感じです」
Lala「私にとってはいろいろ教えてもらえる場だし、みんなお姉ちゃんって感じですね」
Daisuke「本当、教えてやってるよ」
HIMAWARI「最近反抗的だけれどね(笑)」
歌代「なんか、19歳の時の私にそっくりなんですよね。見た目も性格も何もかもそっくりすぎてなにかしてあげなきゃって思っちゃう」
HIMAWARI「初めて会ったときに言ってたよね。“ニーナの昔の頃にそっくりな子がいるからアシスタントになってもらおうと思う”って」
――そう言われてLalaさんはどうですか?
Lala「……」
HIMAWARI「照れるなよ!」
Lala「光栄ですよね(笑)」
Daisuke「反抗期というか、自我が出てきたのかな。ロンドンに行ったときも突然“特殊メイクがやりたい”と言い出して帰国後すぐに学びに行くなんて、そんじょそこらの20歳は思いつかないことだし思いついたところでやらない。なんか、ロンドン行ってから目覚めたよね。だから、パパママとしては色々感慨深いです」
歌代「私たちはユースじゃないけれど、下ができ始める年齢で。でも地位や名誉はまだないから偉そうにできないし、フックアップもそんなにできない中で、下の教育をどうすればいいか考えているところです。こうしろああしろ言うのではなく、彼らが自分のやりたいことを見つけて声を出せる環境を整えたいなって。そういうことに気づかせてくれたのはLalaかな」
――みんなそれぞれに専門分野を持っていて、一人でも活動できてしまうのにここに集まっているというクルーですよね。クリエイティヴは一人でやれない部分があるとはいえ、あえて“みんなでやる”動機となるものがなんなのか改めて聞いてみたいです。
歌代「メディアたるもの、全て完全に一人でやってしまったら主観でしかなくなってしまうと思うんです。ウチはジャーナリズム性を重視しているぶん、個人的すぎる色眼鏡を通してしまうのは避けたくて。だからある程度似た考えを共有している同士で集まることで、個人的すぎる感情をメディアに載せないということを心掛けられています」
HIMAWARI「私の場合は一人じゃだらけてできないから(笑)。それに、人とやるのは楽しいですし」
Daisuke「たぶん『PETRICHOR』に関わる全ての人は、“ニーナがいるから”やっているんだと思う。もちろんそれぞれみんなの信頼はあるうえで、根幹に“ニーナなら”と思ってやっているんですよね。そこが『PETRICHOR』が成り立っている最大の理由。初対面のスタッフの人と作業するとなっても、“あなたもニーナだからですよね? 私もなんです”というのを感じ取れているから一緒にやれるし、そこで謎の連帯感が生まれる。ニーナのパーソナル的なところがあるからできているんだよ。だからこそ、『PETRICHOR』にはニーナの編集後記が絶対必要。それを読むことで読者の人も“ニーナだから精神”を感じられるから。『PETRICHOR』はニーナの雑誌であるべき」
歌代「ダイちゃ~ん! 泣きそうなんだけど! 0号目の編集後記は私自身色々あるときだったから勝手に湧き出るものがあってすぐに書けたんだけれど、1号目の時は逆に余裕のあるメンタリティだったから“書かなくてもいいかも”と思えちゃって。でも、みんなが“書いたほうがいいよ”と言ってくれたから書けた。編集後記を書いたあと、この人たちに最初に読んでもらうんですけれど、それが一番緊張するんですよね」
HIMAWARI「ニーナが1号に編集後記を書かないと言ってたのに対して、私もダイちゃんも話し合ってもないのにそれぞれで『書いたほうがいい!』ってメッセージしてたらしくて。やっぱり通じてるなあって思いました」
――Lalaさんは、人と一緒にやる意義をどう考えられますか?
Lala「私はまだ一人じゃ何もできないから。そのうちは一人でやることも考えています」
歌代「Lalaちゃんはいつか一人でやる人なんです。本人はそれをあまり出さないけれど、私たちは勝手にそう思っています」
――“ニーナだから精神”はあります?
Lala「オフコース」
3人「(爆笑)」
Lala「だよねぇ?」
歌代「自分ではわかんないよ!(笑) でも、なんか“ニーナだから精神”って女王様みたいになっちゃってる気がするんですけれど」
HIMAWARI「いや、そういうノリともまた違うよ」
Daisuke「まあ、もちろんその面もあります(笑)」
――(笑)2号は制作中ですか?
歌代「はい、12月に出す予定です。『サウンド&サイレンス』、音と静粛というテーマで作っています。あとThirteen13の次のMVは『PETRICHOR』がクリエイティヴ・ディレクションを担当しているので、『PETRICHOR』× Thirteen13といった作品になります」
HIMAWARI「私が勤めているCANNABISがディレクションしているSUB-AGE.というブランドがあるんですが、そことBiSHというアイドルグループのプロデューサーがやっているNEGLECT ADULT PATiENTSというブランドがコラボをして。そのルックブックを今回『PETRICHOR』チームで撮影して制作したのでぜひ見ていただきたいです。5月18日発売で、ルックブックは購入者限定のノベルティになってしまうんですけれど、コラボした服はCANNABISで購入できます」
歌代「広告を入れない主義でやっている『PETRICHOR』は一生黒字にならないんです。今回、外部から依頼をいただいて初のクリエイションになるのですが、こういう機会が増えていって『PETRICHOR』に関わるみんなに還元していけたらと思っています」
photography Akiko Isobe
text&edit Ryoko Kuwahara
PETRICHOR
https://petrichor.stores.jp
ISSUE 00: 慈愛、虚無、矛盾、現実の4つのテーマを掲げ、様々な角度から”ファッション”というものを問い掛ける。
ISSUE 01 : “HIRAETH”(ヒラエス)をテーマに、大人と子供の定義について、また本質的な大人のあるべき姿とは何かということを写真、ファッション、絵、グラフィック、詩、などを通して追求し、1冊にキュレーション。