2010年代に入り、ケータイはスマホが主流になりました。そして日常のコミュニケーションはソーシャルメディアが当たり前のように使われだします。例えば、最近のドラマで多く登場するのは、LINEを思わせるメッセージアプリの画面。それもスマホの液晶画面越しに文字を見せるのではなくて、テロップのように文字が直接テレビ画面の上に頻繁に現れるようなつくりのドラマが増えました。テンポよく通知音が聞こえ、メッセージが次々に現れる、まさに、即レス時代のコミュニケーション表現です。
昔の恋人よ、寂しがっていてくれ
2010年『素直になれなくて』(瑛太、上野樹里)※というTwitterで出会う男女の群像劇を描くドラマがありました。上野樹里が使うケータイは、iPhone 3G!! ついにドラマにiPhone登場!! 「Twitterドラマ」と当初騒がれたものの、Twitterはただの出会いのきっかけ&連絡手段にすぎなかったので、時代を少し進めます。2013年放送『最高の離婚』(瑛太、尾野真千子)※では主人公、濱崎光生(瑛太)が、ガラケーを辞め、スマホを契約するシーンが登場します。なぜスマホにしたかったかというと、Facebookをキッカケにヨリを戻すカップルがいると聞き、SNSを利用したくなったから。早速スマホを買い、昔の彼女・灯里(真木よう子)の名前を検索するも見つからず。しかし、離婚した元妻・結夏(尾野真千子)のアカウントはあっさり見つけてしまいます。結夏が楽しそうな投稿ばかり発信しているのを見てしまい、なぜか光生は対抗心メラメラになり、リア充アピール合戦が勃発。お互い別々の場所で別のことをしつつも、SNS上では意識し合いながら写真を更新しまくり、つながる演出です。
ドラマ本編とは別に、2010年〜2013年までフジテレビは「イマつぶ」というTwitter風サービスを提供していました。そこではドラマのキャラがつぶやくというメディアミックスな連動も行っていて、『最高の離婚』の光生は「イマつぶ」でこんな投稿をしていました。「アメリカでは、9割のFacebookユーザーが元カレ・元カノのページを覗いてるらしいですね。覗いても何も良いことないのに。でも覗きたい。ぼくたち人間はいつの間にかインターネットに弄ばれるようになりました。皆さん、今日もインターネットに弄ばれていますか?」
今や気になる人の動向はSNSで手に取るように分かってしまいます。誰といて、何をしているのか。もうSNSを完全にやめるしか秘密を持てない時代です。20年前は成田離婚なんていう言葉もあったけど、今はFacebook離婚なんてのも聞きます。SNSは沼。肝に銘じましょう。
業務連絡:あなたが好きです
2016年の大ヒットドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(新垣結衣、星野源)※はガッキーが使うスマホに貼ってあるSupremeのステッカーにまで注目が集まりました。『逃げ恥』の代名詞といえば「ムズキュン」という言葉! このじれったさは自尊感情や恋愛偏差値が低い登場人物がいるからこそ成り立ちます!
2人での社員旅行帰り、突然みくり(新垣結衣)にキスしてしまった平匡(星野源)。その後、関係を修復しようと平匡がみくりに送ろうとしていたメールは【どうか、なかったことにしてもらえませんか。】。もちろんこんなメールを送信していたら、2人が幸せな結末を迎えることはなかったでしょう。すんでのところで送らなかったものの、平匡はみくりにどう接していいかわからずキスの件をスルーし続けます。そして自室に戻る平匡に対し、壁一枚を隔て、隣の部屋にいるみくりがついに仕掛けます! ドアの前で、平匡にメールを送ります。【どうして私にキスしたんですか?】
平匡は数時間返信に悩み、メールします。【すみませんでした。雇用主として不適切な行為でした】。まったく理由になってない! 【謝る必要はありません。】【しかし、一方的で許されない行為だったように思います。深く反省しています。】 らちがあかない攻防戦……! 続いてみくりの攻撃のターン。【社員旅行としてはセクハラでアウトですが、新婚旅行という体でもあったし、一応形式上は恋人なのでスキンシップの延長でアリじゃないでしょうか】。いや、いくらなんでもこれがアリなのって、完全に好きの気持ちがあるからだから! 平匡は安堵し【これからもよろしくお願いします】と返信。安堵している場合じゃない! みくり、アリ寄りのアリだぞ! そしてよろしくってのはこれまた無難すぎて捉え方が難しく言葉の真意が謎! みくりは【二回目もお待ちしております】と打ちかけるものの勇気が出ず削除し、【こちらこそよろしくです。末永く】と返信。またキスしたいことをストレートに表現できず、私ばっかり好きなの?という恋の葛藤も素晴らしいんだけど、ここで末永くという言葉を使うセンス、あっぱれ……。だってこの【末永く】という言葉に平匡はニヤケが止まりません! 末永くって、ずっとやん、ずっとって、永遠やん。幸せの前にしか付かない副詞やん……。永遠に一緒にいたいってやつやん……。壁1枚挟んで、2人がそれぞれ同じ満月を眺めるという、夏目漱石が「I LOVE YOU」を「月がきれいですね」と意訳した逸話を下敷きとして持ってくるロマンチックな映像演出に、好きの嵐が止まりません……!
それにしてもこの2人のやり取り。LINEではなく、メール! あくまで業務連絡の延長のメールなのです。というか、そう思うと、メールってもう完全に仕事のツールって感じが強いね。カップルであえてメールのやり取りしてる人、いる???
言葉でしかつながれない2人の恋
2018年『anone』(広瀬すず、清水尋也)※は、ハリカ(広瀬すず)と彦星(清水尋也)の淡い恋を、スマホのチャットゲームでの他愛のないやり取りで描きます。互いに素性を知らない2人は「ヨルイロノ虹」という架空のゲームアプリで交流しています。2人(ハリカは「♀ハズレ」、彦星は「♂カノン」というハンドルネーム)が、架空世界でお互い素直な心をさらけ出すのです(実は子どもの頃一緒の施設で生活していたというミラクルな展開なんだけど!)。このアプリのいいところは、リアルタイムにログインすることで会話ができるというもの。自分のアバターとなるキャラクターを移動させ、話し相手を選択します。トークはLINEのように吹き出しで表現されますが、会話の履歴は残らずその都度消えていきます。ドラマの中では打ち込んだメッセージを視聴者に見せつつも、心の声としてその文字を2人がセリフにして読み上げます。離れた場所で2人が喋り合っているような演出は、テンポがよく、かつ、面と向かってはなかなか言えない、歯が浮くような、ドラマだからなし得るような言葉のやり取りが続きます。例えばこんな。
♀ハズレ【彦星くん、あのね。今日わたしは布団で寝ています。布団と枕を発明した人にはノーベル賞をあげるべきだったと思います】
♂カノン【じゃあ、僕は誕生日ケーキにろうそくをたてることを考えた人にノーベル賞をあげたいと思います】
♀ハズレ【シャワーに、シャワーって名前を付けた人にも】
♂カノン【うさぎの形に切ったリンゴにも】
♀ハズレ【パレットの指を出す穴にも】
♂カノン【手品で出てくる鳩にも】
もはや純文学……活字だからこそ余計ぐっとくるセリフの数々です。当時、ネットカフェで寝泊りしていたハリカ。つらい世の中でも、よくみると素敵なもので溢れている。このやり取りが2人にとってどれだけ幸せな時間で、支えになっていたか想像すると、愛おしすぎて心のダム決壊……。
人生がラブストーリーでありますように
現在、インターネット利用端末はパソコンよりもスマホが上回りました。スマホでなんでもできる、なんでも分かる時代です。でも振り返ってきた通り、ケータイありきでも良質な恋愛ドラマってありますよね? ケータイやSNSのせいでドラマで恋愛を描きにくくなった説は、ただの言い訳なんです。では、恋愛の描き方はどう変わってきたのか。90年代の恋愛は、結婚がゴールでした。ですが、今は結婚と恋愛は別物。結婚をしなくてもいい時代です。ただ結婚を描かなくてもドラマはつくれます。じゃあ若者の恋愛離れが要因? というと、それもちょっと違う気が。ドラマはフィクション。別に自分が恋愛していなくとも、恋愛ドラマをコンテンツとして楽しむことはできると思うんです。『テラスハウス』を観る心理だってそうでしょ、他人の恋愛、おもしろいし! テラハで大好きだったのは、聖南さんというトレンディな言動を連発してくれる登場人物が入居している時期。いつも副音声ありで観てますが、その聖南さんに対するスタジオメンバーのツッコミは最高なんですわ。だって聖南さん、いきなりサーファーの男の子に「サーフィンと聖南ってどっちが大切?」とか聞いちゃうんだから。現実世界でこんな人存在しているなんて……最高……。これだよ、スタジオとお茶の間が求めているものは! つまり、ベタ!
恋愛ドラマのベタといえば定番はすれ違いで、それはケータイの出現で難しくなりました。メールをずっと待ってドキドキすることもこの即レス時代には少ないです。けどこのご時世でも、まだまだベタってつくれるんです。それも、自分たちの意志で。台本は一切ございません(の体)の恋愛リアリティショーでもベタな展開が出せるんだから、大丈夫。「共感」が叫ばれ、「ふつう」がよしとされる時代に合わせた辛気臭いドラマ展開なんてどうでもいい! もっとハッピーでぶっとんだトレンディな登場人物にドラマを支えてほしい! そしてそれを支持するものとして、僕らも私生活でもっとトレンディマインドを発揮していかなくてはいけないのです。SNSを駆使してライフハックしている人の人生は否定しないけど、時に夕日に向かって叫んだり、心の声を漏らしたり、図書館で本を探しながら誰かの指に触れたり、雨の中で泣きながら走ったり、砂に書いた名前消したり、くさいセリフも発しなくてはいけないのです。だってそれが、恋愛だから! そして僕らの人生というドラマはホラーでもサスペンスでもなく、ラブストーリーだから!
direction/text Daisuke Watanuki
photography Shuya Nakano(TRON)
hair Takuya Kitamura(assort tokyo)
make-up diceK
model haru./Daisuke Watanuki
edit Ryoko Kuwahara
※『素直になれなくて』……Twitterを通して知り合った男女の友情を描く青春群像劇。脚本は北川悦吏子。主題歌はWEAVER「Hard to say I love you〜言い出せなくて〜」。
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※『最高の離婚』……中目黒に住む2組の夫婦を軸に、現代の結婚観や家族のあり方をコメディタッチで描く。脚本は坂元裕二。主題歌は桑田佳祐「Yin Yang」。
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※『逃げるは恥だが役に立つ』……結婚とは、恋愛+家事? 夫=雇用主、妻=従業員という不思議な契約結婚の様子を描く社会はラブコメディ。脚本は野木亜紀子。主題歌は星野源『恋』。
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※『anone』……日雇いアルバイトをする少女・ハリカ(広瀬すず)ら個性的な登場人物らの交流と巻き起こる大事件を通し、本当に大切なものは何かを丁寧に描く。脚本は坂元裕二。
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☆インターネット調査結果は、「総務省 通信利用動向調査 平成29年度調査」を参照しています。