今の日本でパンクなひとはなかなか見つからない。それは決してファッションだけではなく、生き方においても、だ。誰かがこうと決めたことに対して、それは違っていてもいいんじゃないかと声をあげる人がどんどん少なくなっている気がする。いつの時代も常に身の回りの様々な「決めつけられたこと」に疑問を投げかけ続けてきたヴィヴィアン・ウエストウッド。そんな彼女の生き様を写した映画『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』が12 月28日公開された。公開を記念し、現代美術のパンクスであるChim↑Pomのエリイに彼女自身の生き方について話を聞いてみた。
――今回映画のインタビューをするにあたって、日本でパンクな人って誰だろうと考えたとき、最初に エリイさんが思いついたんです(笑)。エリイさんが映画をご覧になったとき、なにかご自身とヴィヴィアンに共通しているなと思う点はありましたか?
エリイ「映画を観たのが4日くらい前で記憶が薄くなってきたんですけど(笑)、共通点ではないんだけど、高校生の時に、イギリスにホームステイで行ったことがあったんですよ。30人くらいの団体でそれぞれの家に振りわけられて。その時に一緒になったすごくオシャレが好きな女の子がヴィヴィアン・ウエストウッドの本店というかセディショナリーズとかがあった場所に超行きたがって、一緒に行って感動してるのを見て自分も感動したっていうことがありました(笑)。高校生はあの指輪とかでヴィヴィアン・ウエストウッドのこと絶対知ってるよね」
――『NANA』とかで読んだり。
エリイ「そう。あと家で、セックス・ピストルズのポスターがなぜか私の部屋に貼られてて。ヴィヴィアンが映画の中でその時のことは話さないって言ってたけど(笑)、これを作ったのはヴィヴィアンと関係性のある人たちなんだって。そういうポスターを見ながら育った記憶はあります」
――エリイさんとヴィヴィアンの共通点として、批判を気にとめることなく作品を世に送りだし続ける姿勢というのがあると思います。映画のワンシーンにもあったように、ヴィヴィアンはパンクからハイファッションのデザイナーに挑んだ時、大衆から嘲笑されたりもしたけれど決して作品を作り続けることをやめなかった。そんな姿が初期のChim↑Pomに似ているかなと勝手に思っていて。エリイさんなりの批判への向き合い方はありますか?
エリイ「臆病者にならないこと」
――というと?
エリイ「臆病者だと、自分では気づかないうちに弱い気持ちが態度とか言葉に出ちゃって、相手や状況に合わせてしまう。臆病者でなければきちんと対処できると思う。ヴィヴィアンもその場でちゃんと思ったことを発言して、彼女自身が思ってないことは絶対に言わなかった」
――ああ、確かに。そうやって“臆病”について考えたことなかったです。ちなみに、エリイさんはどうやって臆病者にならないマインドを保っているのですか?
エリイ「いやあ、実は私も昨日気づいたばかりなんで(笑)。夜中の3時か4時くらいだから、もう今日か。色々気に食わないことがあって、なんでなんだろなと考えていた時に、私が臆病者だからだと思ったんです。一昨日くらいに本を読んでいたら、臆病者と臆病じゃない人たちみたいな話が出てきて、多分そのキーワードがすごく引っかかってて。小心者とか気が弱いとかは考えたりするけど、臆病ってあんまり出てこないワードで、聞いたとしてもサーッと流れちゃうから考えてこなかった。そもそも私が臆病者だなんて1ミリも考えたことなかったし、そんなこと絶対ないって思ってたんだけど、丁寧に考えてみると、臆病な気持ちが色々つまんなくさせてたり、足を引っ張っているのかもしれないと思えることがあるんです。臆病さが全部、態度に出る。言い訳になっちゃうんだと思う。うまく遊べなかったりする日とかも、“なんか今日疲れてるからな〜”とかじゃなくて、臆病で遊びに行けなかっただけなんだと思う。灯台下暗しで今まで気づかなかったんですけど、午前3時から私はもう臆病者ではない(笑)」
――ダルいと思ってたのが実は臆病だったって、自分にも当てはまります。これ、大発見だなあ。
エリイ「ね。果てしなく遊ぶのって、たまに超怖いじゃないですか。だから、今日はちょっと疲れてるからもうやめるって気分の時もあるけど、本当はそうじゃなくて、やりたいのに臆病で怖いからやれないだけだったりするのかなって。勝手にセーブしちゃったりとか。仕事もそうだと思う」
――自分の中に臆病があったんだと気づくのも一つ勇気だし、もしかしたらヴィヴィアンも臆病な部分があったのかもしれないけどそれをわかった上で臆病者にならないよう対処してきたから今があるのかもしれない。
エリイ「そうだと思います。映画に出てくるテレビのシーンとか、今までの態度とかも。私ももっと早く気付きたかった!(笑)」
――(笑)。臆病者だったかもしれない過去のエリイさんはどうやって批判に向き合っていたんですか?
エリイ「誤魔化せない気持ちだと思う。自分の気持ちとか正しいと思っていることに対して誤魔化せない気持ちがあって、それでカバーできてたんだと思う」
――曲げられない信念のような?
エリイ「そう。絶対それ、みたいな」
――今はSNSですぐ炎上したりということもあって、みんな批判に臆病になりがちですよね。
エリイ「それこそSNSで何かを叩いたりする人とか、なんでも批判する人に、臆病な気持ちで負けたらいけない。その人たちは卑怯だと思う。自分は傷つかない立場で相手のことを批評するのは卑怯。あと、なにもしていない、自分で行動できていない人は、自分で体験してないから想像だけが膨らんで批判しやすい精神に陥っちゃうのかなと思う。ちゃんと自分で発信したり、なんでもいいんだけどなにかをしたりとか、別になにもやってなくてもいいんだけど、ちゃんと満たされていたり、自分で行動してる人たちはそんなに人のことを批判できない気がする。自分と考えは違うかもしれないけどリスペクトするよという気持ちが持てていたり。何もやってないと、どんどん想像力が衰えていって、その衰えた想像から攻撃性に走る。それと、批判する人たちは的外れかなって思うことが多い。他の人を批判してる言葉とかもすごい的外れで、うまく批判できる人が少ない」
――ただの誹謗中傷とは違い、批判や批評はポジティブにもなり得ますから。
エリイ「そう、どうせ批判するんだったらうまくやれよって(笑)。クオリティの高い批判をしてほしい」
――それにも繋がるんですけど、エリイさんとChim↑Pomとヴィヴィアンの共通点のもう一つはアクティヴィストだということだと思います。
エリイ「批判性ってことですよね」
――はい。既存の考えや社会の構造に疑問をぶつけていく姿勢というか。やはり疑問に思うからそれを形にしているんですよね。
エリイ「そうですね、まず根本は疑問です。多分“なんでなの?”って気持ちがすごく強くて。例えばなにかの賞に選ばれました、それで“おめでとうございます”って言われても、“あなた、だれ?”みたいな(笑)。それが本当にいいことなのかわからないじゃないですか。もちろん賞をもらわないよりはもらった方が人間として、なんとなくハッピーな感じがしてすごくいいと思うし、いいと思うんだけどーーなんとか賞ですって言われて、みんな何も疑問に思わずもらったりしてるけど、その時点でなんか上から目線だし、ジャッジされてるし、なんでそれを疑問に思わず受け取ったりするんだろうっていうのは思ったりする」
――まさにその通りで、エリイさんは、社会で普遍的なものを見つけてそれが実はおかしいんじゃないのかという疑問の投げ方をされてると思うんです。でもそういう疑問を見つけるチカラというか見る目を鍛えるのってどうしたらいいんでしょうか。最初はすごく小さい気づきから始まっていくんですか?
エリイ「そうです。やっぱり身の回りのものからしか浮かばないし、考えて急に飛躍するんじゃなくて、すごく手前にあるものから。個体でいく場合もあるけど、それも無意識で繋がっている気がします。たとえば、昨日夫のツイッターを見てて、夫が“国に与えられた休日をラッキーって喜んでいる側になってしまっているのはどうなんだろう”というようなツイートしていて。私は曜日が全く関係ないから、曜日感覚がないんだけど、確かに休みくらい自分で決めればいいじゃんって。決めるところまでいかなくてもいいんだけど、そこを自分で一回考えられてもいいのかなって思う。例えば”ぼくは、わたしは、それでも休みがうれしい“とかだったらいいけど、普通に”休み、ヤッター!“みたいなのはちょっとね。こういう自分の考え方と現代美術は合ってる気がするんですよ。現代美術は価値観ですからね。善いとか悪いになると誰にも決められないから、そこじゃなくて、“いや、なんで?”みたいな疑問を持って、いろんな角度から考えること。価値観とは、いろんな角度から考えるということをやり続けた結果なのかもしれないと思います」
photography Kisshomaru Shimamura
text Lisa Tanimura
edit Ryoko Kuwahara
エリイ(Chim↑Pom)
2005年、東京にて、卯城竜太、林靖高、岡田将孝、稲岡求、水野俊紀とともに、アートコレクティブ「Chim↑Pom」結成。都市問題、広島、原発事故、移民などのテーマを扱いながら、時代の「リアリティ」に反応し、現代社会に介入したメッセージ性の強い作品を発表。ときに賛否両論を呼ぶ過激な表現となることもある作品で、社会現象化するほどの注目を集める。また高円寺のキタコレビルでアーティスト・ラン・スペースの運営や、企画展のキュレーション活動も行う。
2015年、Prudential Eye AwardsでEmerging Artist of the Yearおよびデジタル・ビデオ部門の最優秀賞を受賞。
主な個展に、“SUPER RAT”(Saatchi Gallery, ロンドン, 2015)、“広島!!!!!”(旧日本銀行広島支店,広島, 2013)、“Chim↑Pom”(Parco Museum, 東京, 2012)、“Chim↑Pom”(MoMA PS1, ニューヨーク, 2011)。
主なキュレーションに、“にんげんレストラン”(旧歌舞伎町ブックセンター,東京,2018)、“また明日も観てくれるかな?”(歌舞伎町振興組合ビル,東京, 2016)。
グループ展に、“Biennale de Lyon 2017”(リヨン, 2017)、“Don’t Follow the Wind”(東京電力福島第一原発の事故に伴う帰還困難区域内,福島, 2015)、“Zero Tolerance”(MoMA PS1, ニューヨーク, 2014)、“第9回上海ビエンナーレ REACTIVATION”(上海現代美術館, 2012)、“第29回サンパウロビエンナーレl – There is always a cup of sea to sail in”(サンパウロ, 2010)など多数。
著書に、2009年『なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか』、2017年『都市は人なり Sukurappu ando Birudoプロジェクト全記録』。
現在、Chim↑Pom個展「グランドオープン」(ANOMALY,東京)を開催中
http://chimpom.jp
https://twitter.com/ellieille
https://www.instagram.com/elliechimpom/
Chim↑Pom「グランドオープン」
ANOMALY 〒140-0002 東京都品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex 4F
tel & fax 03-6433-2988
2018年11月22日(木) – 2019年1月26日(土)
Gallery hours: 11:00-18:00, 11:00-20:00 (金)
*日月祝、及び、2018年12月23日〜2019年1月14日は休館
『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』
2018年12月28日(金) 角川シネマ有楽町、新宿バルト9ほか全国ロードショー
公式HP:http://westwood-movie.jp
2016年ロンドン・ファッション・ウィーク秋冬ショー前夜。ヴィヴィアン・ウエストウッドのアトリエでは、最終チェックに追われるデザイナーとスタッフたちがいた。デザイナーであるヴィヴィアンは、1枚1枚を細かくチェックし、指示と違う服には「こんなクズ、ショーに出せないわ」と容赦なく言い放つ。「もう辞めどきね」とパートナーにこぼしながらソファで眠りにつくが、翌日のショーは拍手喝采を受け、大成功を収める。60年代から現代に至るまで、数々の伝説を持つデザイナー本人にカメラが向けられる。「過去の話は退屈よ」と前置きしてから、自らの波乱万丈な半生について、ゆっくりと語り始めた。
監督:ローナ・タッカー
出演: ヴィヴィアン・ウエストウッド、アンドレアス・クロンターラー、ケイト・モス、ナオミ・キャンベル他
2018/イギリス/英語/カラー/5.1ch/ビスタ/84分/字幕翻訳:古田由紀子
後援:ブリティッシュ・カウンシル
配給:KADOKAWA
(C)Dogwoof