本作『天国でまた会おう』は、ミステリー作家として日本でも知られるピエール・ルメートルによる、ゴンクール賞に輝いた同名小説を原作としている。映画化を決めた理由をアルベール・デュポンテル監督はこう語っている。”この小説は、巧みに隠された現代に対する風刺だと思ったからだ”。
舞台は1918年フランス、休戦を目前にした西部戦線。戦場に生き埋めにされたアルベールを、年下の青年エドゥアールが救ったのだが、その時に顔に重傷を負ってしまった。傷を隠すため自作の仮面を着けるエドゥアールであったが、どんな事情なのか「家に帰りたくない」と訴える彼のため、アルベールは彼の戦死を偽造する。しかし、パリに戻った二人を待っていたのは戦没者は称えるのに帰還兵は歓迎しない冷たい世間だった。仕事も恋人も失ったアルベールと過去を捨てたエドゥアール、一度は負けた人生を巻き返すために彼らは国を相手に人儲けをする大胆な詐欺を企てる――。
第一次大戦本作が収束しようとしている最前線の戦場で、二人の兵士の運命が交わる場面から物語は始まる。本作の、CGによるものではなく古典的な演劇性を忠実に守っている戦争表現は、これまでの戦争映画において重宝されていた爆風の大きさなどでみせるアクションシーンと一線を画している。アルベールが敵の攻撃によって溝に転落したことから土に埋もれ、窒息しかけたところで馬の死体の口から酸素を吸引するといった、より身体的な表現描写によって観客全員にその恐ろしさを強く実感させるものとなっている。「もし映画がさらなる価値を提案していなければ、映画化の意味はない。違う視点から別の方法で見て、新たな世界をもたらさなければならない」とデュポンテル監督自身が語る姿勢が、ここからもうかがい知ることができる。
また、戦場をあとにしたエドゥアールとアルベールの舞台となる20世紀初頭のパリは、人々の価値観が大きく動きそれに伴いアートシーンが大きく変化した時代であった。劇中ではクリエイターのセシル・クレッチマーが手がけた仮面が顔に傷を負ったエドゥアールの心中を表現し、また衣装はジャン・コクトーやバスター・キートン、そしてヴィクトル・ユゴーが実際に着ていた服がモチーフとなって当時の稀なるカルチャーシーンや登場人物の背景を鮮明に立ち上がらせている。この特筆すべきディテール、特に仮面のこだわりについてデュポンテル監督は「キュビズムからシュールレアリズムまで、多彩なアーティストたちが正真正銘のおもちゃ箱のような作品を生み出していて、セシルはそこから選び出した」と語っている。
巨大な偶然の一致によってサーカスのように壮大にドライブしていく、大きなカラクリが施された本作のプロット。そのカラクリこそが浮き彫りにさせる第一次世界大戦によって人々の心に残された傷跡という紛れもない真実は、華やかで皮肉に満ちたエドゥアールの仮面が物語る彼の繊細な表情そのものだ。
驚きが散りばめられためくるめく魔術のような映像と、作り手によるこだわりによって織りなされる一大叙事詩のような二人の男の物語は、時を超えて観る者にみなぎるエネルギーを与えるだろう。
『天国でまた会おう』試写会プレゼント
日時:2019年2月7日(木)開場:17:30 / 開映:18:45
会場:原宿クエストホール (東京都渋谷区神宮前 1 丁目 13−14)
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『天国でまた会おう』
2019年3月1日(金)、TOHO シネマズ シャンテほか全国ロードショー
【STORY】1918 年、休戦目前の⻄部戦線。生き埋めにされたアルベールを救ったエドゥアールは、その時に顔に重傷を負ってしまう。パリに戻った二人を待っていたのは、戦没者は称えるのに帰還兵には冷たい世間だった。仕事も恋人も失ったアルベールと、生還を家族にひた隠しにするエドゥアール。そこに、声を失ったエドゥアールの想いを“通訳”する少女が加わった。一度は負けた人生を巻き返すために、彼らは国を相手にひと儲けする大胆な詐欺を企てる。だが、そこには隠された本当の目的があった──。
【監督】アルベール・デュポンテル 【原作】ピエール・ルメートル「天国でまた会おう」(平岡敦訳/ハヤカワ・ミステリ文庫) 【脚本】アルベール・デュポンテル、ピエール・ルメートル
【出演】ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート『BPM ビート・パー・ミニット』、アルベール・デュポンテル『ロング・エンゲージメント』、ロラン・ラフィット『エル ELLE』、ニエル・アレストリュプ『真夜中のピアニスト』、エミリー・ドゥケンヌ『ロゼッタ』、メラニー・ティエリー『ザ・ダンサー』
原題:Au Revoir Là-Haut/英題:SEE YOU UP THERE/2017 年/フランス/フランス語/117 分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/日本語字幕:加藤リツ子/PG-12
配給:キノフィルムズ/木下グループ
© 2017 STADENN PROD. – MANCHESTER FILMS – GAUMONT – France 2 CINEMA 場面写真コピーライト:©Jérôme Prébois / ADCB Films
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