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text by Daisuke Watanuki
photo by Shuya Nakano

「好きな人の番号、忘れられる?」平成テレビ史から読み解く、恋愛とケータイの遷移

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1999年、NTTドコモからiモードが発売されました。ホームページを観覧したり、キャリアメールを送受信したり、ニュースなどの情報を得たり。今まで話すだけだったケータイが、インターネットを楽しめる情報端末へと進化したのです。「iモード」の成功で、同業他社のauは「EZweb」、J−フォンは「J-スカイ」でサービス提供を追従します。まさに1999年はケータイの転換期。加入契約数も5600万台を突破します。でも、2000年代前半のドラマのケータイはまだまだメールでつながる演出は少なくて……。

都会と、若者と、ケータイにあこがれて


ケータイが当たり前の世の中になったことを象徴していたドラマといえば2000年『池袋ウエストゲートパーク』(長瀬智也、加藤あい)※でしょう! カラーギャング、ヤクザ、喧嘩、抗争、殺し、薬、風俗、援交、コギャル、パラパラ、暴力、密売、ニート、ねずみ講……アングラな世界を超ポップに描いていて、恋愛モノじゃないけど取り上げちゃお。池袋のトラブルシューター・マコト(長瀬智也)、その彼女のヒカル(加藤あい)、カラーギャング集団「G-Boys」のキングことタカシ(窪塚洋介)などなど個性的なメンツで未だに熱狂的ファンが多い作品です。マコトのもとにはやっかいな頼まれごとが続々舞い込み、そのたびにマコトのケータイの単音着メロが鳴ります。着メロはSteppenwolfの「Born To Be Wild」。「マコトの着信音」という名前で当時着メロ配信サイトに登場し大ヒットしました。そして、電話に出るのときの第一声は「はいマコト」。…… 端的! もはや応答の際「もしもし」なんて言わない! この、「はい○○(自分の名前)」という電話の出方も男子はみんなマネしてたよね! とにかく映るものすべてがかっこよく、登場人物がみんな池袋の至るところでケータイで通話して連絡を取り合っている感じ、もう都会っぽくて最高なんです。


女性が憧れたケータイ使いのうまいキャラは2000年『やまとなでしこ』(松嶋菜々子、堤真一)※の主人公・桜子(松嶋菜々子)で決まり! これがとても魅力的なキャラで。「一番チェックしなくちゃいけないのは車のキー。そこから年収不動産持ち株、男の財力が姿を現してくる」「借金まみれのハンサム男と、裕福な豚男、どっちが結婚して女を幸せにしてくれると思いますか?」「ハンサムな遺伝子が好きな女がノーマルで、お金持ちを好きな女がゆがんでる? そんなのおかしいじゃない」。と、桜子語録はとにかくすごい。「この世で一番嫌いなものは貧乏。女を幸せにしてくれるのはお金だけ」という考えで、唯一の武器と豪語する若さと美貌を生かし、大金持ちの男性との玉の輿結婚を夢見て合コン三昧。客室乗務員なので、フライト終わりにいつもケータイで男に電話をしています。まるでホステスの営業電話よろしく、まめに電話する姿勢はあっぱれ! めっちゃ仕事できる人やん〜! ディオールもフェンディも着こなす桜子が持っているのは、ピンクの折りたたみケータイ(ドコモP209i)。ストラップはグッチ。ケータイで通話するとき、わざわざケータイに両手を添える所作は美しく(誰かに見られているわけではないのに!)、勉強になります!って感じでした。


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好きな人の番号、忘れられる?


2000年『Beautiful Life 〜ふたりでいた日々〜』(木村拓哉、常盤貴子)※は最高視聴率41.3%を記録した名作。人気のない美容師・柊二と、難病に侵され車椅子で生活する図書館司書の杏子(常盤貴子)の物語。第4話終盤でやっと2人はケータイ番号を交換します。デートすることになった杏子は柊二のもとへ車椅子で向かいますが、いつもの道は工事中、回り道したら階段があり、車椅子では通れません。回り道に次ぐ回り道、挙句の果てには車を避けた拍子に、車椅子が溝にハマり立ち往生。会えない……すれ違い……(最高!)。お互いケータイ番号をまだ知らず、助けも呼べないし現状を伝えることもできない。それでも柊二は待ち続け、杏子もやっとの思いで待ち合わせ場所に到着します。遅れた言い訳として杏子が言います。「お化粧してたの。デートだからね」。「じゃあなんでこんな冷てぇの」。柊二は杏子の頬に手を当て、いろんなことを想像し、理解します。(キムタクはいつでも自己評価が低い女の子の味方だ……!)「あのさぁ、こういうときめんどくさいから、ケータイの番号教えてくれる?」。車椅子である自分は普通の女の子のようなデートができない。そんな風に杏子が自分自身を責めないように、明るい雰囲気で切り返している……!(キムタク、スマートすぎる!)


柊二は杏子の車椅子のうしろにまわり、さっそく聞いたケータイ番号に電話します。 杏子「はいもしもし」 柊二「今日どこいく?」……一緒にいるのに、ケータイで通話!!!!!!!! かつて『東京ラブストーリー』で、カンチとリカは相手が目の前にいるのにわざわざ受話器を持つ仕草をして、「プルルル、もしもしー」「はいはい」と対面で電話コントをよくしていたけど、そのリアル版! ラブラブかよ! しかし、すかさずこのあと柊二の心の声のナレーションが入ります。「時々、覚えてしまった電話番号は悲しいと思う。僕は、あのとき教えられた電話番号を、忘れられないでいる。君がいなくなってから」。このナレーションは2人の未来からの回想になっていて、起こりうる今後のストーリー展開にやきもきしちゃうんだけど、電話番号を交換したばかりの幸せなシーンで、電話番号を知る悲しみを語るこの演出すごすぎ……。たしかに、何かを知ってしまうことにも、責任は伴うんだよね。プリンセスプリンセスの「M」じゃないけど、連絡先を所有するということは、とてつもなく大切なものを背負うことでもあるわけで。そしてアドレスって本当は簡単に捨てたりできないものなんだよね……。一度手に入れたものは、簡単になくならない。削除したって、忘れられるものではない。

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ケータイのつながりは偽物なのか?


2000年最初の月9『二千年の恋』(中山美穂、金城武)※はただの恋愛ではなく、アジア問題を散りばめた社会派(?)ラブストーリー。主人公の真代理得(中山美穂)は、システムエンジニア。2000年問題で大晦日も会社でトラブル対応をする真代は、外務省職員を偽るアジア某国の工作員・野上浩(金城武)と出会い、惹かれていきます。


会社の部下が真代に言います。「こうしてディスプレイの前に座っているだけで、何百万、何千万の人たちとつながっていられるんですもんね」。真代はばっさりこう答えます。「つながりすぎ」。まだネットで世界とつながることにワクワク感がいっぱいだった2000年の時点でこの境地に達しているの、すごい! しかも真代はあえてケータイを持たない選択をしています。2000年時点、すでに社会人のケータイ所持は当たり前、持たない方がマイノリティです。持たない理由は、ケータイによって人と人とがつながってるのが、嘘っぽくて嫌だから。ほかにも2001年『カバチタレ!』(常盤貴子、深津絵里)※では主人公の弟・優太(山下智久)が「ケータイは嫌い」と若者のケータイ文化に反発。同じく2001年『Love Story』(中山美穂、豊川悦司)※でも、主人公の康(豊川悦司)はあえてケータイを所有しようとしません。こんな風に2000年前半ドラマはちょっとしたケータイつながり拒否の動きが目立ちます。恋愛ドラマにおけるケータイ暗黒期突入。これには恋愛にケータイを持ち込まないための脚本家のワザなのか?と疑いたくなるくらい。でも、ドラマを観ていると、ケータイでのつながりを嫌う登場人物ほど、本当は人一倍、つながりというものを渇望しているようにも感じます。本当はちゃんと特定の誰かと、つながりたいんだっていう気持ち。ちなみに、俳優の森山未來は10年以上ケータイ断ちをしているそうです。余談です。


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Re:Re2:Re2:Re2:Re2……がつなぐ恋愛


iモードが発売し、21世紀に突入したのに、なぜケータイで恋愛が進むドラマが少ない! ましてなぜケータイメールが恋愛ドラマに絡んでこない! そんな暗黒の時代が終わるのが2004年です。再びドラマ界にケータイ絡みのときめきの波が襲来します。ケータイメールでいつでもどこでもつながれることが恋愛に作用したドラマ『オレンジデイズ』(妻夫木聡、柴咲コウ)※で。大学生の櫂(妻夫木聡)と、聴覚を失った紗絵(柴咲コウ)と大学の仲間たちが織りなす青春ドラマです。聴覚のない沙絵は、口もきけません。そこで、櫂を見かけて呼び止めるとき、いろんなものを投げで自分の存在を知らせます。ときにはケータイも投げつけます。そして櫂も、沙絵に同じ行動を取ります(それで1度ケータイぶっ壊れる)。ケータイの使い方、違う!とツッコミたいけど、それだけとっさに手に持っているものがケータイの時代になったってことで。2人の普段の会話は手話。でも、手話は暗いところでは見えません。でもでも、メールを使えばしゃべれる! そう思うと、技術の進歩はやっぱりすばらしいです! 紗絵と櫂はお互いに惹かれ合いながらも、どうも素直になれない間柄。あるとき沙絵は憧れの先輩の裏切りに直面し、失意の中で公園に座り込み、櫂にメールを送ってしまいます。


ニチニチとメールを打つ沙絵【応答せよ、ユウキカイ】 櫂【応答しました、ユウキカイ】 沙絵【ふられちゃった】 櫂【・・・そう】 沙絵【幻だったんだなぁ、と思って】 櫂【うん】 沙絵【耳ダメになってから好きなんて言われたの初めてだったし】 櫂【うん】。櫂は無表情で、真剣に沙絵から受信したメールと向き合います。数字の1を3回押して「う」、0を3回押して「ん」(これぞガラケーの文字打ち!)。続けて沙絵が返信【私、もう一度恋できるかと思ったの。こんな私でも、好きって言う人いるんだって得意だったの。キラキラした女の子みたいに、もう一度なれるかなあって思ったの。】 櫂【うん】 沙絵【うんばっかり?】 櫂【なんて答えていいか、わからないんだよ。でも、聞いてるから】。とても優しいメールラリーが続きます。離れているそれぞれの場所で、文字が2人をつなぎます。 沙絵【ほんとに聞いてる?テレビみたりカップラーメン食べたりしてない?】。これを送信したあと、沙絵の心の声が語りで入ります。
沙絵の心の声「ケータイメールのおしゃべりは、普通のおしゃべりと違って、相手の言葉が返る時間が、もどかしく、せつなく。あー、もうこれで返らないのかなーなんて思うと、長いのがきたりして。そういうときは、なんでもない言葉が、とても愛しい」。LINEのように既読なんてつかない時代です。相手がメールを読んでいるのか。返信をくれるのか。全部わかりません。送って後悔したりして。直接だったらすぐ否定できるし、表情も加わるのでいろんなニュアンスも伝わるけど、文字だけのコミュニケーションは難しいです。ちょっと重いかな?と思ったりして。件名はいつのまにか、Re:Re2:Re2:Re2:Re2……。櫂からの返信【してない。神に誓ってしてない。テレビもさっき消した】。続けざまに櫂【そこ、寒くないの?】 沙絵【うん、大丈夫】 沙絵続けて新規メール作成【件名:会いたい。 本文:会えない?】。……ついに渾身の一通出ました! もはやアイラブユーでしかない内容! しかし、送信しているタイミングで、まさかの電池が切れるというアクシデント! このタイミング、ドラマかよ! ってツッコミたくなるけどこれドラマだったわ。未送信のままの好きの気持ちは、どこに行っちゃうの? せっかく2人の心をケータイメールがタイムリーに結びつけてくれていたのに……。沙絵は心を鎮めるために夜の学校を訪れます。すると、向こうから走ってくる櫂の姿が……! ドラマかよ!!!!!!パート2(泣)。実はちゃんとさっきのメールは電源が切れる前に櫂に届いていたんです。そして、沙絵の【会えない?】のメールを見て、櫂は沙絵が居そうなところを何箇所も、必死で探し回っていたのです。場所を伝えてない、待ち合わせなしで会えるって、奇跡じゃん、愛じゃん……。右手で握りしめたたったひとつの恋(先輩への恋心)は、開いてみたら何もなかった。けど、左手を開いてみたら、そこには目の前に現れてくれた人との愛が、ちゃんとあったんだね……。



アイテムとしてケータイが一般的になり、やっとメールラリーがドラマという画面の中で登場した2000年前半。耳と口で通話するだけではなく、目で見て指で操作するケータイの役割も、恋愛のときめき効果をもたらしはじめたのです。ケータイの画面サイズが大きくなり、画面に写る履歴やメールの文字をドラマの演出として視聴者に見せやすくなったことも一因としてあります。そして徐々にドラマでは、好きな人を想い悩む姿を、ケータイの画面を見つめたり、ケータイを握りしめる演技で表現するようになっていきます。そうです、ついにケータイで恋する時代に突入するのです!


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direction/text Daisuke Watanuki
photography Shuya Nakano(TRON)
hair Takuya Kitamura(assort tokyo)
make-up diceK
model haru./Daisuke Watanuki
edit Ryoko Kuwahara

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※『池袋ウエストゲートパーク』……マコト(長瀬智也)、ヒカル(加藤あい)、タケシ(窪塚洋介)、マサ(佐藤隆太)など池袋に住む個性的なメンツが、都度さまざまなトラブルを解決していく。展開脚本は宮藤官九郎。主題歌はSADS「忘却の空」。
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nadeshiko
※『やまとなでしこ』……玉の輿を夢見る客室乗務員・桜子(松嶋菜々子)が、魚屋を営む貧乏男・欧介(筒美京平)を振り回しながらも男女の出会いの不思議を描くロマンスコメディ。脚本は中園ミホら。主題歌はMISIA 「Everything」。
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beautifullife
※『Beautiful Life 〜ふたりでいた日々〜』……美容師の柊二(木村拓哉)と難病に侵され車椅子生活を送る杏子とのラブストーリー。ドラマの影響で美容師志望率が上がる社会現象も。脚本は北川悦吏子。主題歌はB’z「今夜月の見える丘に」。
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2000 
※『二千年の恋』……システムエンジニアの真代(中山美穂)と、外務省職員を偽る国際スパイの野上(金城武)との恋を描いた異色の月9作品。脚本は藤本有紀ら。主題歌はDo As Infinity「Yesterday & Today」。
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kabachitare
※『カバチタレ!』……ひょんなことから出会った田村希美(常盤貴子)と栄田千春(深津絵里)の周辺で展開されるラブコメディと、行政書士事務所で起こる法律バトルが見もの。脚本は大森美香。主題歌はキタキマユ「ドゥー・ユー・リメンバー・ミー」。
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lovestory
※『Love Story』……スランプの恋愛小説家・長瀬康(豊川悦司)と、その担当編集者の須藤美咲(中山美穂)を軸に物語が展開する。脚本は北川悦吏子。主題歌はスピッツ「遥か」。
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orangedays
※『オレンジデイズ』……大学4年の櫂(妻夫木聡) と、聴覚を失った沙絵(柴咲コウ)のラブ・ストーリーを軸に展開される、大学の卒業を1年後に控えた5人の若者の青春群像劇。脚本は北川悦吏子。主題歌はMr.Children「Sign」。
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drama2000-2002
drama2003-2004
 
 
☆携帯電話の加入契約数の推移に関しては、総務省情報通信統計データベースを参照しています。

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