新鋭・野村奈央監督『からっぽ』が12月22日よりポレポレ東中野にて公開される。今回が劇場デビューとなる新鋭・野村奈央(23)。武蔵野美術大学の卒業制作である『からっぽ』は、世界最大の自主映画の祭典・PFFアワード2018に選出されたのを皮切りに、その後も数々の映画祭にノミネートされるなど、公開前から各地で話題を呼んでいる。本作は、2人の男の目にうつる幻影を行き来した一人の女の愚かで愛らしい季節に捧げられたクリスマスムービーだ。相手の中の自分を役者のように着飾るまちの姿は、人生という舞台で役を演じ分けている私たち自身のカリカチュアなのかもしれない。そして『からっぽ』というタイトルを背負った主人公の肖像を描くことができるのは、スクリーンの前の観客の眼差しだけだ。
『からっぽ』公開に向けて 監督ステートメント
いったい私は死ぬまでに、何人になるのよー!
さむいね、と言い合える相手もいない冬の訪れに、ひとり叫んでみる。
私は、私を眼に映した人の数だけ存在します。今、これを読んでくれている無数のあなたの中に、今も私は増え続けています。だいぶ自意識過剰です、すみません。
私らしさ、なんて言葉は呪いだと思う。
ほんとうの私、なんて私の中をどんなに探しても見つかるはずがないのに、思春期頃からじわじわ呪いをかけられて、ましてや、私は人間である前にどうしようもなく女なので、男の人の眼によって、呪いの強度はぐんぐん増していったのです。怨念。
そして厄介なことに、呪いは魔法とも呼べます。
当時の恋人に、「お前らしくてかわいい」というようなことを言われた時に、すごく怖くて、あ、この人の好きな私、これか、よしよし、と、超少なく見積もって、私が仮に24面あるとしたら、ただれた23面はないことにして、私らしい、らしい一面を最前線におきました。
勿論、めちゃくちゃ好きだったからです。
呪いは魔法なので、たとえ一面としか呼べない私だったにせよ、確かに彼の中に描かれた私は、多くに愛される形をしていたし、そのように振舞っていれば生きやすくて、もう私、この一面だけに、なろうと。からっぽさに気がついてなお、一面でしかないものを引きのばして、からっぽの器に貼り付けました。側からみたらたいそう立派な、はりぼてです。
でも、一生そんな風にやり過ごせるわけもない。だって私は24面ぜんぶ、無数の描かれた私すべて、あまさず私なのでありました。
危ないことがひとつあって、はりぼてをはりぼてだと思わなくなったら、はりぼてが重さを持ちはじめるのです。くだらない嘘が、からっぽの私に詰まっていく。
お前らしいとか、芯のある人間とか、ブレナイ私とか、そういうのに騙されないでほしい。呪われないでほしい。お前らしくない私も、そう振舞っている私なのだから、私に変わりはないはずです。もっといえば、私は、私たちはみんなからっぽなんだと思います。からっぽである、ということは唯一、正直でいるための土台です。からっぽな私、がその都度正直であることだけが、唯一、私らしさ、と呼べるものだと思います。それ以外の私らしさなんてものは、くだらないです。主義主張と同じように、本当にくだらねえもんです。春になったら、たぶんまた新しい出会いがたくさんあって、どんどん私は増えていきます。冬は正直な季節です。そんな季節にいったん呪いが解けたらなあと思います。同時に魔法も解けてしまうけど、からっぽの器を魔法でいっぱいにした私では、重たくって雪山は下れません。くたばります。ちなみに呪いは、愛する他者と私とでかけるものなので、私自身で必ず解くことができます。絶対。からっぽ観た人が、軽くなれますように。私のささやかなクリスマスプレゼントが、からっぽ、です。
――野村奈央
『からっぽ』
12/22(土)~12/28(金)ポレポレ東中野にてクリスマスレイトショー!
STORY:彼の描く私があんまり美しいもので、あ、私こうなっちゃおうって思っただけなんです。渡良瀬まち(23)は365日朝昼晩といくつものアルバイトをローテーションするスーパーフリーター。ある日、まちはバイト先の居酒屋で自分をモデルに絵を描きたいという画家の岡崎由人(19)と出会う。その夜、由人がスケッチした自分の絵に心を奪われるまち。2人は一緒に暮らし始め、由人はまちへのクリスマスプレゼントに絵を完成させようと意気込むが、まちはキャンバスの中の自分に徐々に違和感を募らせていく。数日後、まちの前に芸術専門のライター、糸川洋(27)が現れる。まちは由人と洋の前でそれぞれの私を生きていけばいいはずだったが…絵が完成間近に迫ったクリスマスイブに事態は急転する。
■2018年映画祭受賞歴
PFFアワード2018入選 エンタテインメント賞受賞
第12回田辺・弁慶映画祭入選 TBSラジオ賞受賞
第10回下北沢映画祭入選
2018年/カラー/53分 監督・脚本・編集:野村奈央 出演:打越梨子、カワチカツアキ、須田 暁、木村知貴 撮影:酒井 馨/録音:佐藤 仁、齋藤瑞紀/絵:松田宥人/ヘアメイク:田口彩華/衣装:杉本仁紀/美術:永井亜衣/音楽:山根舞子/助監督:髙木千花、森 雄大、溝上 薫/制作:加藤 桃、稲垣亮太/撮影助手:木村俊樹、三代郁也、星野光祐、上杉幸奈
12/22(土)~12/28(金)連日21:00
ポレポレ東中野(東京都中野区東中野4-4-1 ポレポレ坐ビル地下)当日:一般1300円|大学・専門・シニア1000円
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