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Interview with tofubeats about “RUN”

NeoL_tofubeats1 | Photography : emi


tofubeatsのニューアルバムとなる「RUN」は、客演を迎えていないことや、独白的な歌詞構成、“RUN”や“DEAD WAX”から感じられる感触からしても、「独り」というイメージが強く感じられる作品だ。しかし、そのイメージは、文中でも書いたとおり、ロンリネスではなく、ソリチュードであり、そこにはシーンを切り拓く人間としてのtofubeatsの孤高性が現れているだろう。そして、同時に感じられる感情は、“RIVER”や“ふめつのこころ”に現れる「愛」。孤独と愛。それらは背中合わせであり、それぞれの存在によって強調され、それぞれの存在によって補完される、お互いの存在を求め合う、2匹のウロボロスのようなものだろう。その円環の中で、tofubeatsは出口を求め、走る

――こないだストリップを見に行ったんですけど。


tofubeats「何ですかいきなり(笑)」


――特定すると許諾の問題とかが発生しそうなんで名前は伏せますが、ある踊り子さんが”LONELY NIGHTS feat. YOUNG JUJU”を使って踊ってたことに衝撃を受けて。


tofubeats「そうなんですか。普通に嬉しいですね、そういう方面からのプロップスも実は高いって聞くんですよ。この前もグラドルの方が僕の曲のリリックをツイートしてくれてて」


――余談ですが、夏目花実さんというグラドルの方はパチンコ番組のオープニング曲でラップしてるんだけど、それがサイプレス上野プロデュースという。


tofubeats「ハハハ。そんな流れも。あとセクシー女優の方も僕をフォローしてくれてたり」


――なんですか、自慢ですか。うらやましい(笑)。


tofubeats「ちょっと方向性は違うかも知れないけど、”No.1 feat.G.RINA”が歌舞伎町で掛かってたことがあって。「君の一番になりたい」っていう歌詞が、そういう方向で需要されるとは、と(笑)」


――ホストなり、キャバ嬢なりのシーンに繋がったと(笑)。


tofubeats「まさかそこに刺さるとは思ってなかったんで、めっちゃ面白かったですね。でもストリッパーさんで”LONELY NIGHTS”を使ってくれてる方がいるんですね。それは踊る時ですよね」


――そうそう。話を聞いたら、単純に好きだという話で。


tofubeats「踊り子さんが自分の踊りを盛り上げる曲として、自分の曲を使ってくれるっていうのは、スゴく嬉しいですね。実用に足りたという意味でも、作った甲斐があったなと」


――なんでそんな話から始めたかというと、ストリップのお客さんは女性の方や若い人もいるんだけど、基本的にはおじさん、おじいさんなんですよね。そういう人にもtofuくんの曲が伝播してるのは面白かったし、非常にクローズドな世界ではあっても、不特定多数に向ける以上、そこで流れる曲は年齢や属性を問わない、一定の音楽性が必要だと思う。踊り子さんが好きな曲だと言っても、あまりにもアバンギャルドだったり伝わりづらい曲は使わないだろうし、その意味でも、ストリップで流れる曲というのは、ポップ・ソングである必要があると思うし、その場で”LONELY NIGHTS”が掛かったのを聴いて、あの曲がポップスとして受容されていることを、明確に感じたんですよね。


tofubeats「なるほど。でも単純に、あの曲がポップスとして理解されるには、KEIJUの参加も大きかったと思いますね。ラップではあるけれども、ボーカル的な部分を強いし、リズムやメロディーも牧歌的、もっと言えば演歌的といっても良いぐらいの構成だから、やっぱり分かりやすかったんだと思う。その意味では、ビートとしては新しいけれども、構造としては非常に日本的な部分が、そういったポップさ影響してるのかなって」





――ポップさという意味では、今回のアルバム前には“ふめつのこころ”という、TVドラマ「電影少女 〜-VIDEO GIRL AI 2018〜-」のOP曲であり、主演である乃木坂46の西野七瀬さんがその曲を歌うという、ポップスであることを制作の最初から義務付けられた楽曲が制作されました。


tofubeats「いやー、スゴいことになったと思いましたよ」


――呑気だな(笑)。


tofubeats「諸般の事情で西野さんが歌うバージョンのリリースは叶わなかったんですけど、それでも西野さんという時のトップ・アイドルに僕の作った曲をフル尺で歌って貰って、レコーディングにも立ち会えたのはいい経験になりましたね」


――ライナーにレコーディングの描写がありましたが、西野さんは天野アイの衣装のままスタジオに来て、歌って、衣装のままで帰るという、凄まじいスケジュールだったようですね。


tofubeats「それはOP用の歌録りで、フル尺を録る時は別日にスケジュールを組んで貰えたんで、そのRECはゆったり出来て。だから僕も『卒業したらどうするんですか』とか、『キスシーンとかどうでした?』とか普通に訊いて(笑)」


――ハハハ。おじさんだ。


tofubeats「もう歳が離れてるから嫌われてもいいやって(笑)。でも普通にそういう事についても話してくれたんで、RECも面白かったですね」


――アルバムにはtofuくんが歌うヴァージョンが収録されましたが、その楽曲がフューチャーベース、ドラムンベースをサウンド・モチーフにしたのは面白いなって。


tofubeats「まず、出だしからサビまで「1分以内」っていうのがオーダーだったんですよ。だから、1分の間にAメロ、Bメロ、サビを展開させなくちゃいけなくて、それはまあ難しい。だから、この曲のBメロは普段僕が作る楽曲の半分の長さで作ってるんだけど、それでもサビまで1分に収めるにはカツカツで。だから、BPMもあれぐらいの速いテンポにしないと成り立たなくて、それならドラムンベースかなっていうことで、構成したんですよね。だから、制約の中でそうなったといったらネガティヴかも知れないけど、条件の中であの構成になっていったし、アルバムの中でもこれは浮くやろな、って思ってたんで、その段階から“ふめつのこころ(SLOWDOWN)”を制作することも考えていて」




――この曲はテーマはフックにもあるように、非常にざっくり言うと「愛」になると思うし、映画『寝ても覚めても』の主題歌であった“RIVER”とも、そのテーマは通底すると思います。


tofubeats「制作的には“RIVER”の方が先なんですよね。“RIVER”は映画の台本を元に組み立てたんで、そのテーマの一つである『愛』みたいなモノに向き合う機会になったし、「電影少女」も主人公の名前が「アイ」ならば、楽曲のテーマも「愛」にしないとなって。他の曲で愛については強く歌ってないんだけど、この2曲がやっぱり強くそれを押し出してるから、アルバムとしても『愛』の印象が残るんだと思うし、僕自身、この2曲をアルバムの軸にしたので、その意識は少なからずあったと思いますね」


――ただ、“RIVER”の愛の形は、誰かと組み合う情愛だと思うんだけど、“ふめつのこころ”や“SOMETIMES”の愛は、もっと抽象性の高い愛ですよね。そしてそういう感情を持っていることを、宣言するような感触もあって。


tofubeats「“RIVER”は監督からのオーダーとして、川がふたりを見てるという、三人称で愛を描いたから、そういう形になった部分があると思います。でも“ふめつのこころ”は一人称で愛を描いてるから「投げかけてる」形になったのと同時に、言っても、キリスト教系の学校に中学から通ってたことが大きく影響しているのかなって」


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――まさにそこで、構造として「信仰告白」に近いと思いました。


tofubeats「『FANTASY CLUB』の“CHANT”も、学校で歌ってた賛美歌の本をなんとなく読み返してたときに浮かんだアイディアだったり。キリスト教には隣人愛とかアガペーみたいに『愛』がよく出てくるし、だから『愛』という言葉に対して、人よりも距離が近いし、描くことも拒否感みたいなものがないんですよ。そして、ソロ・アルバムとして、しかも客演を入れないで、自分一人で作った作品だから、そういう自分の中の手札が出てきたのかなって」


――それを非常に作詞家としても綺麗に表現されているなと。


tofubeats「今回はわりと歌詞を頑張ったと思いますね(笑)。前作から歌詞を頑張ろうっていうのが一つのテーマだったんですけど、どうすればいい歌詞になるのか手探り部分だったのが、今回は徐々に見えてきて、こうすれば良くなるっていう方法みたいなものが、自分の中で蓄積されていって。あと、よく言うんですけど、さっき話したキリスト教と同じように、日能研も自分の中で大きな要素になってて」


――ハハハ。それは興味深い。


tofubeats「日能研から教わったものは、僕の中でめっちゃ大きいんですよ。例えば、日能研で文章問題を教わったときに、『文章の中に答えがあるんだから、それをこう解けばいい』っていう、文章をモジュール化して考える方法論だったり、解法のロジックを教わったんですよね。それは“RIVER”の歌詞にも反映されてて、台本の中に歌詞への回答があるんだから、それを取り出せばいいっていう方法論を使ったんですよね。だから、台本を読み込んで、こういう情報があるな、こういう部分を書きたいなって事をとにかくいっぱい書き出して、それを整理整頓して出来た歌詞が“RIVER”だったんですよ」


――ある意味では、サンプリングと再構築を行ったと。


tofubeats「その意味でも、0から1を生み出すんじゃなくて、「何かを取り出す」という方法論が自分の中にあるし、それは今までも意識的に行ってきてる事だし、それは物事や情報を組み立てるときにスゴく役に立ってる。それを小学校時代に叩き込まれていてよかったなと(笑)」


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――“NEWTOWN”も出会いの物語という部分も感じたし、ニュータウンという場所での愛や息遣いのような部分を感じさせられて。


tofubeats「それはもともと、自分にとっての大テーマでもあるんで。ニュータウンって面白くないんでしょ、そこから何が出てくるの?って言われがちな場所に対して、確かにそれじゃキツい、なんとかしたいっていうのが、自分の活動の原点でもあって」


――僕もニュータウンの出身なんだけど、再整備が進むタイプのニュータウンじゃなくて、いわゆる「オールドタウン」と揶揄される方の、ゴーストタウン一歩手前みたいな環境になっていて。それでも、そこでの生活が自分の根本になってるしな、というのが、この曲で思わされたりもして。


tofubeats「ニュータウンって、プロパーのカルチャーが無いじゃないですか。例えば、タワーレコードじゃなくて、ブックオフやレンタルCDショップ、オリジナルのショップじゃなくて、ショッピングモールに入ってるセレクトショップだったり。関西のニュータウン自体、千里ニュータウンが成功して、それに倣ってたくさん作られたわけだし、僕の育ったニュータウンもそう。でも、そのニュータウン性をというのが、自分が音楽を作る動機にもつながっていて」


――それは具体的には?


tofubeats「僕は正規の音楽教育を受けていないし、楽器も器用には弾けない、ハリウッド映画を映画館で見るんじゃなくて、普通のトレンディドラマや、深夜のB級映画をTVで見る、音楽マニアの親からジャズを教わったりした訳じゃない……という育ちなわけで、その意味では本質的なものからは外れてるかも知れない。だけど深夜ドラマでワクワクした気持ちや、ブックオフで掘ったCDから受けた影響は、自分の核になってるし、それをどうにか消化できないか、っていうのが、自分の創作の原点にあるんですよね。それに、森高千里さんのヴォーカルは世界的に見ても異端でスゴいものだと思うけど、あれを簡単にチープなものだと切り捨てられてるのはなんでだ、みたいな部分が自分の問題意識としてあるんですよね。他にもJ-POPからサンプリングしてHIPHOPのトラックを作ってた時も、ジャズからサンプリングしろ、って言われたりして、それへの対抗心として“水星”をつくったし。そういった意識を持つようになった原点には、自分は自分が育ったニュータウンがあるんですよね」


――その気持ちは本当に伝わるし、今回ニュータウンを描くときに「人」をテーマにしてくれた事は、元ニュータウン民としては、勝手にスゴく嬉しくも感じて。


tofubeats「そう思ってくれたなら良かったですね」




――話はアルバム冒頭の“RUN”に入りますが、この曲の人称は「僕ら」ではあるけれども、非常に孤独を感じるような感触もあって。ただ、この曲の孤独性は、ロンリネスよりも、ソリチュードであると感じたんですよね。つまり、孤独ではなくて、孤高。それは「たった一人走る時」というリリックにも通じると思ったし、それはJackson Browneの“Running on Empty”のような、独走者、先行者ゆえの孤高性を表現しているのかなって。そして、それはヒップホップ的に言えば、セルフ・ボースティングでもあるようにも感じて。


tofubeats「それは結構言われるんですけど、でも、あんまりそんな気持ちもなくて。それよりも、自分はあさっての方向に向かいたいって気持ちがあるんですよね。一番憧れているアーティストはイルリメさんなんで(笑)」


――まさにワン&オンリーであり、エピゴーネンの生まれにくいタイプの独走者ですね。


tofubeats「だから、イルリメさんを指すような意味での先行者や先駆者でありたいし、自分のフォロアーが生まれて欲しいとかは考えてない。プロップスは欲しいけど(笑)。分かりやすくまっすぐに売れたいとも思ってないし、僕は自分自身になりたいんですよ。自分の事がもっと分かりたいし、自分自身を強固にしたいっていうのが、色んな表現作業をしている理由で。そして、自分自身として突き抜けて、替えの利かない存在になりたいんですよね」


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――なるほど。今回収録のインスト曲の話を伺うと、この3曲がタイプは違うんだけど、共通してるのは「アシッド」 というサウンド性だと思いますが、この音色を中心に据えた理由は?


tofubeats「DJを始めたキッカケがシカゴハウスなんで、やっぱりアシッドは自分の根本にあるんですよね。だから、今回もテクノっぽい曲、ハウスっぽい曲、シカゴハウスっぽい曲の3種類で作ったけど、アシッドがその中に入って来て。ゲストがいないってこともあって、そういうルーツも強く出たのかもしれない。あと、ハードを買ったというのもあるかな」


――それはTB-303の実機を買ったって事?


tofubeats「いや、303をモディファイしたTB-03ですね。でも実際はハードはそんなに使わずに、DTM上で作ったんですけどね。でも、ちゃんとしたインストのダンストラックが入ってるアルバムも最近少ないんで、そういう部分をちゃんと形にしないと、という気持ちもちょっとありましたね。
――確かに、インストがしっかり入った作品は少ないし、それはアシッド全開というのも珍しい(笑)。


tofubeats「やっぱり根本的に好きなんですよ。シカゴハウスの持ってる「気合」みたいな部分が」


――気合(笑)。


tofubeats「例えばEDMって、音も派手だし、リスナーの気持ちも派手だから、「揃ってる」訳ですよ。でも、シカゴハウスって音は派手じゃないし、なんならスコスコした音の中で、ひたすらに踊るわけですよね。その音と気持ちの「揃ってない」感じが良いんですよ」


――シカゴハウスは音の数は少ないし、展開はミニマルだし、音の隙間は多いし、言葉が載ったと思ったらバカみたいな事言ってるし(笑)、EDMに比べると、非常にシンプルですよね。


tofubeats「その音像のシンプルさと、気持ちの盛り上がりの間を埋めるのは「気合」とか「エモーション」だと思うんですよね」


――音と感情の間を、自分で埋めるというか。


tofubeats「そうですね。“ふめつのこころ”も、フューチャー・ベースっぽい感触ではあるんですが、そこまで派手じゃないと思うんですよね。ビート・パターンだけだったら、ニューウェーブっぽい感触もあると思う。だから、能動的に音楽に乗ってくれたほうが、この曲はもっと楽しめるんじゃないかなって」


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――スゴく面白い。EDMは僕も少し苦手で、全体主義的なものを感じてしまう時があって。それは音が指示するものに対して、リスナーが非常に忠実で、リスナーの意思みたいなものが介在しにくいからなのかなって、今の話を訊いて感じました。


tofubeats「そういう部分を孕みがちになってしまうのかなって。個の多様性が重視される現状において、個人の解釈とか自由度が担保されにくいっていうのは、どうなんかなと思うし、それは自分の好きなタイプな音楽ではないなって。まあ、僕も最初の体験がEDMだったら『お客さんに感動をあげよう!』みたいに思ってたかも知れないけど、最初に聴いたのがヒップホップとかシカゴハウスなんで、こういうタイプになっていったというか。あと、スクリューも自分で補完しなきゃいけない音楽だから最高だと思うんですよ」


――でもスクリューは、咳止めシロップとか色んな効果によって補完される部分もあると思うんだけど。


tofubeats「そういうのを一切やらずに、僕は自分の中で補完出来るんで(笑)」


――最高です(笑)。話の締め的に、これからの動きを伺いたいんですが。


tofubeats「このアルバムのリリース・ツアーが始まるのと、外仕事も色々出ると思うんで、それを楽しみにして欲しいですね。あと、ワーナーに入って5年ぐらいですけど、その間に4枚アルバム出して、全部にリミックス・アルバムも作ってるんで、最低で8枚は作品を出してるんですよ。それ以前の作品も含めたら、これまでに10枚以上アルバムは出していて」


――そのペースはスゴいし、ダンスミュージックのアーティストでは、日本のメジャーシーンでは本当にごく少数だと思う。


tofubeats「それは誇ってもいいと思うし、同時に、もう中堅になりたいなと(笑)。もっと相談とかに乗ったり」


――でも「DREAM WALK」をリリースしたパソコン音楽クラブのバックアップもしてるんでしょ?


tofubeats「彼らも自分たちで出来ちゃうタイプなんで。だから僕が出来るのは、たまにいい仕事を振るぐらい(笑)」


――それはかなり中堅っぽいね(笑)。



photography emi
text Shinichiro “JET” Takagi
edit Ryoko Kuwahara


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tofubeats
https://tofubeats.persona.co/
1990年生まれ神戸在住。中学時代から音楽活動を開始し、高校3年生の時に国内最大のテクノイベントWIREに史上最年少で出演する。 その後、「水星feat.オノマトペ大臣」がiTunes Storeシングル総合チャートで1位を獲得。メジャーデビュー以降は、森高千里、の子(神聖かまってちゃん)、藤井隆ら人気アーティストと数々のコラボを行い注目を集め、3枚のアルバムをリリース。2018年は、テレビ東京系ドラマ「電影少女-VIDEO GIRL AI 2018-」や、9月1日から公開の映画『寝ても覚めても』の主題歌・劇伴を担当するなど活躍の場を広げ、いよいよ10月3日に4thアルバム『RUN』をリリース。

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