ブドウ畑を代々受け継ぐワイン生産家ドメーヌを営む一家の長男ジャンは、世界を旅しようと10年前に家を飛び出したが、父の危篤の報を受け故郷に帰る。家業を継いだ妹のジュリエット、他のドメーヌに婿入りした弟のジェレミーと再会するが、間もなく父は他界する。相続などの問題が噴出する中、ブドウの収穫時期を迎えた彼らはワイン造りに挑む。三人は自分たちなりのワインを作り出そうと手と手を取り合うが、一方それぞれが打ち明けられない悩みや問題を抱えていた……。
映画監督でありワインプロデューサーとしても知られるフランシス・フォード・コッポラがフランスワインを追ったドキュメンタリー『世界一美しいボルドーの秘密』の中で「ワインは物語を語る」と話しているのを観たが、あまりピンと来ずに“液体が喋るってどういうこと”程度の印象しか抱かなかった。それほどにワインに明るくない身としては、ブルゴーニュのワイナリーが舞台と聞くとまず、なんだか華やかな映画なのかなと思わされる。確かに本作の、季節ごとおだやかに表情を変える広大なブルゴーニュのブドウ畑の風景は目に美しい。ブドウの栽培に適す恵まれた天候と代々受け継がれてきた固有の地質が揃うからこそ比類ないブルゴーニュワインが生まれるのもなんとなく分かる。
しかし、我々からすると眩しくも見えるこうした地に生まれ育った主人公ジャンとっては「もう、そういうところがウンザリなんだよ!」とばかりに家を飛び出し、放蕩息子となっていた。だが良くも悪くも家族の関係というものはそんな感情でえいと断ち切れるものではない。父の危篤と逝去によって、相続問題や兄弟間の関係性、伝統という彼がこれまで目を背け続けてきた現実に直面し対峙していく。
劇中では三人が父親から受け継いだワイン作りの行程が映し出される。収穫時期を一日単位で見測り(一日でブドウの熟成度が大きく変化するからだ)、重い籠を担ぎながら朝から晩まで収穫作業、汗だくでブドウを踏み潰す。我々が普段手にするあの優雅なたった一瓶に、これほどまでの泥臭い道のりとプライドが詰まっていたことを知る。それはまるで家族の関係に見るもののようで、一家が一家として存在するという一見平凡な風景は、ちょうどジャンが目を背けざるを得なかった現実の対峙と選択が積み重なった結果なのだ。逃げられるものならば逃げ続けたい。しかしこのプロセスこそが人生の味に深みを与える。
メガホンをとったのは『猫が行方不明』『スパニッシュ・アパートメント』のセドリック・クラピッシュ監督。4年ぶりの新作は、限定的なコミュニティ内で交錯する人間同士の姿から垣間見える関係性の本質を新鮮な切り口と愛らしい語り口で表現するクラピッシュ監督らしさが極まった作品となっている。
代々受け継がれたその地にしか成らないブドウが汗と愛情でワインとなり時間によって熟成していくさまは、まさに人間そのもの。自分たちの手によって作られたワインを父、祖父のワインとともに飲む彼らの姿を見て私はようやく「ワインとは物語を語るもの」なのだ、と理解した。
『おかえり、ブルゴーニュへ』
http://burgundy-movie.jp
11月17日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEAほか全国順次公開
映倫:PG12
監督:セドリック・クラピッシュ『猫が行方不明』『スパニッシュ・アパートメント』
脚本:セドリック・クラピッシュ、サンティアゴ・アミゴレーナ
出演:ピオ・マルマイ、アナ・ジラルド、フランソワ・シビル
2017/フランス/スコープサイズ/113 分/カラー/英語、フランス語、スペイン語/DCP/
5.1ch/日本語字幕:加藤リツ子/原題『Ce qui nous lie』、英題『Back to Burgundy』
配給:キノフィルムズ/木下グループ
(C) 2016 – CE QUI ME MEUT – STUDIOCANAL – FRANCE 2 CINEMA
フランス・ブルゴーニュ地方にあるドメーヌ<※>の長男ジャン(ピオ・マルマイ)は、10年前、世界を旅するために故郷を飛び出し、家族のもとを去った。その 間、家族とは音信不通だったが、父親が末期の状態であることを知り、10年ぶりに故郷ブルゴーニュへと戻ってくる。稼業を受け継ぐ妹のジュリエット(アナ・ ジラルド)と、別のドメーヌの婿養子となった弟のジェレミー(フランソワ・シビル)との久々の再会もつかの間、父親は亡くなってしまう。残された葡萄畑や 自宅の相続をめぐってさまざまな課題が出てくるなか、父親が亡くなってから初めての葡萄の収穫時期を迎える。3人は自分たちなりのワインを作り出そうと協力 しあうが、一方で、それぞれが互いには打ち明けられない悩みや問題を抱えていた・・・。 <※>自ら葡萄畑を所有し(畑の賃借も含む)、栽培・醸造・瓶詰を一貫して行うワイン生産者
text Shiki Sugawara