ケータイの出現で恋愛ドラマがつまらなくなったって話、どう思う? ってことで始まったこの連載。第2回目は平成カルチャー大爆発の世紀末・90年代後半を考察していきます。まずは時代背景紹介のコーナーから。んっん。ゴホン。それでは、説明しよう! 1994年から携帯電話はレンタル制ではなく、現在の売り切り制がスタート。1995年からPHSのサービスがスタート。そのおかげで料金が少しずつ安くなり、手が届きやすくなってきたことでユーザーが拡大。1996年には携帯電話・PHSの加入台数が2600万件を突破します。1993年が200万件だったのと比べるとその飛躍っぷりがわかるよね。これまで黒いボディが多かった携帯電話は、シルバー、ピンクなどいろんな色が登場し、着メロ搭載機種も登場し、いつしか「携帯電話」は「ケータイ」と呼ばれるようになりました。まさに1996年はケータイの夜明けなのであります! とまぁこんな感じ。そしてもちろん、90年代後半からはいよいよ恋愛ドラマでケータイが作用しだします。
会話のテンポは関係性のすべてを物語る
ケータイの夜明けが見えはじめた1996年といえば、月曜9時は街からOLが消えるという社会現象を生み出した大ヒット恋愛ドラマ『ロングバケーション』(木村拓哉、山口智子)※が放送された年。でも、主人公の恋にケータイは一切絡みません! 全編を通してケータイの通話シーンがあるのは第1話終盤から第2話冒頭のみで、しかも所有しているのはヒロイン・南(山口智子)の弟の真二(竹野内豊)だけ。実際のシーンも、真二が南と瀬名(木村拓哉)がルームシェアしているマンション(通称・瀬名マン)の部屋に電話をかけてきただけで、恋愛を進展させる役目としてのケータイの威力は発揮されていません。1996年時点でさえも、ケータイは恋愛ドラマにおいてまだ無力だったのです!
ちなみに物語が動く大事な第6話では、当時の通話コミュニケーションを象徴するこんなシーンがあります。南が夜ご飯を誘おうと外出先の公衆電話から後輩の桃子(稲森いずみ)の自宅に電話をかけると、桃子は不在。留守電の応答メッセージが流れます。「はーい、桃子でぇす。ただいま、桃子は森にお花を摘みに出かけています。アッチョンブリケと言いましたら、メッセージをどうぞ。アッチョンブリケ♪」。留守電の応答メッセージを自分の声での伝言に変えていた人、いたよね。今スマホで留守応答変更をやっている人はいるのかな? 桃子が不在だったので、電話を切る南。「いなくてもー、10円取られて悲しいなー。ご飯食べる相手もいないー。女はみんな結婚してる。……」(南のひとりごと)。そして次に瀬名がいる自宅に電話。(料理をする瀬名。冷蔵庫にあるはずのキャベツがない。そこに電話が鳴る) 瀬名「はいもしもし」 南「あ、もしもし、瀬名さんのお宅でしょうかー」 瀬名「あ、ねえあなたキャベツに何かやった?」 南「ゲッ、所帯臭い第一声」 瀬名「違う、ヤキソバ作ろうと思ったんだけどキャベツないんだよね」 南「ごめん朝千切りにして食べたー」 瀬名「それ俺のキャベツじゃんよ!」 南「私のじゃがいもあったよね?」 瀬名「じゃがいもなんか普通ヤキソバに入れないでしょ」 南「入れるもんねー、私。男のくせに細かいんだよー。出てこない?」 瀬名「え?」 南「萬金(2人が行きつけの町中華)集合!」 瀬名「いや、あのさ、」(電話はすぐ切れてしまう)。テレビの画面が分割され、左に映るのは公衆電話で話す南、右に映るのは家電で話す瀬名のアップ。この構図、この軽快なテンポのいい2人のやりとりは最高! 離れた場所で通話していてもテレビの一画面に収まり、一緒にいるときと変わらない空気感です。
結局、不倫関係を取り持つ回路に……
恋愛ドラマにおける男女関係でケータイの存在を最初にしっかり扱ったのは、1998年放送の『Sweet Season』(松嶋菜々子、椎名桔平)※だと思う。とある旅行会社のオフィスで、課長が部下に「これ、頼む」と白いA4封筒を手渡しする、一見どこにでもある社内風景。しかし、この五嶋課長(椎名桔平)と部下の藤谷真尋(松嶋菜々子)は実は恋愛関係にあります。渡された白い封筒の中に入っていたのは、真新しいケータイ。部長は密かに、ケータイをプレゼントしたのです。きました! 社内恋愛モノ! なんて思いきや、実は2人は不倫関係。課長、奥さんいるんだよ〜。だからこんなまどろっこしい社内恋愛プレイをしているんだよ。これ、まさにポケベルがドラマに登場した時と同じ流れ(第1回で触れてるからチェック!)。結局、不倫をつなぐツールとして通信アイテムが有効活用されている……。ケータイが定着しだした当時、恋愛にケータイが絡む話はまだネガティブな印象なものが多かった気がします。恋愛関係を妨害するツールとして描かれたり。このドラマでもまっとうな恋愛ではなく、こそこそと連絡を取り合わなくてはいけないときのツールとしてケータイが描かれます。2人は仕事にかこつけ、秋には京都、冬には伊豆に温泉旅行と真尋は愛人冥利に尽きるような時間を過ごします。新幹線で手をつなぎ顔を寄せ合って眠るシーンは、今井絵理子の週刊誌記事さながらです。さ、話をケータイに戻します。五嶋課長が真尋にこっそりプレゼントしたケータイ。真尋がそこに登録しているには、もちろん五嶋課長の連絡先だけです。真尋がケータイを使うのは、課長にかけるときだけ。ほかのときはちゃんと実家の固定電話を使っています。おおやけにできない関係である2人の、特別な連絡手段であるケータイ。しかしこれは別の側面からみたら、男側の独占欲が形になった、女性を縛り付けるためのツールとも言えそうです。普通のカップルだったら、もう少し美談にもなるのに。結果、不倫だからな……。
深田恭子の卓越したケータイ使いに注目!
90年代後半、ケータイをドラマの中で最もリアルに使いこなしていたのは深田恭子な気がします。ベストケータイストの称号をあげたい! 1998年『神様、もう少しだけ』(金城武、深田恭子)※は深キョンが援助交際でHIV感染してしまう女子高生・真生を熱演した出世作。女子高生とケータイの相性は、そりゃプリクラやタピオカミルクティーと並ぶくらい最強だよね。10代の恋愛を描くドラマの中でやっとケータイはポジティブな扱われ方をされ出します。このドラマの中で深キョンが使うのは、ストレートタイプのガラケー。ビーズストラップ、アンテナの先端にマイメロディのアンテナキャップが付いていて、着信のたびに挿入歌「IN THE SKY」の単音の着メロが鳴ります。たぶん着メロは手入力したんだろうなぁ。胸熱! ストーリーは音楽プロデューサー啓吾(金城武)と真生との恋愛が中心。スターと一般人という間柄を、ケータイが結びます。HIV感染したことを家族にも言えずに真生が暗い部屋に閉じこもっているとき、啓吾から着信が。真生はひとりの部屋で、圭吾にぽつりと本音を語ります。「この病気はひとりぼっちになっていく病気なんだ。(中略)ひとりでがんばってるの、疲れちゃった……」。孤独と向き合わなくてはいけない夜、それでも誰かに、素直な気持ちを話したい。誰かと話するの怖い日もある(Yeah)でも勇気を持って話すわ私の事(モーニング娘。の「I wish」)状態。ケータイがこの世にあってよかったね、本音言えたね、あなたはひとりじゃないよ(泣)と言いたくなる。このとき、啓吾は真生の番号を知っていますが、真生は啓吾の番号はまだ知りません。その後、二人は正式に番号交換をし、そこで真生は言います。「本当にかけていいの? なんかほっとしちゃった。落ち込んだときに話せる相手がいると、なんかそれだけで気分違うね」。これです! 家族にも友達にも共有できない話も、ケータイがあれば遠くにいる好きな人と話すことができる! アドレス帳に好きな人の名前があるだけでがんばれるし、つながれるという安心感がある。
ただ、このドラマを見て思ったのが、番号を交換してもなお、お互いアポなしで家に行ったり、突然相手の前に現れるシーンが多いということ! そうだ、別に、約束なんてしなくても、事前に連絡して許可をとらなくても、会いたくなったら、会っていいんだ! これは目からウロコで。今って簡単に連絡がとれる分、連絡なしの「突然」行動はKYで、なんでも「事前アポ制」になっている気がします。いいんだ、「突然」日常の中にドラマを起こしても! また、真生が自殺を図ろうとする際、女子高生とケータイの関係性を象徴するような描かれ方がされます。アイドルが卒業公演で最後にマイクを置く光景さながら、ケータイをそっと地面に置いて線路に飛び込むのです(未遂だよ)。ドラマで自殺を描く際に靴を揃えて飛び降りるシーンはよくみるけど、そのケータイパターン! ケータイが女子高生にとって特別なものであると同時に、自分を証明するものであった証なんだと思います。
深キョンの抜きん出たケータイ使いの妙でもうひとつ伝えたいのが1999年『to Heart 〜恋して死にたい〜』(堂本剛、深田恭子)※。時枝ユウジ(堂本剛)のことが大好きな透子(深田恭子)が、ケータイで友達と通話しているシーンが度々挿入されます。透子はケータイでいつも自分の気持ちを素直に語ります。時枝ユウジとの恋にまつわる嬉しいこと、悲しいこと。まるで自分の気持ちを整理するかのように、ひたすらしゃべります。本当は自分の本心と向き合うためにケータイを媒介して、ひとりごとを言ってだけなのかも、と思うぐらい。このドラマで深キョンのケータイの装飾は、ポスト型のおみくじストラップと、光るアンテナに進化。あの頃みんな、ケータイをカスタマイズしてたなぁ……。電池パックの裏に、恋人とのプリクラを貼ったりとか。
つながる愛しさとつながらないせつなさと、心強さと
ケータイが恋愛のカギになるといえば、1999年、教師の未知(松嶋菜々子)と生徒の光(滝沢秀明)との禁断愛を描いた『魔女の条件』※も外せません。私立高校で数学の教師をしている未知は、ある日バイクを運転する少年にひかれそうになります。そのとき、その少年が落としたケータイを拾います。そのケータイを持ったままとりあえず学校に行くと問題のある転校生を校長から自分のクラスに押し付けられます。その転校生が、朝バイクを運転していた少年、光なのです。第1話のスタートとして、出会い方として、完璧! 曲がり角でぶつかった相手が転校生で、あっ今朝のアイツ!状態!!! そしてすぐ2人で学校を抜け出し、バイクで海に行くという急展開! 浜辺で光のケータイに母親(黒木瞳)からの着信が入り、光は着信画面をみるなり怒って自分のケータイを海に投げます。光の母にとって、ケータイは息子の監視ツールなのです。未知「なにすんのよ!」 光「どうせ(母親以外)他にかけてくるやつなんて、誰もいないし」……未知は海に入り必死にケータイを探し出し、光に手渡します。未知「電話番号教えて。私がかけるから。私が電話するから。約束するから」。ケータイ、水没してない?というツッコミはここではなしです。このときはまだ恋愛感情ではないと思いますが、なかなかグッジョブ!な行動。これで2人は教師と生徒でありながら、電話してもいい関係性になるのです。そしてこの第1話の最後、人生の岐路に立ち、決断を迫られる未知は(実は婚約者がいて、この日は両家顔合わせ!)、なぜか光に電話をしてしまいます。光はちょうどそのとき、傷つきながらも困難を乗り越えたばかりでした。(この最高なタイミングで主題歌の宇多田ヒカル「First Love」が流れる!)未知は光の言葉に勇気をもらい、両家顔合わせをブッチして飛び出します。お互いが離れた場所で、ケータイがあったからそこ救われ、物語が動いた瞬間でした。いつでもどこでも、つながるケータイの本領発揮です!
一方、つながらないことに対する言及があるのが、1999年『Over Time』(江角マキコ、反町隆史)※。このドラマ、女性陣はまだケータイを持っていないけど、男性陣はケータイを所有しています。劇中、江角マキコがすごくいいセリフを言うんです。「ケータイに電話して、電波の届かない場所って言われるとさ、なんか相手すっごい素敵なところにいるとか思わない?」。この頃、物理的に地方はまだ電波が届かない場所は多かったけど、この物語の舞台は都心です。普通は、不安になることが多いんじゃないかな。例えば浮気しているのではとか、事故に遭っているのではとか。でも、さすがヒロイン。相手は自分の手の届かないような知らない素敵な世界で、素敵なことしているような想像をするというのです。恋愛がはじまりそうな心許なさやせつなさを含有しつつも相手を気遣う言葉に昇華しとるやんけ……ケータイがもたらす人間心理を軽やかに表現してくれています!
とまぁ、めっちゃ駆け足で語った90年代後半。ケータイが出現しても、まだ恋愛ドラマおもしろいじゃん! そう思いませんか? さぁ、目まぐるしく変わっていくのはここから。1999年ついにケータイにIT革命が起こります。そうです、iモード発売! ここから恋愛とケータイの関係はさらに複雑になっていきます!
direction/text Daisuke Watanuki
photography Shuya Nakano(TRON)
hair Takuya Kitamura(assort tokyo)
make-up diceK
model haru./Daisuke Watanuki
edit Ryoko Kuwahara
※『ロングバケーション』……落ち目のモデル南(山口智子)は結婚式当日に婚約者が失踪し、そのルームメイトだった瀬名(木村拓哉)とやむを得ず同居をスタート。トラブルだらけの同居生活の中で、次第にお互いが気になり……。脚本は北川悦吏子。主題歌は久保田利伸 with Naomi Campbell「LA・LA・LA LOVE SONG」。
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※『Sweet Season』……旅行会社に務めるOL藤谷真尋(松嶋菜々子)と、同じ会社の課長・五嶋明良(椎名桔平)の不倫を描いた物語。松嶋菜々子の民放連続ドラマ初主演作。脚本は青柳祐美子。主題歌はサザンオールスターズ「LOVE AFFAIR 〜秘密のデート」。
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※『神様、もう少しだけ』……援助交際が元でHIVに感染した女子高生・真生(深田恭子)と人気音楽プロデューサー・啓吾(金城武)のラブストーリー。日本の連ドラ史上最長の1分超のキスシーンも必見! 脚本は浅野妙子。主題歌はLUNA SEA「I for You」。
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※『to Heart 〜恋して死にたい〜』……プロボクサーを目指す時枝ユウジ(堂本剛)と、彼に思いを寄せる透子(深田恭子)の純愛を片思いの切なさとともに描く。「愛はパワーだよ!」という素晴らしい名言も。脚本は小松江里子、主題歌はKinki Kids「to Heart」。
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※『魔女の条件』……女教師・未知(松嶋菜々子)と男子生徒・光(滝沢秀明)の禁断の愛を描いた物語。もちろん単純に甘い恋愛を描けるわけではなく、周囲からの辛辣な攻撃などシリアスな局面も……。脚本は遊川和彦。主題歌は宇多田ヒカルの「First Love」。
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※『Over Time』……男に縁のない美容師の夏樹(江角マキコ)と、カメラマン宗一郎(反町隆史)が恋と友情のはざまで揺れ動く男女の心理を描く。夏樹と友人の春子(西田尚美)、冬美(石田ゆり子)との女同士の友情も月9らしい。脚本は北川悦吏子。主題歌はthe brilliant green「そのスピードで」。
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