Rachel&Mamikoから成るラップユニット、chelmicoのメジャーデビューアルバム『POWER』がリリースされた。結成のきっかけにもなったRIP SLYMEが所属するunBORDEからリリースされる本作で浮き彫りになっているのは、絶妙にどこにもない、誰もやっていないバランスで音楽を謳歌する2人のラッパー像だ。「ラップするために遊ぶんじゃなくて、遊んでる延長でラップしてる」chelmicoは最初からずっと、大胆不敵だ。
──あらためて、名刺を差し出すにふさわしいメジャーデビューアルバムだと思います。
Rachel「まさにそれだよね。今までで一番自由に作れたし、今まで学んできたこと、やってきたことをさらにもう一つ先に進められたなと思える内容になりました。充実感、めっちゃあります」
Mamiko「私も充実感がめっちゃありますね。本当に名刺を新しくしたって感じです」
──実質的なユニットの始動からここまで約3年、ここまで二人にとってはどういうタイム感でしたか?
Mamiko「感覚的にはあっという間だったな。ダラダラしている瞬間のほうが多かったというか(笑)」
Rachel「インディーズの間にアルバム1枚とEP1枚しか出してなくて。それでいきなりメジャーにきたから(笑)。ライヴやって、遊んで、寝てみたいな」
Mamiko「その間にゆっくり制作してね」
──でもchelmicoのあり方として、ちゃんと遊んでるというのはすごく重要なのかなと思っていて。
Rachel&Mamiko「大事〜!」
──遊んでたほうがトラックメイカーやクリエイターも含めていろんな人と出会えるし、そういう遊びの力を信じてるユニットだと思うんですよね。
Rachel「そう、だから遊ぶためにラップしてるという感じですね」
Mamiko「うん、うん」
Rachel「ラップするために遊ぶんじゃなくて、遊んでる延長でラップしてる」
──楽しくなきゃラップしてる意味がないという。
Rachel「そうですね。もちろん、自分自身と向き合って絞り出すようにラップしてる人たちもいると思うんですけど、我々は違うタイプですね。日常の一つというか」
──ただ、chelmicoにとって重要なのは作品を重ねるごとにフロウ巧者になっていることだと思うんですね。共通の知人の作品撮りで知り合った2人がRIP SLYMEが好きという共通事項だけで意気投合してからユニットを始動し、そこから約3年でラップや歌唱のスキルが向上することが驚きで。
Rachel「最近ラップが上手い人に『ラップってどうやったら上手くなるんですか?』という質問をすると、『好きなラッパーの耳コピする』って答える人が多いんですよね。それでいろんなタイプの曲を耳コピしているうちに自分のフロウが見えてくるという。そう考えるとそれを自然にやってきたのかなって。RIPってMCが4人いて4通りのフロウがあるじゃないですか。それを全部カラオケで歌えるようになると、いろんなフロウを自然と吸収できる──って、そのときは意識してなかったけど、もしかしたらそうだったのかなって。でも、今はもっともっとラップが上手くなりたいと思ってます」
──2人にとってchelmicoが表現している音楽をヒップホップとして提示したいという思いはありますか?
Rachel「う〜ん、曲によるかな」
Mamiko「そこはあまり考えてないかも。(ラにアクセントをつけて)ラッパーではあるんですよ」
Rachel「(Mamikoと同じ発音で)ラッパーって言いたいしね!」
Mamiko「その先にあるジャンルは関係ないかなって感じですね。今回のアルバムも様々なジャンルの要素が入ってるじゃないですか。ロック調のトラックがあったり」
──パーティチューンがベースにあるんだけど、「サマータイム」や「UFO」のようなチルな曲もあれば、「BANANA」のようにドープな曲もあって。
Mamiko「『デート』はタブラだけで構築されているし。かと思えば、『OK, Cheers!』みたいな曲もあるし」
──ハマ(・オカモト)くんと思い出野郎Aチームのホーン隊が参加している「OK, Cheers!」のダイナミックなスウィング感もいいですよね。
Rachel「好きな曲をやりたい」
Mamiko「そのときどきの気分で変わるんですよ」
Rachel「超ヒップホップな曲をやりたいときもあるし」
──逆説的に言えばどんなジャンルでも昇華できるのがヒップホップと言えると思うし。2人からしたらラッパーであればいろんな音楽が楽しめるという。
Rachel「そうそう。ウチらがラップすればchelmicoになるというか」
──それはそれぞれの声の記名性の高さ、2人のユニゾンの相性のよさというのも大きいと思うんですよね。
Rachel「私はまみちゃんの声をずっと褒めてました」
Mamiko「私はそれまでカラオケに行かなかったんですよ。だからRachelと出会ってすぐに『RIPを歌いに行こう』ってなったときも『緊張する〜!』って感じで」
Rachel「あれ? そうだったの?(笑)」
Mamiko「『人前で歌うんだ……』みたいな」
Rachel「まみちゃんがカラオケで椎名林檎さんやaikoさんの曲を歌ってたんですけど、でも、それが全部まみちゃんの歌声になってるんですよ」
Mamiko「うれしいこと言ってくれるわ」
Rachel「本当にそこに感動して『いっぱい歌って!』ってリクエストした気がする」
Mamiko「そうだね。言ってくれてたね」
Rachel「まみちゃんの声がすごくいいから。椎名林檎さんの曲を自分の歌声で歌える人ってあまりいないじゃないですか」
──すごく難しいと思いますね。それこそ声質や発声の記名性がものすごく高いから。
Rachel「でも、まみちゃんはすごく自然に自分の声で歌っていて。私はそれで椎名林檎さんの曲を聴くようになったんです。だから、まみちゃんが椎名林檎さんの曲をカバーした音源を出してほしいもん」
──2人がクリエイティヴ面でぶつかったりすることはあるんですか?
Rachel「あんまりないよね?」
Mamiko「けっこう譲り合いでやってるよね」
Rachel「『こっちのほうがいいと思うんだけど、どう?』という相談はするけど。迷うことがあったらお互い相談してます。リリックで迷っていたら2パターン聴かせてもらって、『こっちほうがビートに合ってるよ』って意見を言ったり」
Mamiko「ぶつかることはないよね!」
Rachel「『こうしなよ』とかは言わないかも」
──曲のフックのメロは2人が考えてるんですよね?
Rachel「曲によりますね。最初から(提供された)トラックについてるときもあるし」
Mamiko「部分的な場合もあるし。今回だと『OK, Cheers!』と『UFO』、あと『BANANA』、『Good Morning』、『Love is Over』、『午後』もトラックについてましたね」
Rachel「基本的に三毛猫(ホームレス)さんはメロありで送ってきてくれます。モリジュン(ESME MORI)さんもそうですね。
──「Highlight」のフックとか最高だと思うんですよね。
Mamiko「うれしい!」
Rachel「あれはまみちゃんが考えたよね」
──自分のメロディメイカーとしての旋律的なルーツはどこにあると思います?
Mamiko「それがわからないんですよね。ピアノはやっていて楽譜は読めるんですけど、コードのことはわからないんですよ」
Rachel「前にまみちゃんに『音楽のどういう部分を中心に聴いてるの?』って訊いたら『わかった、メロだわ!』って言ってたことがあって。私は全体の構成を捉えることが多いと話していて、まみちゃんは『旋律を聴いてる』って言ってた」
Mamiko「そんなこと言ってた?(笑)」
Rachel「言ってた。まみちゃんの中で気持ちいいメロがあって、それは私が歌ってみても気持ちいいんですよ」
──話を聞いてると、Rachelさんはchelmicoを俯瞰で分析できてますよね。
Mamiko「プロデューサーっぽい!」
Rachel「『そのメロ、あの曲に似てるからやめよう』とかすぐ言っちゃうしね(笑)」
──で、Mamikoさんはいろいろ無自覚っていう(笑)。
Mamiko「そうなんですよ(笑)」
──でも、この2人の気質のバランスも絶妙。
Rachel「確かに! まみちゃんはいろいろまったく気にしてない(笑)。天才肌だと思いますね」
Mamiko「自分ではわかんないですね」
Rachel「間違いなく感覚の人ではある。私はどちらかと言うと計算したいので」
──リリックのトピックの共有もすごくナチュラルにしてるんだろうなって。
Rachel「そうですね。『OK, Cheers!』は最初から結婚の歌にしようと言っていて。だいたい一緒にいるから気分が似てるんだよね」
Mamiko「そうだね」
Rachel「『今、切ない気分だよね』とか『今は盛り上がりたい気分だね』とかお互いわかるから。どっちかがトピックを言い出したらすぐに乗れる。今回は(リリックの内容が)より日常的になったと思う。前までは妄想の話とかもあったけど、今回は等身大」
──「BANANA」とかなかなかエロいんですけど。
Rachel「『BANANA』はちょっとイキったというか(笑)。自分のことを大きく見せてるところがありますね。強めの曲を書きたいなと思って」
Mamiko「VISIONのバーカン前を意識して作りました(笑)」
──今後、向き合いたいトピックはありますか?
Rachel「あんまり大層なことは言えないかな(笑)。でも、大人っぽい恋愛の曲を書くかもしれないとは思う。今まではウキウキルンルンだったけど、もうちょっとしっとりしてくるかもしれないですね」
──変化を楽しみながらずっと大胆であってほしいですね。
Rachel「守らないようにしよ!」
Mamiko「そうだね。攻めてこ!」
──直近で実現させたいことはある?
Rachel「私は今めっちゃ怖いMVを作りたいですね。CMとかでも流せないくらいの映像を作りたい。それが夢です。本当は『ズルいね』のMVのときにそういうオーダーをしたんですけど、実現できなくて。普通に髪の長い女に追いかけられるみたいなリアルに怖いやつを撮りたいですね。なんならウチらがビデオに出てなくてもいい。本当に怖いだけのビデオ(笑)」
──Mamikoさんは?
Mamiko「私はスカパラとやりたいです。個人的にはずっと言ってたんですけど、メディアでは言ってなかったから載せてほしいです(笑)」
photography Takuya Nagata
text Shoichi Miyake
edit Ryoko Kuwahara
chelmico
『POWER』
Now On Sale
(unBORDE/Warner)
https://www.amazon.co.jp/POWER-chelmico/dp/B07D5K7622
https://itunes.apple.com/jp/album/power/1403868692
chelico
Rachel (レイチェル)とMamiko(マミコ)からなるガールズラップユニット。 ふたりのリップスライム好きが高じて2014年に結成、2016年に1stAlbum「chelmico」、昨年9月には、新作「EP」をリリース。 等身大のリリックのおもしろさは勿論、そのかわいらしい容姿から想像を絶するラップスキルと、キャッチ―なメロディーに乗せる滑らかなフロウかが音楽業界の全方位から大評価を受け、インディーズリリースするや否やすぐに話題に。さらに、HIPHOPという枠に捉われないPOPセンスと2人の自由気ままなキャラクターが、クリエイターからの注目を集め、新人ながら企業のCMやwebCMのオファーが殺到、音楽のフィールドを超え様々な方面で活動中。そんな注目を浴びるchelmicoが憧れの大先輩リップスライムの所属レーベル、ワーナーミュージック・ジャパンアンボルデから待望のメジャーデビューが決定!
chelmicoオフィシャルサイトhttp://chelmico.com/
Twitter chelmico オフィシャルhttps://twitter.com/chelmico_offi
Instagram chelmico オフィシャルhttps://www.instagram.com/chelmico