OKAMOTO’Sのメンバーが友人はもちろん、憧れのアーティストなどをゲストに迎える対談企画第23弾。ハマ・オカモトがホストを務める今回は、「スペシャのヨルジュウ」でのVJ仲間としておなじみのあっこゴリラが登場。いかにしてラッパーにたどり着いたのか、その歴史や精神性について語りあった。
──実際に知り合う前はお互いどういう印象を持ってましたか?
ハマ「(あっこゴリラが)前にバンドでドラムを叩いていたことをやんわり知っていたくらいです。僕はそもそもヒップホップカルチャーの人たちとの接点があまりないですし、そのシーンに対して詳しくもないので。ただ、深夜番組であっこゴリラの姿を初めて観て、パンチが効いている人だなと思ったことは覚えています。アーティスト名も存在感も。これはあとで話しますけど、物事に対して恐怖心のない人というイメージがありました。それは、そういうキャラクターでいようとしているのか、本当に全く物怖じしない人なのかということもわからないのが最初の印象でした」
あっこ「そうだったんだ。私みたいな人のことをハマは嫌いなんだろうなと思ってました。私自身は基本的に人を嫌いにならないから、嫌われるほうが多いのね。でも、『スペシャのヨルジュウ』の生放送で初めてハマと会ったときに『僕、意外に嫌いじゃないです』って言ってきて」
ハマ「しかも放送中に(笑)」
あっこ「私は初めてのレギュラー番組だったから、私からハマにぶっ込んでいかないとって思ってたの」
ハマ「僕は初回の放送はツアー中で出席できなかったんです。でも、他の共演者はみんな初回からあっこ台風っぷりを浴びていて」
──高気圧ガールっぷりを(笑)。
ハマ「そうです(笑)。番組VJとして共演している三原(勇希)さんから、あっこちゃんの『この(テンションの)感じで大丈夫?』というフリがあって、『全然大丈夫!』って答えたんですよ。これを言ったらある種の営業妨害になるかもしれないけど、放送中にこの人はものすごく賢い人なんだなと確信できて。そのうえでこのテンションなんだと思えたのは大きかったです」
あっこ「全然営業妨害じゃないよ。でも、恥ずかしい(笑)。私はもちろんOKAMOTO’Sのことは昔から知っているんですけど、最初は10代でデビューした演奏の上手いバンドという印象が強かったですね。たぶんインディーズ時代のMVも観ているし、黒猫チェルシーと同期というのも知ってた」
──OKAMOTO’Sのライヴを観たことは?
あっこ「バンド時代のエンジニアの方が一緒で、すごく前に渋谷のQUATTROであったライヴを1回観に行ったことがあるんですよ。で、この前ZEPP TOKYOであったライヴを友だちになってから初めて観たんです」
──やはり最初に観たライヴとは印象が違いましたか?
あっこ「全然違いましたね。もともと本人たちは生い立ちもそうだしいろんなことをまとっていて、苦労した面もいっぱいあると思う。それと、バンドシーンみたいな村があって、音楽オタクゆえにそこに位置づけられることの葛藤みたいなものもあったと思うんですよ。でも、この前のZEPPのライヴを観てすごくオリジナルなバンドなんだなと思って。たとえばレイジくんがビートを作った曲(『NO MORE MUSIC』収録の「Cold Summer」)があるじゃん? あの曲ってすごくヒップホップな感じのサウンドでいくかと思いきや、オルタナティブな展開になっていくんだよね。ああいう曲を聴いてもすごくオリジナリティを感じたし、カッコいいバンドだなと思いましたね」
──それを受けてハマくんはどう?
ハマ「実は、今の話を直接伝えてくれまして、うれしかったですね。世代は近いけど昔からずっと仲がいいわけではないし、お互い今のスタイルや状況になった経過は見てない中で、フィーリングで色々なことを感じ取ってくれる人がいるんだなと思いました。僕たちもバンドとして伝え方が不器用なところもありますが、自分たちなりに戦ってきて、その結果としてオリジナルなバンドになれたんだと思ってもらえるのは純粋にうれしいです」
あっこ「それがバンドの醍醐味だからね」
──今のあっこさんはバンドに対して羨ましいと思うこともあるんですか?
あっこ「かなり羨ましいです。絶対的なボーカルがいて、その人の脳内を再現するみたいなバンドもいいけど、私はもともとオルタナティヴなバンドが好きで。OKAMOTO’Sみたいに4人のメンバーのキャラクター性はバラバラで何かがおかしいんだけど、何かがヤバいみたいな、そういうバンドをやりたかった。けど、やれなかったから」
──ハマくんは今のあっこさんの音楽表現をどう捉えてますか?
ハマ「ものすごくカッコいいですよね」
あっこ「めっちゃうれしい」
ハマ「知り合ってからリリースしている曲がどれもすごいので驚いています。僕が全然知らない人(ビートメイカー)たちとやってるということも新鮮で。食品まつり a.k.a foodmanさんとか。一番いいと思うのは、曲にエネルギーを乗せるのが本当に上手。音源であれだけエネルギーを出せてしまうとライヴのときに大変なんじゃないかと思うくらいで」
あっこ「そんなこと初めてハマに言われたからうれしい」
ハマ「いや、カッコいいっていつも言ってるじゃん(笑)。あと、声が好き。同性にも異性にも魅力的だと思われる声だと思う」
──たとえば大きなメッセージ性をラップしてもそれが大げさにならないというか、シンプルに届けられる声質でありスタイルだと思います。
ハマ「ライヴでバナナを投げたり、ジャングルのようなステージセットにしたり、ああいうところで音楽をより浸透しやすくさせているのもすごいなと思います」
あっこ「私はラッパーってその人の生き様やストーリーが結集した音楽だと思ってるから。バナナを投げてるのは、初回のライヴから投げたというカルマを背負ってるからやり続けてるのね(笑)。それも私の中のストーリーなの。わからない人にはわからないことだけど」
ハマ「生き様を貫いているというね。僕は日本のヒップホップは小学生のときに聴いたスチャダラパーくらいしかきちんと理解してなくて。それは言葉遊びが面白いと思えたことと、(リリックが)何を言っているのかわかったというのが大きくて。あまり深く入ることができなかったなかで、ここ数年でカッコいいと思えたのはCreepy Nutsとあっこちゃんくらいなんだよね。だから、今、日本でもヒップホップが流行りのカルチャーとして認識され始めているところがあるかもしれないけど、だからと言って一発でそのカッコよさがわかる人は実はそんなに多くない気がしていて。ただ、その分可能性はものすごく感じます」
──あっこさんはラッパーとしての自身のスタイルにおいて、ドラマーだった経験はやはり大きいですか?
あっこ「完全に大きいですね。ラップは打楽器だと思っているので。自分のセンスはドラマーとしてのそれだなと思ってます。そもそも人との会話もリズムで捉えていて。最初はバンド時代にMCのような感覚で自己紹介をラップでやっていて。やってみたら、できたんですよ。世代としてはKICK THE CAN CREWやKGDR(キングギドラ)とかも普通に聴いていたから、手法としてもラップに対して素直に入れたし」
──憧れていたラッパーはいたんですか?
あっこ「全然いなかったです。ラッパーではないけど、カッコいいラップをするなと思ってた人は向井秀徳さんくらいで。向井さんにはずっと憧れてますね。2月にKIMONOSと対バンして、そのとき向井さんと初めてお話することができて、舞い上がっちゃったんですけど(笑)」
ハマ「SNSでそのときの写真を見たけどデレデレだったもんね(笑)」
あっこ「うれしくて死ぬかと思った(笑)。あっこゴリラとしてラップをやり始めて自分のスタイルを突き詰めるようになってからは、ラッパーに対してこの人カッコいいなと思うようになりましたけどね」
──ラッパーとしての活動を始動したときに野望のようなものはあったんですか?
あっこ「今思うとただの破壊衝動だったと思うんです。でも、それでよかったと思う。で、やっとここにきて(音楽を)作る段階になったなぁって」
──音楽をクリエイトできるようになった。
あっこ「そうそう。前まではただ人に自分のことを知らしめたいだけだったと思う」
──バンドでできなかったことを実現させたいという思いもありますか?
あっこ「それももちろんあるし、バンドをやってたときは本当に若かったんですよね。女の子2人組で。私がドラマーでもう一人はシンガーソングライターだった。初ライヴから事務所の人が観にくるような感じで、速攻でメジャーレーベルから声がかかるみたいな感じだったんです。女の子2人組でもヒエラルキーがあって、ジェラシーというよりも居場所がない感じだった。みんなでミーティングしていても私には役目がなくて。どちらかと言うとみんなボーカルとぶつかるから、私はどうやったら話が円滑に進むかだけを考えていて。それが私の唯一の居場所だった」
──今のあっこゴリラ像からは想像できないですね。
あっこ「あのときに自尊心を落としてしまったんですよね。必要以上に自分を下げちゃうし、下げることで笑いを取ったりとかして。そうすると、それが癖になるんだよね。バンドを解散して、ラップを始めたのは自分の心とカウンセリングするような感覚で。だから、ほんとはケンカみたいなMCバトルとか大嫌いだったんだけど。でも、自分の意見をラップでハッキリ言うのは自分にとってすごく大事なことだったから。そこで自尊心を取り戻せたの」
ハマ「いい話。僕がうれしいと感じるのは、あっこちゃんもそうだし、近い世代の人たちから芸術を持ち上げていこうという意志を感じられることで」
あっこ「そういう意味ではヒップホップのマインドが活かされてるのかも。だから、それを誰かに教えたいとも思うし。日本ではヒップホップのマインドってなかなか国民性に馴染みにくいところはあると思うけど」
ハマ「でも、その代わりにこれからどうなるかわからない面白さがすごくあると思うけどね。高校生もサラリーマンもオタクもラップをやる世の中になるなんて誰も想像してなかったわけで。オタラップが面白いと思うのは、自分が好きなものに対してものすごく知識があってプライドも持っている人たちが、フリースタイルという形式でそれを吐き出しているところで。それはすごく刺激的だなと思います。貶し合いじゃなくて、オタクとして愛を唱えあっているのも最高だなと」
──あっこさんは同性のラッパーにも勇気を与えてると思います。
ハマ「そこに責任感を背負ってほしいとは思わないですが、確実に代表する存在になってきていると思います」
──ただ、それと同時にフィメールラッパーと区別する時代でもないと思うんですよね。ラッパーはラッパー、みたいな。
あっこ「そうそう、私も時代的な動きとして、男だ女だって言ってる時点で『いつの時代の話ですか?』って思ってる。それって20年後、30年後には絶対に終わってる価値観だから」
ハマ「そうだね。そういう意味でもあっこちゃんには気安く近づけない存在感があるというか。やっぱり周りにものを言える同世代のミュージシャン仲間が増えたなと改めて思います。あとはあっこちゃんもそうだけど、自分に自信を持つ姿勢が認められる時代になったことがうれしい。そういうことは10代の頃から、様々なメディアの方々から取材を受けたりしていると色々と感じるところがあります」
あっこ「ハマはOKAMOTO’Sを続けてよかったね。これからいい未来しか待ってないと思う」
ハマ「そうだといいな。わかりやすく危機的状況にはなったことがないけど、変な話、突然あっという間に終わってしまう可能性もあるとは思う。そういう意味でも続けてきてよかったなと」
あっこ「次の作品が楽しみだね」
ハマ「確かに自分たち自身がどうなるんだろう?とワクワクしてる」
あっこ「この前のZEPPのライヴでお客さんもみんなそう思ってるんだろうなってわかった」
ハマ「実際、ミュージシャン仲間や媒体の方などに、自分達のファンを褒めてもらうことが増えた。それは、決して親切なライヴではない中で(笑)、お客さんが最初から最後までみんな踊っていたりして。『そんな光景は日本のアーティストのライヴでもなかなか見たことない』と言ってくれる人もいて。本当にバンドをやってきてよかったなと思う」
あっこ「ほんとにジャパニーズはなかなか自由に踊れないよね。こっちでフォーマットを用意しないと難しいなと思う。私、たまにライヴでゴリラダンスをやっていて。『踊れ〜!』って煽っても全然やらないの(笑)。やっぱりゴリラって恥ずかしいみたいで。ブルーノ・マーズやアンダーソン・パークもゴリラダンスやってるから、あれくらい有名になれたらもっと気軽に踊らせられると思うんだけど(笑)だからそのぶん、フォーマットをある程度用意したほうがいいのかなとは思うんだけど」
ハマ「そういうのって実験というか、繰り返してやって実ることだと思う。俺らもお客さんに対して直接言ったこともあるし、たとえば(星野)源さんも『もっと自由に踊ってほしい』って言っていて。でも、踊ったことがない人が踊るというのもなかなか難しいからね。もちろん、踊れることだけが正義ではないんだけど」
あっこ「最近思ったんだけど、足が固まってるんだよね。だから思わず足腰が動くようなビートを作ったらいいんだって思った。あとはさっきのハマの話の続きになるけど、もうちょっと素直に物事を発信できる国になったほうがいいと思う。こんないい国はないとも思うんだど。アフリカに行ったときに宗教とか政治にけっこうやられちゃって。日本に帰ってきたときに平和すぎて最高だなって思った。それと同時に、自分たちを脅かすものが数字しかないんだなって思った。そこに価値基準を置くのはヤバいなって」
──最後に、ハマくんから今後のあっこさんにこうあってほしいと思うことはありますか?
ハマ「いや、このまま思ったことをやっていってほしいです。僕もそういう傾向がありますが、意外と自分が『大丈夫かな?』って思うことは、客観的に見たら全然大丈夫ということが多いので」
あっこ「ああ、そこを抜け出すの難しいよね。もうちょっと気にしいな性格を緩めたほうがいいかもね」
──では、あっこさんからハマくんに。
あっこ「ハマは1年後より2年後、2年後より3年後のほうがカッコいいと思うし、OKAMOTO’Sもそういうバンドだと勝手に思ってる」
ハマ「ありがとう。僕もそうだったらいいなと思う」
photography emi
text Shoichi Miyake
edit Ryoko Kuwahara
あっこゴリラ「ゲリラゴー ONE MAN TOUR」開催決定
4月27日(金)代官山UNIT
4月29日(日)大阪Socore Factory
5月4日(金・祝)名古屋spazio rita
あっこゴリラ
レペゼン地球のラッパー、あっこゴリラ。リズムで会話する動物、ゴリラに魅了され、ドラマー時代に「あっこゴリラ」と名乗りはじめる。ラップ・トラックメイクを自身が行い、また元々ドラマーという異色な経歴から自由に生み出されるラップスタイルは、唯一無二の形を提示している。様々なジャンルのイベントに参加するが、彼女がステージに立てばどんな場所でも其処はBack to the Jungleと化す。2016年1月 全国流通アルバム『TOKYO BANANA』リリース。11月 EP“Back to the Jungle”リリース。野生のゴリラに会いにルワンダへ旅立つ。12月 渋谷WWWにてワンマンライブ「Back to the Jungle」開催し成功を収める。2017年1月に日本初のフィメール(女性)のみのMCバトル「CINDERELLA MCBATTLE」で見事優勝。2月トラックメイカー/MPCプレイヤー・STUTSとのコラボによるジャングル・ディスコ”黄熱病 -YELLOW FEVER-“を配信リリース。3月 SIMI LABのOMSBトラックでCharisma.comのMCいつかとの3者コラボ作「PETENSHI」を配信リリース。フリースタイルダンジョンに椿とFUZIKOと共にフィメールラッパー初の出場を果たす。5月テレビ東京「おしゃべりオジサンと怒れる女」に出演。また、2月・3月・4月と主催イベント「ドンキーコング」を3ヶ月連続開催。6月SEBASTIAN Xの永原真夏を迎えたFUNKチューン“ウルトラジェンダー”を配信でリリース。「ドンキーコング」シリーズ特別編の「びっくり誕生日ドンキー3」を渋谷GLADで開催。8月「SUMMER SONIC2017」に出演。11月には先に配信リリースした3曲に加え、R&Bシンガー:向井太一を迎えた “ゲリラ”と、表題曲となるトラックメイカーPARKGOLFとのコラボ“GREEN QUEEN”、食品まつりa.k.a foodmanといった個性派アーティストを迎えての“電光石火”を収録したEP「GREEN QUEEN」をリリース。12月あっこゴリラワンマン「ウルトラワンマン」を渋谷WWWで開催。SpotifyのCMにインディーズながら“ゲリラ”が大抜擢。100万回再生を突破。2018年2~3月 「ゲリラ」Remix企画としRYOHU、okadadaによるRemix音源のリリース。4月配信EP“TOKYO BANANA 2018”をリリース。初の東名阪ツアー「ゲリラゴー ONE MAN TOUR」を開催する。
http://akkogorilla.yellow-artists.jp
OKAMOTO’S
オカモトショウ(Vo)、オカモトコウキ(G)、ハマ・オカモト(B)、オカモトレイジ(Dr)。2010年5月にアルバム 『10’S』、11月に『オカモトズに夢中』、2011年9月に『欲望』を発売。2013年1月に4thアルバム『OKAMOTO’S』を発売し、7月に は両A面シングル“JOY JOY JOY/告白”を、11月6日にニューシングル“SEXY BODY”をリリース。2014年1月15日に岸田繁(くるり)を迎えた5th アルバム『Let It V』を、8月27日にはRIP SLYME、奥田民生、黒猫チェルシー、東京スカパラダイスオーケストラ、ROY(THE BAWDIES)らとコラボを果たした5.5 thアルバム『VXV』を発売。2015年9月30日、6thアルバム『OPERA』をリリース。2016年6月1日にNetflixドラマ「火花」の主題歌「BROTHER」を表題曲にしたシングルをリリース。10月29日、東京・日比谷野外大音楽堂公演にてキャリア初の47都道府県ツアーファイナルを敢行。同ツアーからの厳選音源と、ツアー中に書き下ろした新曲「ROCKY」を収録し、ツアーファイナルの映像を全曲収録したBlu-ray付きライヴアルバム『LIVE』を2017年5月31日にリリース。8月2日に7thアルバム『NO MORE MUSIC』をリリース。同年10月7日には中野サンプラザにてキャリア初のホールワンマンの開催を発表し、即完売となる。同月30日より恵比寿リキッドルームを皮切りに全国23か所を回るツアー「OKAMOTO’S TOUR 2017-2018 NO MORE MUSIC」を実施。ファイナルとなるZepp Tokyoも完売となる中、オカモトショウのソロツアーが4月よりスタートし、好評をはくしている。さらに、鈴木茂x猪野秀史 Special Support with 林立夫&ハマ・オカモトが6月より開始。
http://www.okamotos.net