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text by Meisa Fujishiro
photo by Meisa Fujishiro

藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#53 肩凝りについて

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 環境の変化というのは、殊の外大きかった。私は寝床の違いという言葉で、環境の変化を周囲に伝えていた。それは、どこに巣を作るか、どこの洞窟を住処とするか、という野生動物の生活からの引用概念であり、生活するにふさわしい場所の重要性を語ったものだった。ある鳥は大木のてっぺんに巣を作るだろうし、ある動物は川の中洲で子育てをする、といったように、人間にもそれぞれの性格や仕事などから規定される、ふさわしい場所があると考えていた。そしてそれは、いずれ故郷を離れる時が来るように、変化も内包している概念として捉えていた。


 寝床とは、彼ら野生動物にとって、最も安心できる安全な場所である。だとしたら、人間にとって、私にとって最も休める場所は何処かと考えた場合、なんとなく今の場所ではない気がしたのだ。
 たまたま手にした住宅情報誌に載っていた中古住宅の写真を見て何かを感じ、不動産屋さんに時を置かずに現物を見せてもらい、ほぼ即決でその家に住むことにした。70年代に造られたその家は、木枠の窓を持つ船を模した独特な外見を持ち、私はそこで寝食を費やしたいと望んでしまったのだった。そして、その家はたまたま葉山にあった。なので、「葉山に住む」はついでに付いてきたようなものであった。最初に家ありきだったのだ。
 都内などで部屋を探しても、結局最後は直感で決めることが多いと思う。その判断となんら変わりない方法で、私は葉山に住むことになっただけで、強い決心がそうさせたのではなかった。が、結果、葉山に巣を作ったことは健康には良かった。御用邸を海岸沿いに抱く葉山町は、住所で書けば、三浦郡葉山町であるが、ただの田舎ではなく、北の軽井沢、南の葉山といった感じに洗練された部分も多かった。最初こそ第三京浜を使って車で通っていたが、そのうちに撮影の無い日は横須賀線で都内を往復するようになった。片道約1時間の電車は、格好の読書時間となり、充実した1日を都内で終えたあとは、ささやかなご褒美としてグリーン車でビールを飲みながら帰途につくのだった。逗子駅からはバスに乗って丘の上にある我が家まで、さらに揺られ、都会での仕事で熱を持った心身を帰宅時間がクールダウンさせてくれた。そういった葉山を寝床にした暮らしが、いつしか肩凝りを解消させてくれた。



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