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90歳の現実主義者『LUCKY』が見つめる、人生の終わり

lucky



本作『LUCKY』に登場する主人公ラッキーは、「死」について恐れを持つ90歳の無神論者だ。(こう言ったら大変失礼ではあるが)一見してヨボヨボの、死の階段に片足ついた老人である。それでいて、名の通り幸運の持ち主としか思えないほど煙草やブラッディーメアリーを好きなだけ飲んでいるにも関わらず健康体で、医者も「奇跡としか言えない」と驚いている。
彼は、作中あるきっかけで「死」について考えるようになるのだ。クロスワードパズルが趣味であるが、毎回一つ一つの単語を丁寧に辞書で引いてはその意義について熟考するほどに徹底して現実主義者で、神も信じない彼は自分の頭でその答えを導き出さざるを得ない。そんな、ある意味困難を強いられたラッキーを、優しく寄り添いながら見つめた作品である。
彼は死について考える過程で、「人生」と「無」について向き合っていく。それは、さながら言語学者が定義づけた辞書にある単語の意味を自分の頭で再定義するような作業だ。自分の来た道も自分にとっての無も、ひいては「死」そのものも自分にしか定義付けが出来ないことであるから。
そんなラッキーの馬鹿がつくほど真面目なやり方を見ていると、それはとても幼稚だなんて切り捨てる事は出来ないな、私は果たして人生とこんなに向き合っていれているのだろうかと思わされるのである。かつて子供の頃に感じていたような漠然としたあの感覚が、90歳の老人をじっくりと見つめるうちに蘇ってきたのはなんとも不思議な映画体験だった。
誰しもがいつか1人残らず絶対に対峙する「死」について実直に向き合うラッキーに、どこか静かなガムシャラさを見た。
2月9日





『LUCKY(原題)』

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神など信じずに生きてきた90歳のラッキーは、今日もひとりで住むアパートで目を覚まし、ダイナーで馴染みの客たちと過ごす。人生の終わりが近づいていることを徐々に察する彼は、ふと恐ろしくなる――。名脇役として知られるジョン・キャロル・リンチが描く死、孤独、精神性、そして人とのつながりについての思索は、『パリ、テキサス』『レポマン』『ツイン・ピークス』の名優ハリー・ディーン・スタントンの人生とキャリアについてのラブレターでもある。

監督:ジョン・キャロル・リンチ
出演:ハリー・ディーン・スタントン、デヴィッド・リンチ、ロン・リビングストン、エド・ベグリー・ジュニア、トム・スケリット、べス・グラント、ジェイムズ・ダレン、バリー・シャバカ・ヘンリー


(2017/アメリカ/88分/英語/1:2.35/5.1ch/DCP)
配給・宣伝:アップリンク
2018年3月17日(土)より、新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

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