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text by Shiki Sugawara

“The Conquest of Happiness” 映画『パターソン』にみるラッセルの幸福論 4/7

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Bラッセルの『幸福論』は、発表され90年近く経った2017年に公開された映画『パターソン』の中にも息づいている。
今回も、その二つの作品から幸せについてを読み解いていこう。


『幸福論』第二部第12章「愛情」
”お互いを幸福のための手段として見るだけではなく、むしろ、一つの幸福を共有する結合体だと感じる愛情は、真の幸福の最も重要な要素の一つである。”
”恋愛は協力を生み出す感情の第一のそして最も一般的な形であって、いかなる程度であっても恋愛を経験したことのある人ならば自分の最高の幸福が愛する人の幸福とは無関係であるとするような哲学には満足しないだろう。”



数学者でもあるラッセルが展開した方程式に「愛情と幸福の方程式」というものがある。愛情が自信をあたえ、それが熱意となり最終的に幸福へと帰結する、というものである。つまりこれらの要素はすべて相互関係にあるということだ。また、自分にとっての幸福=相手にとっての幸福という、「一つの幸福」を共有出来るお互いである必要があるとラッセルは言う。
パターソンの妻ローラの熱意の対象は毎日変わる。ある日はカーテンづくりに壁塗り、次の日はギター、その次の日はマフィン作りといったように。全ての夫がそういった妻に寛大ではないだろう(逆も然り)。毎日カーテンや壁の色が変わったり、上手ではないギターを聞かされたりしたら文句の一つも言いたいという夫が居ても責められない。パターソンはローラの趣味に対してはそこまで関心はないようだ。しかし、毎回目を輝かせてそれらを楽しむローラをこよなく愛する。


また、携帯を持たないパターソンは行きつけのバーのマスターにこう質問される。携帯もパソコンも持ってないって、奥さんは何て言うんだい?持たせたがったりしないのかい?ーーいやそんなことはないな、と返すとマスターは「お前は幸せ者だ」と言う。


同章より
”他人に対する心配(気遣い)は、非常にしばしば、所有欲のカムフラージュになっている。(即ち)他人の不安をかき立てることによって、他人をもっと完璧に支配する力を得られると期待されるからである。”
”あまりにも強烈な自我は一つの牢獄であり、もしも、人生をせいっぱい享受したいのであれば、人はその牢獄から逃げ出さなければならない。本物の愛情を持ちうる能力は、この’自我の牢獄’を抜け出した人間の特徴の一つである。”



バーの常連エヴェレットという男は、同じく常連であるマリーに振られ懲りずに言い寄っている。マリーに「ありえない」と言われようともしつこく付きまとい、ある日ついに強く拒絶されるとオモチャの銃で自殺しようとする。彼は相手に不安を与えることで支配しようとして見事に失敗している。取り押さえられたあとに「愛を失って生きる意味があるか?」とつぶやいて店を後にするエヴェレット。相手を支配するという強烈な自我でコントロールを失った彼は、ラッセルの言う’自我の牢獄’から抜け出さない限り、愛は手に入るどころか遠ざかっていくばかりなのである。


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『パターソン』

自分らしい生き方をつかむ手がかりは日々の生活にある
“パターソン”に住む“パターソン”という名の男の7日間の物語。
【物語】 ニュージャージー州パターソンに住むバス運転手のパターソン。彼の1日は朝、隣に眠る妻ローラにキスをして始まる。いつものように仕事に向かい、乗務をこなす中で、心に芽生える詩を秘密のノートに書きとめていく。帰宅して妻と夕食を取り、愛犬マーヴィンと夜の散歩。バーへ立ち寄り、1杯だけ飲んで帰宅しローラの隣で眠りにつく。そんな一見変わりのない毎日。パターソンの日々を、ユニークな人々との交流と、思いがけない出会いと共に描く、ユーモアと優しさに溢れた7日間の物語。
【監督・脚本】ジム・ジャームッシュ
【出演】アダム・ドライバー/ゴルシフテ・ファラハニ/永瀬正敏/バリー・シャバカ・ヘンリー 他
【 2016/アメリカ/英語(日本語字幕)/デジタル/1時間58分 】
Photo by MARY CYBULSKI ©2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.
提供:バップ、ロングライド 配給:ロングライド
©2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.



上映情報
目黒シネマ OFFICIAL SITE
3/17~3/23 一週間アンコール上映


リリース情報
パターソン [DVD] Amazon.co.jp
[Bru-lay]Amazon.co.jp


引用:Bラッセル『幸福論』 堀 秀彦訳(KADOKAWA; 新版 2017/10/25)
Amazon.co.jp


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text by Shiki Sugawara

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