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text by Nao Machida
photo by Tammy Volpe

ダニエラ・ヴェガ『ナチュラルウーマン』インタビュー

NeoL_daniela | photography :Tammy Volpe



南米チリの映画『ナチュラルウーマン』が2月24日から日本公開される。主人公は男性として生まれ、女性の心を持つトランスジェンダーの女性。ウェイトレスをしながら夜はナイトクラブで歌い、年上の恋人と幸せな日々を過ごしていた。だが、ある日突然、彼は亡くなってしまう。深い悲しみに突き落とされた彼女に追い打ちをかけるように、遺族は差別的な言葉を浴びせ、葬儀に参列することすら許さない。
理不尽な苦境に立たされながらも、決して自分らしく生きることを諦めない主人公マリーナを演じたのは、チリ出身のトランスジェンダーの女優/歌手、ダニエラ・ヴェガ。その演技は高く評価されており、世界中で数々の映画賞に輝いている。本作がアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた翌週、来日した彼女に作品に込めた思いを聞いた。



——当初は主演女優としてではなく、監督が脚本を書く段階で、コンサルタントとして本作に参加したそうですね。


ダニエラ「最初は監督から会いたいと電話がかかってきて会うようになり、それから約1年半は、どんな映画を観たとか、どんな本を読んだとかを話す、普通の友だちのような関係でした。でも、その時点で既にお互いの人生哲学は理解していたように思います。それから脚本が送られてきて、(主演になるとは)知らなかったので驚きました」


——自分からの影響が反映された役のオファーを受けるというのは、あまりない経験だと思うのですが、最初に聞いたときはどう思われましたか?

ダニエラ「そのときは驚いて、何も考えずに『イエス』と答えました。電話では即答したのですが、実際にはそれから3日間飲み歩いて、2日酔いになって、そこから蘇ったときに本当に現実として受け止めたという感じです」


——他の人では考えられないほどマリーナ役を見事に演じられていて、同一人物なのではないかと思うほどでした。


ダニエラ「多分、私のことを知らないからそう思うのね(笑)」


——そうなんですね(笑)。ダニエラさんは、マリーナのどのようなところに1番魅力を感じましたか?


ダニエラ「監督と話をする中で、尊厳、粘り強さ、そして反逆性という3本柱の上に、マリーナを育てていこうということになりました。生きているだけで、誰もがそれらを傷つけられたり、それらが必要だと思ったりする時がありますよね。それは私自身もそうですし、世界中の女性に共通することだと思います。それを普遍的なこのマリーナという人物を通して伝えることによって、非常に多様化された女性の生き方を表現できたはずです。観る人みんなが『私はこうだ』と思える、それぞれに違った生き方を見出せるのではないでしょうか。そこがこの役の素晴らしいところです」


NeoL_daniera_2 | photography : Tammy Volpe


——トランスジェンダーのマリーナに限らず、誰にでも自分が自分らしくいる上で苦しい思いをすることは少なからずあるわけで、そういった意味でも多くの人の心に響く作品だと思いました。ダニエラさん自身は、マリーナと似たような経験をしたことはありますか?


ダニエラ「そうですね。私が思うに、女性だとか、男性だとか、ジェンダーは関係ないのです。それよりも、“男性性”と“女性性”というものが、今までずっと対立してきたことが問題だと思います。男性の中にも女性性はあるし、もちろん、女性の中にも男性性はあります。パッと情報だけ見て、トランスジェンダーの主人公は自分には理解できないだろうと思った人が、観てみたら自分と同じだったと気づいてくれたら、それが1つの扉を開くことになると私は思っています」


——劇中のマリーナは、亡くなった恋人の遺族から差別や偏見を浴びせられ、彼と暮らしていた部屋から追い出され、お別れすらさせてもらえません。少しずつ変化してきているとはいえ、日本でもまだLGBTコミュニティへの理解が十分だとは決して言えない状況です。マリーナの恋人の前妻のような、差別的な人も少なくないかもしれません。



ダニエラ「もし映画を観て前妻に感情移入してしまう女性がいたら、今まで男性や他の人から差別された経験はないのか聞いてみたいです。もしかしたら、そういった差別に気づかないようにしているのかもしれないですが、女性性と男性性の対立にしてしまうと、そこからは憎しみしか生まれません。前妻はマリーナに『あなたは女ではない』と言いますが、それは誰が決めるのか、ということですよね。どんな権利があるの?と思います。国によってはベールを着けなければいけない女性たちがいて、きっと誰もいいとは思っていないだろうに、誰がそれを決めているのか…。私はジェンダーではなく、お互いの男性性と女性性を理解し合うことで、もっと自由になれるはずだと思っています」


——マリーナが歌うシーンがとても印象的で感動しました。幼い頃からオペラを勉強していたそうですが、あのシーンにはどのような思いを込められたのですか?


ダニエラ「あれは私の中でも1番美しいシーンで、また、1番やる気の強かったシーンでもあります。撮影中は毎日スケジュールを確認しながら、あのシーンはいつ撮るんだろうと楽しみにしていました。あのシーンを撮り終えた時、私は自分が本当に自由になれたのだと感じました。そして、自分の感情を与えて、受け取れたという、その行き来があったということをすごく感じました。本当に自由を感じたし、あのシーンで初めて、芸術に対する恩返しができたように思いました」


——3月に発表されるアカデミー賞では、外国語映画賞にノミネートされています。


ダニエラ「ここまでずっと作品を作ってきたので、授賞式はとにかく楽しみたいです。いろんな人と繋がりたいですね。それ以降も、私はずっと仕事を続けていきたいです」


——本作はダニエラさんにとって、とても大切な作品になったのではないかと思います。この映画を通じて得た最も大きなことは何ですか?


ダニエラ「世界中の人たちがマリーナと繋がってくれたこと、彼女を見てくれたことが、私にとっては1番大きなことです。そして、本作に出演したことで、人は何かをするために生きているのだけれど、その何かの中に、差別だとか偏見だとかは必要ないのだと確信しました。だって、もっと他にやるべきことがあるから。それを助けてくれるのは人々の経験なので、私はやりたいことをやり続けるべきなのだと再確認することができました」


——観る前には想像できなかったほど、映画を観てマリーナに共感しました。日本でも先入観なしに、たくさんの人が観てくれるといいなと思います。


ダニエラ「よく考えたら、マリーナが劇中で経験したことは、私たちみんなに共通しているんですよね。誰だって人を愛するし、愛する人を失うし、闘うし、自分がなりたいもののために立ち上がるわけです。私としては、それを皆さんに感じてほしいです。最終的には誰だって死ぬので、時間は限られています。その時間をどう生きるか、それは今の私が常に考えていることです。だって、死ぬことは絶対に逃れられないことですから。限られた時間、今という時間をどのように精一杯生きるか。私がマリーナの中に感じたのは、そういうことです」


NeoL_daniela_3 | Photography : Tammy Volpe


photography Tammy Volpe
interview Nao Machida
make-up MARIKO KUBO
dress Osklen





『ナチュラルウーマン』
2月24日(土)シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー
http://naturalwoman-movie.com
監督・脚本:セバスティアン・レリオ『グロリアの青春』『Disobedience』
出演:ダニエラ・ヴェガ、フランシスコ・レジェス、ルイス・ニェッコ
2017年/チリ・ドイツ・スペイン・アメリカ作品/スペイン語/104分/原題:Una Mujer Fantástica/英題:A Fantastic Woman
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
Ⓒ2017 ASESORIAS Y PRODUCCIONES FABULA LIMITADA; PARTICIPANT PANAMERICA, LCC; KOMPLIZEN FILM GMBH; SETEMBRO CINE, SLU; AND LELIO Y MAZA LIMITADA

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