NeoL

開く
text by Shoichi Miyake
photo edit by Ryoko Kuwahara
photo by Takuya Nagata

90s Memories : Interview with AAAMYYY about 『MABOROSI EP』

NeoL_AAAMYYY_1a | Photography : Takuya Nagata


22歳のときカナダに留学中にGarageBandで遊ぶことから始まったAAAMYYYがクリエイトする音楽像は、いわゆる宅録然としたそれで、実際すべてのサウンドデザインをDTMで描いている。近年、女性の宅録SSWというと、もはや宿命のようにグライムスとの比較論が展開されがちだし、確かにそこにある共時性(たとえばそれは隙間を重んじながら浮遊し躍動するトラックという面でも)は否定しないが、AAAMYYYはあらかじめ自らの独立したポップミュージックに対するフィロソフィーを持っている。昨年9月にカセットリリースした『WEEKEND EP』を経て、同じくカセットにパッケージした『MABOROSI EP』でAAAMYYYの音と歌、リリックのスケッチ力はさらにブラッシュアップされている。彼女がサポートを務めているTempalayやRyohu(KANDYTOWN,Aunbeats)から受けている刺激も、自身のクリエイティブに強くフィードバックされているのは間違いない。AAAMYYYは今、とても魅力的な過渡期を音楽に形象化している。


──『WEEKEND EP』からかなり早いタームで音楽性をブラッシュアップしていて。トラックがよりミニマルになったのも印象的なんだけど、やっぱり歌に対する意識がすごく上がってるなと思った。


AAAMYYY「確かに。トラックは全部、Figureというスマホのアプリで作ったんです。音色をカラーで書き出しても4色だけで。それをいかにチープに聴こえないかということがテーマでした。究極に少ない音数で、ギターとかも一切使わずにシンセだけでという縛りを設けて、歌で曲を補えるようにしたんですよね。どの曲が好きですか?」


──客演が入ってる曲だからソロのシンガーソングライターとしてはポジティブに聞こえるかわからないけれど、3曲目の“BLUEV(feat. Ryohu)”と“KAMERA(feat. TENDER)”かな。この客演の2人とはRyohuのソロワークも含めてもはや一つの強固なチームになってるじゃないですか。


AAAMYYY「そうですね」


──AAAMYYYの魅力を十二分に理解している2人でもあるだろうし。1曲目の“MABOROSI”の不安定だけど気持ちいい旋律もいいですね。AAAMYYYのボーカルの特徴として、日本語の響きがダサく聴こえないというのがあると思っていて。英語をネイティヴレベルで話せるというのもデカいと思うんだけど。


AAAMYYY「それは言われてすごくうれしい。前身のeimie名義でやっていた曲は全部英詞で、それがカッコいいと思っていたんですけど。でも、お客さんに全然伝わなかったんですよね。それで、ソロになって日本語で歌うようになってから、伝わり方がまったく違って。だから、日本語で歌うのは楽しいなと思って」


NeoL_AAAMYYY2 | photography : Takuya Nagata


──自分自身の歌のアドバンテージはどこにあると思いますか?


AAAMYYY「日本で言われる歌の上手さとか、ディーバとかそういう感じではないと思うんですよね」


──間違いない。日本では歌の力=歌い上げるってイメージが未だに強いし。


AAAMYYY「そうそう。そうじゃなくて、声って個性じゃないですか。それを体現できるのが自分の曲やRyohu、Tempalayのサポートだと思うんですよね。そこで『おおっ!』って思わせることができたらいいと思う。芯が強いという声ではないけど、ウィスパーっぽい声色とか響きが自分のよさなんだなということが最近わかってきましたね」


──何より色っぽいし、ユーモアも滲んでる声の魅力があると思います。


AAAMYYY「やった!」


──『WEEKEND EP』の時点で、日本語で歌う楽しさは体現していたと思うんですけど、もうちょっと音楽像としてはトリッキーな要素が強かったなと思う。


AAAMYYY「そうですね。『WEEKEND EP』は勢いとか、ストレンジさみたいな、『え!?』って思わせる要素を入れたいと思って作りました」


──AAAMYYYにとってスターのような、あるいはロールモデルとなるようなアーティストはいますか?


AAAMYYY「M.I.A.とカーペンターズですけど、M.I.A.が一番ですね。トラックもそうだし、歌い方も表現の仕方も含めて憧れます。自我がマックス、みたいなところが大好きです」


NeoL_AAAMYYY3 | photography : Takuya Nagata


──幼少期からピアノを弾いてたりしてたんですか?


AAAMYYY「ピアノは小1から中学3年まで習ってましたね。隣の家のピアノ教室で(笑)」


──地元は長野県ですよね。どういう環境で育ったんですか?


AAAMYYY「長野の川上村というところで。人口3000人くらいの村で、実家も農家なんですけど、農業が盛んなんです。ちなみにうちの村は過疎化していなくて、若い世代がどんどん帰ってくる村として有名なんですよ。標高は1200メートルくらいですね。子どものころはみんなでキャンプしたり、サバイバルごっこしたりしてましたね。リアルサバゲー(笑)。魚を捕まえて焼いて食べたり。だから、パンソンとか携帯とかゲームにはあまり触れてなくて、ほんとに自然の中で学習するような環境で育ちました。文化交流と言ったら、東京の武蔵野市とドイツに姉妹都市があるんですけど、そこから来た交換留学生とコミュニケーションをとったりしてましたね」


──音楽的なリスナー体験は?


AAAMYYY「親やお姉ちゃんが聴いてたり、テレビから流れてくる音楽に触れるくらいですね。親はカーペンターズやビートルズ、演歌が好きで。ピアノで弾くクラシックも、私はあまり上手く弾けるタイプじゃなかったので、こういう音楽があるんだなというくらいの感覚で捉えていて。音楽に興味を持ち始めた高校生になってからですね。映画『サマーウォーズ』の舞台になっている上田市にある高校に通っていたんですけど。そこで軽音楽部に入って、ドラムやベース、ギターも一通り触るようになったんです」


──何かのコピーとかしていたんですか?


AAAMYYY「東京事変のコピーをやったりしてました。しかも私はドラムで(笑)。でも、コピーするのはもういいかなと思って、高3のときに4曲くらいオリジナル曲を作って。私はドラムだったんですけど、ベースもギターも歌もコーラスも『こうやって!』ってメンバーに指示を出して」


──その時点では歌うことに興味がなかったんだ。


AAAMYYY「全然なかったです。リズムのほうが好きだったんですよね。ピアノも上手く弾けることの意味があまりよくわからなくて。テキトーに弾いてるほうが楽しいなって思ってました」


──カナダへの留学経験もあるんですよね。


AAAMYYY「カナダには高校3年生のときに交換留学で行ったのが最初ですね。それが2008年で、海外の音楽シーンがすごくいいヴァイブスのときで。M.I.A.とかT-ペインとかカッコいいなと思ったんですよね。そこから海外の音楽に興味を持つようになって、洋楽をディグりだしました。で、大学は神田外語大学に行ったんですね」


──やっぱり英語が好きだったんだ。


AAAMYYY「そうですね。英語に関して言うと、地元の村にホライズンという英語塾があって。すきま風がヒューヒュー吹くような塾なんですけど(笑)。そこで英語が好きになったんですよね。高校も国際教養科に入って」


──勉強熱心だったっぽいですね。


AAAMYYY「そう、超ガリ勉でした。大学に入ってからは特に勉強一筋みたいになっちゃって。1日14時間くらい英語の勉強をしてましたね。で、大学3年のときに1年だけ休学して、カナダのCA学校に留学したんですよ。エア・カナダのキャビンアテンダントになりたくて行ったんですけど、向こうに行ったら音楽にハマっちゃって。持ってたMacBookに入ってたGarageBandをいじりだしたら楽しくなっちゃって」

──そこからトラックばかり作るようになった?


AAAMYYY「そうなんです。ループのインストをひたすら作って」



AAAMYYY_7 | Photography : Takuya Nagata


──なんでそこまでDAWでトラックメイクすることにハマったんだと思う?


AAAMYYY「たぶん、高校生のときのバンドをやっていたころに感じていた不便さみたいなものがDAWで一気に解消できたからだと思うんですよね。メンバーに『こう弾いて!』って言わなくても全部一人でできちゃうし。これだったら簡単だなと思って」


──曲を作りたいという思いは高校生のころから持っていたんだけど、その熱意を持て余していたというか、方法論がわからなかったんだろうね。それでGarageBandに出合ったときに「これならいける」と思ったっていう。


AAAMYYY「そうそう、それですね。方法論だ」


──でも、CAの夢はどうなったの?(笑)。


AAAMYYY「エア・カナダのCAになるには2年間の就労経験が必要という条件があったので。帰国して、大学を卒業してから、一回ECCの先生になりました(笑)」


──マジか(笑)。

AAAMYYY「ちょうどそのころ友だちの女の子と2人組でやっていたGO RETROというユニットが某事務所と育成契約を結ぶことになって。今よりもっとエレクトロな感じの音楽をやっていたんですけど。私は楽しかったんですけど、もう一人の女の子が大阪に行っちゃって、解散することになったんですよ。解散したのは2014年で、活動期間は1年くらいでしたね。それから、GO RETROと一緒にやりたいと言ってくれたシーケンサーの方がいて、その人とプロジェクトをやることになって、その流れで前身のeimieが始まったんです。それが2015年で。SUMMER SONICに出たりもしました。でも、eimieのときの音数はすごく多かったんです。バンドみたいな作り方になっていて、あまりしっくりきてなくて」



──それから音の志向がどんどんミニマルになっていったと。


AAAMYYY「そうですね。シンプルに等身大で自分の曲の作り方をしたほうが生身の音楽になると思ったし、作り込まれた音楽に違和感を覚えるようになって。歌詞も英語で伝わらないし、シンプルに立ち返ろうと思ってソロを始めました」


NeoL_AAAMYYY7 | Photography : Takuya Nagata


──TempalayやRyohuとの出会いはいつごろ?


AAAMYYY「2015年ごろですね。ちょうどソロに戻ろうかなと思ってるくらいのときに対バンで共演して出会いました」


──TempalayやRyohuのサポートを務めることで得ているものはほんとに大きいと思います。


AAAMYYY「大きいですね。Tempalayは『ひたすら面白いことをやろう』って企んでいるバンドで。やりたくないことはやらないし、カッコよくて面白いことだけやり続けていくスタイルなんですよね。だから、自由ですごく楽しい。私がeimieをやっていたときはなんでもするみたいなスタイルで、変に肩の力が入っていたんですけど、それをTempalayが解いてくれたんですよね。Ryohuは、周りの人を大事にしたりとか、人が付いてくる温かい魅力を持っていて。Ryohuもカッコいいことしかやらない人ですね。相談に乗ってもらっていたり、私にとっては先生みたいな感じです(笑)。音楽的にもRyohuはシンプルであることにこだわっていてそれがすごくカッコいいと思うし、Tempalayも振り切って音楽を作っているところが好きですね」


──『WEEKEND EP』を経て、『MABOROSI EP』のコンセプトはどのような流れで生まれていったんですか?


AAAMYYY「まず、幻という言葉がいいなと思って。現代社会に置き換えても、フェイクっていうか、みんながなりたがっているものも何かに幻惑されているような感じがあるなと思って。SNSとかもそうだけど、その中の発言とか画像でその人が見られているような世の中になっちゃったから。そこだけ見てたら幻だなって」


──間違いなく実像ではないよね。


AAAMYYY「そう。『その実像はここにあるんじゃない?』という提唱みたいなものをこの作品にぶち込みました(笑)」


──『WEEKEND EP』もそうだったけど、リアルな感覚を持ちながら、気持ちのいい場所に逃避したいという願望が曲に表れているように思う。


AAAMYYY「それはあるかもしれない。“KAMERA(feat. TENDER)”という曲はまさにフィルムカメラで写真を撮っていることを歌っているんですけど、大切すぎるこの瞬間みたいなものをずっと残しておきたいという。そこにもちょっとアイロニーがあって。SNSに載せる写真との対比として、“映え”する写真を何度もバンバン撮るよりは、フィルムカメラの撮り直しの利かない1枚を大事にいたいという気持ちの歌で。あと、“JOHN DEER”は農業をやっている実家の広大な土地を描いている曲ですね」


──ここからの展開はどう描いているんですか?


AAAMYYY「実はトラックのストックはいっぱいあって、もう1本カセットをリリースしたいんです」


──三部作的な?


AAAMYYY「そうそう。(アートワークとして)赤と黄色、そして緑の画がイメージとしてあって。そこでまた4曲くらいの新曲を収録して、ヴァイナルのアルバムをリリースしたいなと思ってるんですよね。『こんなトラックを入れるの!?』ってなるようなサウンドを聴かせたいと思ってます」


──楽しみにしてます。最後に、いつか共演したいアーティストはいますか? 海外もOKで。


AAAMYYY「MØ(ムー)とGallant、あとチャイルディッシュ・ガンビーノですね!」


AAAMYYY_9 | Photography : Takuya Nagata


photography Takuya Nagata
styling Masako Ogura(Y’s C)
hair&make-up Mahiro
interview Shoichi Miyake
direction & edit Ryoko Kuwahara

image1
AAAMYYY
『MABOROSI CASSETTE EP』
2月8日発売
SIDE A
1 MABOROSI
2 JOHN DEER

SIEDE B
3 BLUEV(feat. Ryohu)
4 KAMERA(feat. TENDER)


image2
AAAMYYY
『MABOROSI WEEKEND(配信)』
2月9日配信開始

1 8PM
2 KINYOUB
3 IRONY
4 JESUS
5 MABOROSI
6 JOHN DEER
7 BLUEV(feat. Ryohu)
8 KAMERA(feat. TENDER)
(P-VINE RECORED)



AAAMYYY
長野県出身のSSW/トラックメイカー。CAを目指しカナダに留学、帰国後22歳から突如音楽制作を始める。2017年からソロとしてAAAMYYY名義で活動を開始。サイケロックバンド”Tempalay”のサポートをはじめ、”KANDYTOWN”のメンバー”呂布”のゲストボーカル、ラジオMC、DJとして幅広く活動中。
https://soundcloud.com/aaamyyy-tokyo


AAAMYYY_1
T-shirt ¥12,800 LABORATORY(BERBERJIN® )/shorts ¥19,000 OPENING CEREMONY BLACK LABEL/ socks and shoes stylist’s own


AAAMYYY_3
dress ¥7,000 , shoes ¥5,000 OTOE / necklace HANGER / top stylist’s own


AAAMYYY_5
top ¥22,000 OPENING CEREMONY BLACK LABEL/ skirt ¥7,000 OTOE /shoes model’s own



AAAMYYY_7
jacket ¥36,000 G.V.G.V. X OPENING CEREMONY/ pants ¥5,500 OTOE /top and shoes stylist’s own


AAAMYYY_9
stickers ¥300 each BABEHIKARI (OTOE)/ panties BABEHIKARI



BABEHIKARI babehikari3@gmail.com
HANGER http://www.hangerinc.co.uk
LABORATORY/BERBERJIN® tel 03-5414-3190
OPENING CEREMONY tel 03-5466-6350
OTOE tel 03-3405-0355

RELATED

LATEST

Load more

TOPICS