パキスタン出身のアメリカ人コメディアンであるクメイル・ナンジアニが“異文化結婚”の前に立ちはだかる数々のトラブルと騒動を愛と笑いで乗り越えた実話を、クメイルと妻のエミリー・V・ゴードン自身が共同で脚本執筆。クメイル自身が主人公を演じ、圧倒的な共感を得て全米5スクリーンから2600スクリーンまで拡大し、まさかの大ヒットを記録した。第90回アカデミー賞脚本賞にノミネートされるなど、大きな波紋を投げかけた本作について、クメイルに話を聞いた。
ーーこれはどんな映画なのでしょう?
クメイル「この映画は、今は僕の妻となったエミリーとの実話です。もう少し詳しく内容を言うと、彼女が昏睡状態になっているあいだに僕が彼女に恋心を募らせていく話。そう言うとキモイけど、実際にはそうでもないから! とにかく僕たちのあいだに起きた半年間の出来事すべてを盛り込んだのがこの映画なんです」
ーーご両親との関係はその後どうですか。
クメイル「前向きに現在進行形って感じですね。エミリーのことや、両親が思い描いていた人生を僕が生きるわけにいかないことを打ち明けた時には、いろいろと大変だったけど、両親との関係は、この映画を撮っていた時期にも増してよくなっている。ここ3~4カ月だけを見ても関係が前進してるという感じなんです。表面的な話をするのは簡単でも、こうやってそれを映画にして正面から掘り下げていくとなかなか……。両親と僕とでは根本的に世界観が違うけど、それでも親子でいたいとお互いに思っています。それに向けての頑張りが、この映画を作ったことで促された気がするんです」
ーーエミリーとふたりで伝えたかったことはなんでしょう。
クメイル「作品は作り手の一部が盛り込まれているべきものだと思うんです。例えば僕という人間は、アイデンティティや宗教について、わりといつも考えている。ただこの映画で何を一番盛り込みたかったかというと、“繋がろうとする人たちと、その妨げになるもの”なんです。世代であれ宗教であれね。つまりこの映画は、繋がりたいんだけど繋がれない人たちの話。ラストに至るまではということですが。そして人間でいることや、異なる信条がうごめく社会で生きていくのがいかに面倒くさいか。もっと具体的に言うと、宗教についても伝えたかったし、要は違った世界にいる人たちが衝突しながらひとつになることを意識的に描きたかった。あまりに多くの人たちが距離を置いて暮らしたがるけれど、この映画ではそれこそが続かないんです」
ーーマイケル・ショウォルター監督はどうでしたか?
クメイル「カメラや演技を通じて物語を伝えるセンスが抜群。それに役者の扱い方がすばらしい。ものすごく役に立つアドバイスをたくさんもらいました。違う視点を与えてくれて微調整ができたんです。監督はシーンの意図を汲み取って効果的な表現を編み出す力があって、本当に助かりました」
ーープロデューサーのジャド・アパトーについては?
クメイル「単なる実体験を、いろんな人が見て共感してくれる物語にするうえで、ジャドにはものすごく助けられました。実際に起きた出来事から抽出したエッセンスさえ大切にすれば、どうとでもいじれるんだということを示してくれたんです。どんどん新しいものを足していってくれたんですよ。こっちが『ただでさえ長い脚本にそんなに足して平気?』と言ってもお構いなしで、おかげで見事にすべての登場人物や筋書きをグチャグチャに面倒くさくして現実味が出ました。そうしながらも、要所要所で際立たせてメリハリをつけてくれたんです」
ーーーエミリー役のゾーイ・カザンとの共演はいかがでしたか?
クメイル「ゾーイとは2週間ほどかけて1対1で役柄を肉付けしていきました。喧嘩のシーンなんて、かなりアドリブで演じてみて、それを脚本に書き込んでいったんですよ。それは卓上だけではできなかったこと。とにかく彼女は、頭が良くて役に成りきるんです。その成りきった彼女を相手にアドリブで芝居をしてみて、また彼女から反応をもらう。そうやって、ふたりの関係が新たに固まっていった気がします」
ーーそもそも自分たちの私生活を映画にすることってどうでしたか?
クメイル「この映画は、好き嫌いは別として、誰が見ても間違いなく『これは誰かの実体験だ』と感じてもらえるんじゃないでしょうか。そこが自分では気に入ってるところです。僕らにしか語れないストーリーだと思います。意外とそういう映画は少ないですよね。いかにも作りましたという感じのものが多い。でもこの臨場感には、みんながビックリするんじゃないかと思います」
『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』
2月23日(金)よりTOHOシネマズ日本橋ほか全国順次ロードショー
http://gaga.ne.jp/bigsick/
配給:ギャガ
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