昨年11月に結成から5年越しのファーストアルバム『mirror』をリリースしたYoung Juvenile Youth。ヴォーカリストのゆう姫とトラックメイカーのJEMAPURからなる彼らは、エレクトロニックミュージックに触発されたオルタナティヴR&Bの流れが急浮上した2017年の音楽シーンにあって、その流れに回収されることがないフリーフォームな音楽性は、聴き手それぞれの解釈や心情を映し出す鏡そのものだ。その鏡に作り手である彼らは何を見ているのか? 2018年にさらなる活躍が期待されるゆう姫とJEMAPURの2人に話を訊いた。
──11月に結成から5年越しの初フルアルバム『mirror』を発表した2017年は2人にとってどんな年でしたか?
JEMAPUR「一年という単位で物事を考えてはいないんですけど、アルバムを出せたことで一区切りがついて、既に次のフェイズに向けて準備をはじめています」
ゆう姫「荒波の年かな(笑)。でも、いまはその荒波を乗り越えて、さらに大きな波を待っているところですね」
──試行錯誤を極めたアルバム『mirror』は、ダウンテンポからアップテンポまでJEMAPURくんが繊細なタッチで構築したフリーフォームなビートとゆう姫さんの歌うメロディと歌詞が以前の作品より日常に寄り添っているように感じました。アルバムがリリースされた今、2人のなかでYoung Juvenile Youth(以下、YJY)のスタンスが定まった手応えはいかがでしょうか?
JEMAPUR「YJYは不完全な状態から始まっていて、自分たちなりの形を見つけるのに時間がかかりましたね。アルバムという形で作品を落とし込むこと段階で経験した試行錯誤を通じて以前より鮮明に自分達の変化していく方向性を捉えられるようになった感じがします」
ゆう姫「どういうグループなのかを上手く答えられないんですけど、活動を始めた当初は、もっと自分たちの活動を客観的に捉えていた部分があったんですが、今は自分の体の一部になってきたという感じがするというか」
JEMAPUR「その変化していく姿を鏡のように映し出したのが、今回のアルバム『mirror』でもあるんです」
──アルバム、CDというフォーマットに関して、フランク・オーシャンを例に挙げれば、後にCDやレコードが限定でリリースされましたけど、彼は映像と音が一体となった『ENDLESS』とアルバム『Blonde』をストリーミング配信で発表していますし、JEMAPURくんが身を置くエレクトロニックミュージックの世界は曲単位のデジタル配信がスタンダードになっていますよね。
JEMAPUR「消費速度が一番速いところだと、1分くらいの短い尺の曲が大量に配信でリリースされていたり、ネットに触れていない人たちとスマートフォンやタブレットがデフォルトになっている人たちでは、空間と時間に対する感性が全然違うと思うので、音楽をどう届けるのか。リリースフォーマットの選択は難しいですよね」
ゆう姫「CDは失われつつあるメディアなのかもしれないですけど、音楽を作品という枠組みでくくることは、いまもこれからもあるじゃないですか。例えばアルバムだったらジャケットがあって、タイトルがあって、何曲かの曲が集約される、みたいな一曲一曲というよりは総合して一つの作品としての価値があるみたいな。そういう意味ではアルバムというリリースのされ方はこの先も続いていくんだろうなと思いますね」
JEMAPUR「僕らも特別なものだと思っているからこそアルバムというフォーマットでリリースしたんですけど、アルバムを聴くことによって記憶や体験を結びつけるような機能があると思うんです。もちろん、1曲単体でもそういうことは十分にあり得るんですけど、アルバムというある程度の長さの作品を旅するように聴くことでそれは体験になりますし、そういうアルバムならではの魔法を自分たちで作ることが出来たら最高だなって」
──ゆったり始まり、後半にテンポが上がっていくこのアルバムの流れも曲単体では味わえないアルバムならではの体験ですよね。
ゆう姫「流れに関しては、曲を並べ替えたり、長い時間をかけて試行錯誤して大分悩みました」
JEMAPUR「あくまで作品を全体として捉えてどうするか。それしか考えていなかったですね」
ゆう姫「そして結果的に、2人が持つ空気感、波長やリズムに合う今の流れに落ち着いたんだよね?」
JEMAPUR「そうだね。僕の根本的な性格として、テンションが上がっているものに対して、無理しているんじゃないかな?って、不自然に感じてしまうところがあるので、温度の低いところから始まるYJYのテイストはその影響も大きいのかなって思いますけどね」
──特にライヴにおいて顕著ですけど、ゆう姫さんのヴォーカルは、クールに抑制されている部分とパッションが溢れ出している部分が同居していますよね。
ゆう姫「そう、自分のなかではテンションがうねうねと行き来しているんですよね。ただ、クールな側面も、もちろん自分にとって正直な気持ちではあるんですけど、その状態には変化がないというか、爆発力がないというか。音楽を作るうえで、リミッターを外すことってすごく大切だと思うんですよね。だから今回のアルバムでは自分のリミッターを外すことがいかに難しいかを思い知りましたね」
──かたや、JEMAPURくんは冷静なようでいて、音作りに関して、常にリミッターを外して制作に取り組んでいる印象があります。
JEMAPUR「僕は……そうですね。リミッターは付いてないです(笑)」
ゆう姫「(笑)恐ろしい」
──そのうえで、どこまでも一人で突き進むJEMAPURくんのソロとは違い、YJYにはゆう姫さんの歌があり、歌詞がありますよね。
JEMAPUR「目指す音のベクトルが変われば、アプローチや選ぶ音、リミッターの外し方も変わるじゃないですか。こと歌モノに関して言えば、4つ打ちのビートより、8ビートの跳ねたリズムの方が歌を乗せやすかったりもするわけで、その隙間を縫った新しいリズムアプローチでの歌の乗せ方、その上手いバランスを今も模索しているところです。既存のフォーマットに則った曲は形式にさえそって作ってあまり悩まなくても曲としての形を得ることは出来ますが、YJYの場合は前例がないものを作ろうとしているので、トライ&エラーを繰り返して、制作に時間がかかる」
──今は音楽の新しい動きが生まれても、すぐにコピー、消費されて、また違った動きが生まれる、そのサイクルが加速していて、既存のフォーマットを模倣しただけの音楽はすぐに古くなりますからね。
JEMAPUR「僕は流行の先端ではなく、ピュアに人間の表現がにじみ出ている音楽、その先端を追いかけていて。人間の根源的な部分に訴えかける音の在り方を追求しながら、それをヴォーカリストがいる音楽に落とし込もうとしているのが、YJYの表現なんですよ」
──JEMAPURくんにとって、ヴォーカリスト、ゆう姫さんはどんな声の持ち主ですか?
JEMAPUR「作品では聴けないんですけど、ゆう姫のアカペラ・パートを聴くと、彼女の声が持つ情報量は圧倒的なんですよ。僕が作っている電子音より遥かに感情に訴えかけるものがあると思います」
──ゆう姫さんはJEMAPURくんのトラックに対して、どういったスタンスで歌に臨んでいますか?
ゆう姫「感情を込めて歌うと伝えたいことがぼやけてしまいがちで、今回のアルバムではその度に録り直したんですよね。そうやってトライ&エラーを繰り返すなかで、伝えたいことは歌詞に書かれているわけだから、必要なのはなるべく自然体で、なおかつ自分が気持ちが良いと思える声で歌えているかどうかなんだなって思うようになりましたね」
JEMAPUR「意識して歌うとそれがリミッターになってしまうから、無意識がベストっていうことなんですよね」
──トラックと英語、日本語を交えた歌詞の滑らかな一体感に加えて、その表現は抽象から具体へ歩み寄っていますよね。
ゆう姫「私は、“後は自分で埋めてね”っていう穴埋め的な表現が好きだし、他の人の作品でもそういう部分にぐっと来るんです。ただ、以前の作品は穴を空けすぎて、感情移入出来ないくらい抽象的な表現になってしまっていたところがあったので、今回の作品ではもっと現実に歩み寄って、聴く人それぞれがその世界に入り込めたらなという思いで作りました」
──ただ、その一方で、今の日本のポップスの大半は想像力を働かす余地がないほど、余白が埋まってしまっていますよね。
JEMAPUR「歌詞だけじゃなく、音も詰め込みすぎな感じがします。そして立体感がない。いつか、声とハンドクラップだけで成立させられるところまでいけたら最高なんですけどね(笑)」
ゆう姫「そこまでいくと、もはや電子音楽じゃないっていう(笑)。ただ、JEMAPUR個人ではまさに今、そういうことをやっているんだよね?」
JEMAPUR「今はとあるプロジェクトのために、色んな速度の手拍子をずっと録音しているんです。でも、僕らにはリミッターがないので、いつかYJYでもそういうことをやるかもしれない(笑)」
──そして、表現に余白を設けているからこそ、YJYの楽曲は映像映えしますよね。関根光才さん、ショウダユキヒロさん、上野千蔵さん、そして、エイフェックス・ツインのヴィジュアルコラボレーターであるイギリスのWEIREDCOREが手がけたミュージックビデオはどれも刺激的で素晴らしい出来です。
ゆう姫「それこそ私たちが余白を設けているからこそ、それに刺激されて、余白を映像で補ってくれたのかなって。だから、音楽と映像が自然に融合しているんだと思うし、これからもそう感じてくれる映像作家さんと一緒に作品を作りたいですね」
JEMAPUR「それから今回のアルバムでは、「When」にラッパーのCampanellaをフィーチャーしているんですけど、今後もコラボレーションはどんどんやっていきたいです。例えば、サイエンティストとかメディア・アーティストとかね」
ゆう姫「私は今のところノープランですけど、2018年は海外に行く気はしてます。アルバムを出して、今までにないくらい国内外からも反応があったので、今年はツアーもやるし、もっと色んな人に届けたいよね?」
JEMAPUR「本当はこういう音楽が好きな人はもっといるんじゃないの?って思っているので、そういう人たちにどんどん届けていきたいですね。トレンドに則った瞬発力の高い音楽と違って、普遍的なことを追求している音楽は浸透するのに時間がかかるとは思うんでうんですけど、今回、アルバムのマスタリングをお願いしたオランダ・ロッテルダムのプロデューサーのMuckyがやってるユニット、Sevdalizaもまさにそんなスタンスで粛々とやっているアーティストで」
──Sevdalizaが2017年に発表したアルバム『ISON』はリリース当初、そこまで話題になりませんでしたけど、世界の音楽メディアが選ぶ2017年の年間ベストにあちこちでノミネートしていましたもんね。
ゆう姫「だって、私たちが最初に彼の音楽をSoundCloudで聴いた時、フォロワーが2000人くらいだったもんね」
JEMAPUR「彼らも僕たち同様、映像にこだわっているし、昔と違って、今は音楽の伝え方を選べる時代なので、2018年も自分たちのやり方でより広く音楽を発信していきたいですね」
photography Akiko Isobe
hair Yusuke Morioka
make-up Kouta(eight-peace)
style Hayato Takada
interview Yu Onoda
edit Ryoko Kuwahara
Young Juvenile Youth
『mirror』
発売中
(U/M/A/A Inc.)
https://www.amazon.co.jp/mirror-初回生産限定盤-Young-Juvenile-Youth/dp/B076DNBNTW
https://itunes.apple.com/jp/album/mirror/1296749455
初回盤は、世界的に評価されているエイフェックス・ツインの映像クリエイターWEIRDCOREによる新作「Slapback」や、関根光才監督による「Animation」「Youth」、上野千蔵監督による初のMV作品「Her」と、計4本のMV収録。7インチサイズ豪華紙ジャケ仕様16Pブックレット。
LIVE INFORMATION
1月26日(金) “Young Juvenile『Youth Mirror』Release Tour 2018”, JB’s(名古屋)
2月7日(水) TBA(東京)
2月9日(金) “MeCA”, WWW(渋谷)
2月10日(土) Kieth Flack(福岡)
Young Juvenile Youth
ヴォーカルゆう姫と電子音楽家JEMAPURによるエレクトロニック・ミュージック・ユニット。2012年より活動を開始。2015年、iTunesが世界中のニューカマーの中から選ぶ「NEW ARTIST スポッツライト」に選出される。同年Beat Recordsよりミニ・アルバム『Animation』をリリース。iTunesエレクトロニック・チャートにおいて最高7週連続1位を獲得。映像作家・関根光才監督が手がけたMV「Animation」が海外を中心に話題を呼ぶ。U/M/A/Aに移籍後、2016年5月、『Hive / in Blue』を配信限定でリリース。同年、ショウダユキヒロ監督による新感覚体感型アート・フィルム『KAMUY』で村上虹郎と共にゆう姫が主演を務め話題を呼ぶ。この映画の中で重要な役割を担った楽曲“A Way Out”を“Youth”と共に配信と数量限定カセット・テープにてリリース。2017年11月、デビューアルバム『mirror』をリリースする。Taicoculub、朝霧JAM、EMAF TOKYO、Boiler Room、MUTEK,JPといった音楽イベントのみならず、YSL、sacai/UNDERCOVER PARTY、ERDEM x H&Mなどファッション界からも大きな注目を集める。
http://yjymusic.com
jacket ¥265,000 pullover ¥178,000 pant ¥58,000/sacai
accesaries model’s own
shirt ¥36,000 dress ¥38,000 earrings ¥11,000(left) ¥15,000(right)/JOHN LAWRENCE SULLIVAN
knit ¥112,000 skirt ¥106,000 shoes ¥177,000/STELLA McCARTNEY
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sacai TEL 03-6418-5977 http://www.sacai.jp
JOHN LAWRENCE SULLIVAN TEL 03-5428-0068 http://john-lawrence-sullivan.com/
STELLA McCARTNEY JAPAN TEL 03-6427-3507 http://www.stellamccartney.com
*all prices excluding tax