天野「変な話、ヨーロッパから来た人が日本画を見て一番驚くのは、背景が何も描いてないことなんです。だからこれは途中で放棄したのか、死んじゃったのか、何なのかって大抵同じことを訊いてくる。いや、それはあえて余白としてあって描かないことでみんなに想像してくださいってことなんですよと言うんです。そんな絵ばかり見せると、ヨーロッパの人たちは随分淡白な人たちだなって思うわけです。ヨーロッパみたいに背景まで描きまくってっていう、まるで脂っこい料理を次から次へと食べるみたいなことから比べると、一汁一菜みたいなもんですよ。それだけじゃないんだけど、わかりやすく言うと、そういう感じで織り込まれてる気がするな」
平野「そうですね。だからこそもっとみんな、若い人もそうですけど、高級なものを食べるということではなくて、食に繊細になってもいいんじゃないかなって思います。例えば麦茶の味ひとつにワクワクしたっていいんじゃないのかなって。それくらいおもしろいものだって思ってるから」
天野「あのね、僕、横浜トリエンナーレを担当するのは、2005年、2011年に続き3回目なんですけど、毎回言われるのが、みんなでワイワイ言いながら飯を作って食べれるところを作ってくれへんかってことで。2005年はできたんですよ。メキシコやドイツから35人アーティストを選んだんだけど、『自分の国の一番旨い飯か酒を持って来てくれへん?』って言うて(笑)。そしたらね、ミュンヘンの子はフランクフルトの白いやつ(ヴァイスブルスト)を山ほど持って来て。『おじいちゃんに作ってもらった』って。一晩のうちに全部食っちゃった(笑)。鍋やったりね」
平野「素敵! 食べて描いて、食べて描いてって」
天野「別に話はどこででも出来るんだけど、作りながら食べながらやるのがいいってみんな言いますね。単に楽しいとか騒ぐためじゃなくて、食を通じてネットワークを作っていくというのをみんなが望んでいるというのが、すごくおもしろい」
平野「何か食べて溶け合うものがあるっていうか」
天野「食べてる時は、まずケンカしないしね。おもしろい話になるしね。幸せな気分になるわけですよ」
平野「おいしいものがあれば、そこは共和国みたいな(笑)」
天野「腹が減るから腹が立つしね、腹が減る様な原因を作ってるヤツを見ればもっとムカつくしっていうね」
平野「うん、確かにそうですね」
天野「だからみんなでおいしいものを食べよう、ってこんな話でええのかな?(笑)」
平野「いいと思います!(笑)」