森村泰昌展や奈良美智展など数多くの重要な展示を成功させ、現代アートの名裏方として名高い天野太郎。その天野が様々なゲストを迎え、アートの定義や成り立ち、醍醐味を語る連載企画の第2弾。生粋のごはん狂である平野紗季子とともにアートの食の接点、そしてそこから見える美の定義までを語り尽くす。
ー天野さんは今、横浜トリエンナーレ(横浜で行われる3年に一度の国際展)の準備中ですか?
天野「今はその作家の選定や交渉で出張ばかりですね」
平野「私、前回行きました。オノ・ヨーコさんの展示があった時」
天野「ああ、そうなんですね。横浜トリエンナーレは来年8月開催なんですが、今が一番楽しい時なんです。出品を依頼しに行くと、作家は頼んだことの倍以上のことを返してくるんですよ」
平野「そういうものなんですか?」
天野「『これ出してね』って言って、大人しく『はい、わかりました』って言う人は滅多にいないです。色んなアイデアがあるから、ここぞとばかりにあれもしたいこれもしたいって言ってくる(笑)。まあ、うまく出来上がるのが一番ホッとしますけど、そこまで行ったら『さあ、どうぞ、見てください』という状態ですからね」
平野「じゃあ企画してる時が一番おもしろいんですね」
天野「そうですね。何が起こるか分からないことも含めて(笑)」
ー平野さんもご自身でギャラリーでの展示をやられたり、アートに関心が高い印象がありますが。
平野「わりと見に行きますね。でも、美術館でのアートの見方がわかんなくなっちゃうことがあって。今日も展示を拝見したんですけど、沢山の人がいて、(奥から)作品・人・私って構図になってて、黒山の奥に見えるゴッホ、みたいな」
天野「日本はまだ予約制にしてないからね」
平野「予約制っていうのがあるんですか?」
天野「ヨーロッパもそうかもしれないけど、アメリカは人気がある展示は予約制なんですよ」
平野「確かに。『今日のチケットはないです』って言われたことあります」
天野「向こうは展覧会するために7億円かかるとしたら、そのためにファンドレイズ(資金調達)するんです。入場料とかカタログの収入とかも多少は考えますけど、そのお金が少々入らなくても大丈夫くらいのところまでお金を集める。集まらなくて中止になる展覧会もいっぱいあるんですよ」
平野「それってすごくいいかもしれないですね。誰でもいいから来てもらわなきゃいけないという感じではなくなるから」
天野「一応誰でも来てねという風にはしてるんだけど、人垣で作品が見えないというのは本末転倒なので制限をかけてる。日本でも入場規制はありますが、ある程度はお客さまを入れますね。苦情はありますが、それでも『入場料を取っておいてこれだけたくさん人がいたら見えないから制限しろ』という世論にまではあまりならない」
平野「そうなんですね。私の感覚では、非日常的な感覚になりたいとか、情緒を感じたいとか、日常とはちょっと違う心の動きがあればいいなと思ってアートを見に行くから、それですごい人だかりとかだと残念というか。それも含めて美術館の楽しみなのかなって思わざるを得ない感じになります」
天野「例えば秘仏を持ってるお寺がいくつかあって、20年とか25年に1回のご開帳の時に行くと、全国から人が来てそりゃあもう見られたもんじゃない。それがチラっとでも見れたら、わざわざ来てよかったって言って帰って行く。僕ね、日本の美術館での鑑賞の仕方はそれと似てるなって思って(笑)」
平野「あはは、そうですね。『ありがたい』みたいな感じですよね」
天野「そう、つまり『ありがたい』んですよ。ありがたいという感覚が、まだ日本人の中にある」
平野「アート自体がありがたいっていうことですか? そこまでアートって感心しなきゃいけないものなのかなって思うんですけど」