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『ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ』 メアリー・マクガキアン監督インタビュー

E.1027室内画像『ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ』より


——映画はどこまでが真実で描かれているのでしょう?


メアリー「ドラマを作っている時に、どの程度まで想像的な部分を盛り込むかということについて、まず自分なりの指標を決めることが必要です。今回の映画に関しては色々とリサーチをして、この映画の中で描かれている起こったこと、年代、場所は事実通りに描いていますが、どうやってそれが起こったか、あるいは誰がどんなことを言ったかについては、私たちの想像が入っています。ただひとつ例外があるのは、『浮気の部分』です。その浮気に関しては、どこにも確実な資料がないのですが、調べていくと、シャルロット・ぺリアンが、ル・コルビュジエのところに『何か仕事をください』とお願いしに行くと、『刺繍でもしていれば?』と言ったというのは本当のことのようでした。また、バドヴィッチは女たらしで、様々な人と関係を持っていました。そしてシャルロットという人は、自由奔放な人であったようです。CIAMと言われる近代建築の学会は、計3回行われたのですが、1929年にはギリシャ・アテネで行われました。その学会での写真には、ル・コルビュジエ、ジャン・バドヴィッチ、フェルナン・レジェ、そしてシャルロットが写っています。アイリーン・グレイはいませんでした。その翌年、ル・コルビュジエがシャルロットを雇うのですが、後に彼女に家具のデザインをさせます。その際、ル・コルビュジエは彼女に『アイリーン・グレイに似せなくてもいいから、アイリーン・グレイになったつもりでデザインしなさい』という助言をしています。それが1935年前後であったようです。同時期にバドヴィッチはヴェズレーに行き、アイリーン・グレイは〈E.1027〉を出ていきます。ル・コルビュジエはシャルロットを近くに置いておくために自分の従兄弟と結婚させました。その後、バドヴィッチはミレイユという女性と関係を持つのですが、ミレイユの母とも関係を持ち、3人で暮らすようになります。しかしシャルロットはアイリーン・グレイの純粋さや誠実さに憧れ、自分なりの美意識を再発見するため、1937年に日本に行くのです。それはバドヴィッチとの約10年にも渡る関係の終わりでもありました。誰も何も言わないけれど、周知の事実という関係だったと思います。資料としては何も残ってはいませんが、私はそうだったのだろうと考えています」


——監督ご自身が資料を調べて研究をなさり、脚本を書かれたのでしょうか。研究者や専門家の方のご協力のもと書かれた場合、どの段階から、どのようなかたちでご協力を頂いていたのでしょうか。


メアリー「はじめは自分で調査をしました。アイリーン・グレイの人生についてはいくつもの説が存在し、論争もありましたし、それらには必ずしも互換性がありませんでした。しかし信頼できる専門家たちに出会うことができ、大変に尽力いただきました。特にアイルランド国立博物館のキュレーターでもある博士、ジェニファー・ゴフ、Architecture and Chloe Pitiotの名誉教授であるキャロライン・コンスタント、ポンピドゥー・センターのキュレーターたちです。ジェニファー・ゴフには、本作に関連するドキュメンタリー“Gray Matters”では主要な語り手となっていただきましたし、プロジェクト全体において重要な人物となりました。しかし、脚本は自分で書いています」


——監督の想像によるエピソードがあれば具体的にどの部分か教えてください。


メアリー「アイリーン・グレイは自身が残した書簡を死ぬ前に全て破壊してしまいました。何とか、私はそれぞれのピースを継ぎ合わせることができましたが、どの作品がいつ、どこで、誰と創られたのか、そして各シーンのインテリアの性質については想像するしかありませんでした」


——ペリアンとバドヴィッチの浮気のエピソードは想像ですか?


メアリー「ジャン・バドヴィッチとシャルロット・ペリアンは親密な間柄だったという論争を裏付ける状況証拠はたくさんありますが、絶対的に動かしがたい証拠があるわけではありません。アイリーン・グレイとジャン・バドヴィッチの関係性も同様です。動かしがたい証拠がなければ、多くの研究者はこれらの親密な関係が本当にあったのかを問いただすでしょう。ですが、これは事実から浮かび上がってきた彼らの関係の可能性に対する、私の1つの見解なのです」

——撮影の際、E.1027のどこを修復し、どの家具を復元しましたか?


メアリー「映画のために復元が行われたのは、主に構造的な部分でした。E.1027の作り付けの家具については、現在カップ・モデルヌがマネージメント権を持っていますが、映画で使用した家具は、彼らの前にその権利を所有していた“E.1027アソシエーション”により一つ一つを復元されました。劇中に登場するそれ以外の家具は、最初に映画に寄付され、それから権利者であるARAMによってE.1027に寄付されました」



——本作のコルビュジエのモノローグはとても主観的ですが、これは資料に基づいたものですか。それとも創作でしょうか?『私の壁画は、自己表現の形。私自身の性的妄想を表しているのだ』の部分はアイリーンへの性的な思慕という意図にも思えます。


メアリー「劇中に登場する言葉は、映画の主要人物であるアイリーン・グレイ、ジャン・バドヴィッチ、そしてル・コルビュジエの三人による著作や書簡にインスパイアされています。『私の壁画は、自己表現の形。私自身の性的妄想を表しているのだ』については、これは彼が母親にあてた手紙にインスパイアされた創造的なセリフです。この手紙は、当時としては珍しく、非常に率直に親密さについて書かれていました」


​​『ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ』

【監督・脚本】メアリー・マクガキアン
【音楽】ブライアン・バーン 【スチール】ジュリアン・レノン
【出演】オーラ・ブラディ / ヴァンサン・ペレーズ / ドミニク・ピノン / アラニス・モリセット
© 2014 EG Film Productions / Saga Film © Julian Lennon 2014. All rights reserved.
2015年 / ベルギー・アイルランド / フランス語・英語 / 108分 / カラー / シネスコ / 5.1ch / 原題:THE PRICE OF DESIRE
配給:トランスフォーマー/提供:トランスフォーマー+シネマライズ
後援:アイルランド大使館、ベルギー大使館、スイス大使館 協力:国立西洋美術館、hhstyle
http://transformer.co.jp/m/lecorbusier.eileen/

アイリーン・グレイ(1878-1976)
アイルランドの貴族の家に生まれ、単身パリに渡る。1906年、日本人工芸家・菅原清造と出会い、漆を取り入れた斬新な家具を生み出し、当時のシーンで話題を呼ぶ。アールデコだった作風は徐々にモダニズムへと変化し、1922年には自身の店<ジャン・デゼール>をパリにオープン。1929年に手掛けた建築処女作<E.1027>は、かのル・コルビュジエを驚嘆させ、彼をこの地に惹きつけた。生涯に渡り自らのスタイルを貫き続けた、気高く勇敢なクリエイター。


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『アイリーン・グレイ 孤高のデザイナー』
Bunkamuraル・シネマにて10月28日(土)公開決定!
10月14日(土)の公開が迫る、近代建築の巨匠ル・コルビュジエと、彼が生涯で唯一その才能を羨んだと言われる女性建築家・アイリーン・グレイの間に隠された波乱万丈のストーリーを美しき映像で描く極上のドラマ『ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ』。本作は5年に渡る丹念な調査を重ね、実際の史実に基づき構成されている。そして、このリサーチの中で並行して制作されていたのが、アイリーン・グレイの人生を深く掘り下げたドキュメンタリー映画『アイリーン・グレイ 孤高のデザイナー』。その公開が、10月28日(土)よりBunkamuraル・シネマにて決定。妥協のないビジョンと冒険心を持ち、装飾、デザイン、建築の分野できらめく才能を発揮しながらもアイリーン・グレイは、死の直前に自身にまつわる多くの資料を処分。そのため死後、彼女の名前は表舞台から徐々に消えていく。しかし2009年、世界で最も長い歴史を誇る美術品オークションハウス、クリスティーズにて開催された『イヴ・サンローラン&ピエール・ベルジェ・コレクション 世紀のオークション』にて、彼女が手掛けた<ドラゴン・チェア>が、当時史上最高額の約28億円で落札され、大きな話題になった。本ドキュメンタリーでは、アイリーンの生い立ちから亡くなるまでを、当時の作品や関係者、研究家のインタビューを交え、そのヴェールに包まれた肖像を明らかにしていく。「物の価値は、創造に込められた愛の深さで決まる」という言葉を残したアイリーン。100年近く経った現在でも彼女のデザインは、時代の最先端を走り、各界に影響を与え続けている。本作はそんな彼女の生き様や創作の秘密を知ることが出来る絶好チャンス。鑑賞料金は1500円で、『ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ』の半券提示で300円割引となるので、お見逃しなく。



10月28日(土)Bunkamuraル・シネマにて公開
【監督】マルコ・オルシーニ 【出演】メアリー・マクガキアン、ジェニファー・ゴフ
2015年 / アイルランド / フランス語・英語 / 75分 / カラー / シネスコ / ステレオ / 原題:Gray Matters 日本語字幕:ブレインウッズ / 字幕監修:五十嵐太郎 配給:トランスフォーマー 
提供:トランスフォーマー+シネマライズ 後援:アイルランド大使館 協力: hhstyle
評伝「アイリーン・グレイ」(11月1日(水)・みすず書房より刊)
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