——そうして複数のプロデューサーやプレイヤーがクロスオーヴァーしながらコラボレートしていくやり方は、いまのポップ・ミュージックやヒップホップではメジャーな手法ですよね。
ニック「ダンス・ミュージックなんかとくにそうだよね。基本サンプリングで作るから、誰の声を使ったっていいわけだし。自分達も日常的にそういう音楽を聴いているし、だったら自分達もいろんなヴォーカルを取り入れてみようぜっていうさ。いろんな音が描けたほうが面白いし。たとえばストロークスの音が5色だとしたら、うちのバンドの音は24色くらいあったらいいなと(笑)」
——ちなみに、いまってチックのメンバーは何人なんですか。
ニック「現状、ステージでは6人かな。ただ、ヴォーカルがイギリスで活動するときと、アメリカで活動するときの2手に分かれてて、だから7人になるのかな。ただ、今、ステージに立ってるのは6人だよ」
——感覚としては、固定された「バンド」というよりも、もっと自由なコレクティヴな感じに近い?
ニック「まあ、そんな感じだよ。一応、オリジナル・メンバーが3人残ってるんで。でも、いつ誰が出たり入ったりしてもおかしくないし、すごくフレキシブルにやってる。オリジナル・メンバーを中心にファミリーみたいな感じでやってるね」
——今回、メインのプロデューサーを務めるパトリック・フォードの他にジョアキンが一曲手がけていますね。これはどういう経緯で?
ニック「昔から好きなアーティストができると、その人と一緒にスタジオに入って間近で仕事ぶりを見て、勉強したいって気持ちがあるんで。あの曲(“NRGQ”)もパトリックと作ってたら全然違うものになってただろうし、これも作品により多くの色を取り入れるっていう発想から来ているから、新しいサウンドなり感覚に触れてみたかったんだ」
——たとえば最近のポップ・ミュージックの世界では、マックス・マーティン(テイラー・スウィフト、アリアナ・グランデ、ケイティー・ペリーetc)のようなプロデューサーに代表される分業制のソングライティングが多く見られますよね?
ニック「バンドのメンバー全員ってわけじゃないけど、とりあえずラファエル(B)と自分は(マックス・マーティンが)好きで(笑)。そもそも、ポップ・ミュージック自体がダメっていうメンバーもいるから(笑)。ただ、ラファエルと自分は好きだし、自分達の手法とも近い気がするんだよね。インストゥルメンタル・パートとか、あるパートを作ったら、それをみんなに送って、みんながそれにアイデアを足してまた返してきて、そのうちの誰かが歌った1フレーズのメロディが気に入って採用して、その人の名前を曲のクレジットに入れるってことをしてるし。だから、自分達ももともとそんな感じなんだよね。インストゥルメンタルって、聴く人によってまるっきり解釈が違ってくるじゃないか。マックス・マーティンのやり方って、モータウンとかあの時代の手法に近いのかもね。アリアナ・グランデとかテイラー・スウィストのアルバムなんて、ここ10年での最高傑作だと思うしさ」
——そうしたメインストリームのポップ・ミュージックから学ぶことも多いですか。
ニック「もちろん。ヒップホップが中心だけど、ポップ・ミュージックも聴いてるよ。マックス・マーティン関連なんかとくに好きだし」
——ヒップホップではどのへんが刺激的ですか。
ニック「ミーゴスとか、あの最新作(『カルチャー』)マジで最高だよね! あとはドレイクとか、フィーチャーとか、サグドッグとか、もちろんケンドリックも。家のキッチンではいつもヒップホップのラジオを聴いてるから、どうしても耳に入ってくるし、しかもニューヨークに住んでるから、生活の中に普通にヒップホップが溶け込んでるんだよね。メインストリームのヒップホップも聴いてるけど、アンダーグラウンドのも大好きだし、アトランタ周辺のダーティな感じのやつとか、クラウドトラップとかよく聴いてる。とりあえず、完成度が高ければいいんだよ。どんなに実験的だろうが12歳のお子様向けのポップだろうが、質が良くて完成度の高い音楽ならいいんだよ」