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text by Nao Machida
photo by Satomi Yamauchi

『アンダー・ハー・マウス』 エイプリル・マレン監督監督インタビュー

NeoL_ April | Phogotraphy :  Satomi Yamauchi


——ダラス役を演じたエリカ・リンダーは本当に魅力的でしたが、彼女をどのように見つけたのですか?


エイプリル「当初は役者の中からできれば本当の同性愛者を探したいと思っていましたが、本作の主軸であるダラス役にふさわしい人が見つかりませんでした。もし良い役者が見つからなければ映画は作れないと言われていたので、私は焦っていました。ダラスはニュートラルな感じに描きたかったので、新鮮な顔、もしくは両性具有的な顔を探していたら、エリカ・リンダーの短いモノクロ動画を発見したのです。彼女はすごくかっこよくて、ただ下を向いたり、上を向いたりするだけで完璧でした。それに彼女の所作は、意識しなくても自然とダラスのようでした。私たちは彼女が英語を話せることを確認して、実際に会って作品の話をしました」


——オファーしたときの反応は?


エイプリル「エリカにとっては初めての俳優業となる作品でしたので、脚本を読んで圧倒されていたようです。すごく努力を要する役ですし、感情的にも肉体的にもかなりの露出を求められますから。でも、彼女は最初の打ち合わせの段階からたくさんの質問をしてきて、最終的にはこの役を獲得したいと決意してくれました。プロデューサーたちを説得する必要があったのですが、彼女の決意は固く、熱心に取り組んでくれました。とても勇敢な人です」


——撮影ではスタッフも全員女性だったそうですね。女性のプロダクションチームを組んだ理由は?


エイプリル「女性の脚本家や監督は多くないですし、女性の物語も多くありません。ですので、できる限り女性の視点に忠実な映画を作ることを目指しました。女性のチームを組むことにしたのは、編集や美術、衣装、撮影など、あらゆる芸術的な決断を女性の視点で下すことができるからです。みんなが自分に正直になることを大切にして、その結果が何であれ、そのままスクリーンに投影しようと考えていました」


——ジャスミンの婚約者ライル役のセバスチャン・ピゴットは、女性ばかりの現場をどう感じていましたか?


エイプリル「『僕は王様だ!』って、すごく喜んでいました(笑)。彼の撮影は2日だけだったのですが、ある日、トイレの便座が上がっていたんです。誰もが『どういうこと!? 誰がやったの??』と騒いでいたので、『ライルが現場入りしたのよ』と言いました。みんな大爆笑でした」


——今回の来日では、レインボー・リール東京(東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)での上映も実現したそうですね。日本では、自分のセクシュアリティを公言することを恐れている人が少なくないかもしれません。今回の上映での反応はいかがでしたか?


エイプリル「すごくポジティブでした。セックスシーンも多いですし、とてもエモーショナルな作品ですが、根本的にはイノセントで純粋なラブストーリーであることを、LGBTではない人も含め、観客の誰もが理解してくださったように感じます。日本のLGBTコミュニティの状況がシビアなのは知っていましたが、ここまでシビアだとは理解できていませんでした。彼らがあんなにも恐れていて、恥ずかしいと思っているのだと気づいて、私は感極まってトイレに駆け込みました。彼らを抱きしめて、『もうすぐよくなるから、力を合わせてがんばって』と言いたかったです」


——ご自身はカナダ出身ですが、現地のLGBTコミュニティが置かれている状況はいかがですか?


エイプリル「カナダでは、誰もが自分らしくいられる自由を感じられます。どのようなアイデンティティでもいいし、レッテルを貼られる必要もありません。ありのままの自分でいいのです。日本のように疎外感を抱いたり、居場所がないように感じたりしたまま生きていくなんて、想像ができません。日本の皆さんにとって、自分らしくいることがどれだけ難しいのか、私には理解しきれていないかもしれないです。きっと、ずっと怯えていて、生涯にわたって隠れている人もいるのでしょう。それは世界にとって、とても残念なことです。私たちは新しい方向へ進んでいるのですから、団結して自分らしく生きる勇気を持っていただきたいです。それによってポジティブな変化が生まれ、誰もが自由に自己表現できるようになることを願っています」

——上映後は多くの観客が監督とお話しされたそうですが、印象に残った言葉はありますか?


エイプリル「たくさんの人たちに感謝していただきました。彼らは登場人物と共感できたことを喜んでくれました。本作はたくさんの希望を与えることができたように思います。日本のLGBTコミュニティの皆さんが、独りではないのだと理解してくれることを願っています。愛は愛ですし、恋に落ちるのは美しいことなのです」


——カナダの観客との違いは感じましたか?


エイプリル「大きく違いました。カナダではみんなとてもオープンで、同性婚も合法ですし、トロントの街を歩いていると、同性のカップルが手を繋ぐ姿や仲良くしている姿を少なくとも1日1回、もしくは2、3回は見かけます。とても普通のことですし、よく見る光景なのです。カナダではLGBTコミュニティが称賛してくれただけでなく、たくさんの異性愛者も本作を観てくれました。同性愛が広く受け入れられているので、観客層も幅広いのだと思います。日本の観客の方々は、公の場で愛情表現をしたり、自分らしくふるまったりすることを恐れていると話していました。同性の相手とデートしたくても、怖くてできないという人もいました。(カナダと日本は)まるで2つの別世界です。でも、本作が彼らを繋いでくれるといいなと思います」


——日本でも同性愛者だけでなく、多くの観客が本作を観てくれるといいですね。


エイプリル「そう思います。異性愛者が本作を観ることによって、LGBTの人々を理解して、視界や境界線を広げることができるとうれしいです。それによって、ジェンダーに対する考え方もより柔軟になるはずです。私たちの国では、男性や女性というジェンダーの区別やバリアをなくそうとしています。人は人であり、それぞれのジェンダーがどうあるべきかなど、型にはめる必要はないと思うのです。将来的に、そういった考え方が進んでいくといいなと思っています」


——刺激的なセックスシーンも多く含まれていますが、印象に残っている撮影の思い出やハプニングはありますか?


エイプリル「セックスシーンを撮影していたら、カメラマンの足がベッドにはまって抜けなくなってしまったり、本当にいろんなことがありました(笑)。あと、エリカ・リンダーは常にトップレスでした!最初は『彼女は恥ずかしがり屋かしら?』と想像していたのですが、衣装合わせで初めて会ったら、さっさと服を脱いで『元気?』と言われました(笑)。私たち『「エリカ…!? こんにちは……」と目を丸くしたものです。彼女は現場でもトップレスで歩き回っていました』


——いよいよ日本でも公開されますね。


エイプリル「日本の皆さんには本作を観て勇気を見つけてほしいですし、年齢や性別や宗教に関係なく、この上ない幸せや愛を感じられるのだと気づいてほしいです。独りではないということも。自分を支えてくれる強いコミュニティがあるということに気づいてもらえたらうれしいですね。(カミングアウトすることで)家族や親友を失う人もいるでしょうし、私には彼らの辛さを本当に理解することはできないかもしれません。でも、彼らが自分らしくいられる強さを見出して、若い世代に示してあげられるといいなと思います。状況は彼らにしか変えられないのですから。私たちの世代が街で自由に手を繋いで歩き出せば、子どもたちもそれを見て学べるのではないでしょうか。この作品に未来を見出して、勇気や強さを感じてほしいです」


——LGBTコミュニティ以外の観客には何を感じてほしいですか?


エイプリル「愛にまつわる可能性に対して、オープンな心で観ていただけたらうれしいです。何が“普通”かということに関して、これまでの境界線やカテゴリーを捨ててほしいです。愛は愛だということを感じていただけたらと思います」


——監督、プロデューサー、女優として活躍されていますが、今後の予定は?


エイプリル「これからもできるだけ長く、できるだけたくさんの作品を作りたいです。次はテレビシリーズを書く予定で、10月にはアイルランドで映画を撮影します。来年1月には新たに別のテレビシリーズが控えているので、忙しい1年になりそうです。そして春には、商業的ではないかもしれないけれど、とても特別な作品を予定しています」



photography Satomi Yamauchi
interview Nao Machida
edit Ryoko Kuwahara

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『アンダー・ハー・マウス』
10月7日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋他、
全国順次ロードショー
© 2016, Serendipity Point Films Inc. 
配給:シンカ
監督:エイプリル・マレン  
脚本:ステファニー・ファブリッツィ  
プロデューサー:メリッサ・コフラン
出演:エリカ・リンダー、ナタリー・クリル、セバスチャン・ピゴット
配給:シンカ/提供:シンカ、バップ 
2016年/カナダ/英語/92分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/R18+/原題:Below Her Mouth


公式HP underhermouth.jp

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