ナタリー・ポートマン主演最新作『プラネタリウム』が9月23日に全国で公開される。舞台は1930年代のパリ。アメリカ人スピリチュアリストの美人姉妹が、死者を呼び寄せる降霊術ショーを披露して話題を呼ぶ。すっかり魅了された映画プロデューサーは、世界初の映像をとらえようと姉妹と契約することに。しかし、それにより姉妹の運命が狂い出すー。ナタリーの妹役を演じたのは、ジョニー・デップとヴァネッサ・パラディの愛娘リリー=ローズ・デップ。30年代の陰鬱な空気感の中で、姉妹の美しさや危うさがさらに際立っている。ここではプロモーション来日を果たしたレベッカ・ズロトヴスキ監督が、キャスティング秘話や映画の背景について語ってくれた。
——本作は実在したスピリチュアリズムの先駆者フォックス姉妹と、フランスの伝説の映画プロデューサー、ベルナール・ナタンにインスピレーションを受けて制作されたそうですね。年代や場所の違う人物を一つのストーリーにまとめるのは難しかったのではないでしょうか?
レベッカ「脚本を書き始めて、自然とそのような流れになりました。スタート地点はフォックス姉妹の話だったのです。女優たちを集めてトランス状態に陥らせるという設定を思い描いて、少しずつストーリーを書き始めました。そこに映画プロデューサーを加えたいと思い、それからベルナード・ナタンを知って、話を融合したので、流れの中でアイデアがどんどん追加されていったという感じです」
——スピリチュアリストの姉妹を演じたナタリー・ポートマンとリリー=ローズ・デップが、とても美しかったです。まるで本当の姉妹のようでしたが、キャスティングはどのように行ったのですか?
レベッカ「ナタリー・ポートマンは、このプロジェクトにかなり早い段階から関わっていました。私たちはずっと前から友だちで、一緒に仕事をしたいと考えていたのです。ナタリーは親切にも私の過去の作品を観てくれていましたし、ちょうど彼女がパリに引っ越すタイミングでもありました。そこで私は、新世界(アメリカ大陸)からやって来たアメリカ人の女性の視点から、歴史あるヨーロッパの暗い時代を描く物語を作りました。ナタリーがパリに引っ越してきたのも同じように暗い年で、テロなどがありましたから。それに、彼女はユダヤ系アメリカ人として、フランスにおける反ユダヤ主義の増加を目の当たりにしていました。私はナタリーの目を通して、自分の国を見つめずにはいられなかったのです。劇中でもアメリカ人の姉妹の目を通して、昔のヨーロッパを描いています」
——リリー=ローズ・デップはどのように妹役に抜擢されたのですか?
レベッカ「妹役はとても難しいキャスティングでした。13、4歳という設定でしたし、ナタリーがすべてのスポットライトを奪うことは目に見えていました。その若さで、ナタリーのように有名で美しい人はいないですからね。でも、見つけることができたのです(笑)。実はリリー=ローズ・デップの写真を送ってくれたのは、ナタリーでした。私はナタリーに聞くまで、彼女の存在を知らなかったのです。2、3年前でしたし、親が有名人だとはいえ、今のようには知られていませんでした。写真を見て、私は2人が似ていることにびっくりしました。それに、彼女たちは幼い頃から似たような境遇で育っていたのです。小さい頃からスポットライトを浴びていたわけですから。見た目が似ていて、内面的にも同じような経験をしてきたということで、家族を描く条件はそろいました。リリー=ローズ・デップは美しく、とても演技の上手な女優ですしね。そうやって姉妹のキャスティングは行いました」
——リリー=ローズ・デップとって、本作は本格的な演技初挑戦だったそうですね。とてもイノセントだけれどミステリアスで、ちょっと危険な香りのする役柄を見事に演じていましたが、彼女にはどのようなディレクションをしましたか?
レベッカ「リリー=ローズ・デップの人生において、これはほぼ初めての女優という仕事でした。そんな彼女をリードすることができて、私はとても感動しました。それまでは小さな役を1つか2つ経験したことがあるだけで、メインキャストとしては初めてだったのです。だから、彼女からは『泣くべきですか?』とか「どうしたらいいですか?」など、とてもナイーブな質問をされることもありました。純粋でナイーブだけれど、すごくディープでダークな役でしたので、彼女があまりダークな心境に陥らないように気を配りました。でも、彼女は正確にとらえることができていました」
——とても自然な演技でしたね。
役者には努力して洗練された演技をする人と、生まれつき才能のある人がいると思うのですが、彼女は後者ですね。私がやることは何もありませんでした(笑)
——ナタリーとは長年にわたって友だちだそうですが、姉のローラ役は彼女が演じることを念頭に置いて書いたのですか?
もし彼女が引き受けてくれなかったらがっかりしてしまうから、考えないようにしようと思ったのですが、もちろん、私は彼女を強くイメージしてこの役を描きました。ナタリーは初期段階から参加してくれたので、彼女が演じてくれることを前提に脚本を考えていました。
——フランス映画でナタリーを見るのは新鮮でした。彼女自身にとっては、本作はどのような経験だったのでしょうか?
ナタリーは本作の世界観を受け入れてくれました。それに、実はフランス語がとても上手なのです。でも、シャイでなかなか話そうとしませんでした。女優にとって、これはミュージカルに出るような経験なのだと思います。別の文化や言語に飛び込むということは大きな挑戦です。私は劇中でダンスをするよう頼む代わりに、フランス語で話してほしいと頼んだのです。現場はとても楽しかったです。友だちとの仕事は温かいものですよね。
——ナタリーのフランス語は完璧に聞こえました。
完璧です。彼女は努力家なのです。リリー=ローズ・デップは母親がフランス人なので流暢なフランス語が話せるのですが、(アメリカ人役なので)わざとアクセントをつけて話していました(笑)。ナタリーはその逆で、アクセントをなくそうと努力していたのです。
——30年代が舞台ですが、時代の背景にある不安が現代とも通じるように感じました。なぜあの時代を選んだのですか?
まさにそれが理由です。脚本家が「舞台は30年代」と言ったら、それは何か悪いことが起きるという意味なのです(笑)。それによって、登場人物の経験に合う、悲劇的な雰囲気が作り出されます。「舞台は1935年のフランス」と言えば、もはや説明する必要すらないのです。それに、ストーリーに出てこないかもしれないですが、30年代と現代のヨーロッパには共通点がたくさんあります。不景気や反ユダヤ主義、ホモフォビア、移民問題、外国人嫌いなどです。まるで、古い幽霊がヨーロッパに戻ってきたかのようです。
——陰鬱な雰囲気の中で、衣装やセットを含め、映像の美しさが印象的でした。この時代を描く上で、どのようなものからインスピレーションを得ましたか?
いろんなことにインスパイアされました。30年代のセットは、まるでプレイグラウンドのようでした。とてもモダンだけれど、たくさんのテーマや衣装が含まれていて、素晴らしかったです。でも、参照したのは1つのものだけではありません。私は30年代をそのまま再現するのではなく、それらの要素を現代風に解釈しようとしました。ですので、本作のセットはオーソドックスというよりも、より現代風になっています。
——当時の女優でナタリーに参考にしてほしかった人はいますか?
彼女は少しグレタ・ガルボに似ていますよね。でも、そういうことは言いませんでした。アメリカの役者は、誰もが言葉の訛りにすごく固執するのです。「彼女は中西部出身なの?それとも西海岸出身なの?」とよく聞かれます(笑)。彼女たちにとっては、そこに大きな違いがあるわけですよね。それは役作りにも役立つようです。今回も彼女に「訛りはどうする?」と聞かれました。でも、私はモダンなサウンドにしたかったので、逆に当時の作品は参考にしてほしくありませんでした。
——監督のこれまでの作品は、バイクのサーキットや原子力発電所など、死や恐怖が目に見えないけれど漂っている場所や設定でした。そして本作では、スピリチュアリズムだったり、ファシズムや反ユダヤ主義が台頭する30年代が舞台です。なぜ死や恐怖が漂う状況に引かれるのでしょうか?
私は自分の抱いている恐怖を映画にしています。それに、目に見えないものを映像にすることに、非常に興味があります。バイクレースの危険性や原子力発電所から出る放射能による汚染、そして本作では、幽霊や私たちの周りに漂うファンタジーを映画の背景に選びました。反対に、バイクのサーキットや原子力発電所といった、とてもビジュアル的な場所を選びました。セットデザインなどもビジュアル的なものにして、よりセクシーで、観ていて面白い映像を作ろうとしたのです。内面的には、目に見えないものの概念にフォーカスしました。
——目の見えない題材を扱うということは、スピリチュアルなものに興味があるのですか?それとも、何か経験されたことがあるのですか?
がっかりさせてしまうと思うけれど、答えはノーです(笑)。私はものすごく理性的な人なのです。不合理なことも一部は受け入れますが、映画は私の人生における最も非現実的なことかもしれないです。
——『プラネタリウム』というタイトルから内容が想像できなくて、実際に観て驚きました。監督はタイトルにどのようなメッセージを込めたのですか?
メッセージは込めておらず、疑問だけを投げかけました。観る人が好きに解釈してくれればいいと思います。『プラネタリウム』というのは歌のタイトルのようなもので、印象や感情やイメージを与えます。私はプラネタリウムと関連するすべてのイメージが大好きなのです。『理由なき反抗』には、ティーンエイジャーがプラネタリウムにいるシーンがあって、彼らは自分たちの人間関係の構図を思い浮かべて見上げています。暗闇の中で人工的な星を見るという意味では、暗闇の中で人工的に作られたストーリーを見る映画館に似ていますよね。そして、星座がわかれば見えるのですが、わからなければミステリアスに見えてしまう。さらに星を見ることで将来が読める。そういった意味合いを込めて、『プラネタリウム』というタイトルにしました。
——日本でもこの美しい姉妹のポスターを見て、多くの人が本作に注目していると思います。日本の観客にどのようなことを感じ取ってほしいですか?
いろんなことを体験して、疑問を持ってほしいです。そして劇場を出たときに、皆さんの周りの世界を違った視点で見てもらえたらうれしいです。
——監督が本作を通じて得た最も大きなものは何だと思いますか?
まだわかりません。10年後にお伝えします(笑)。でも、良い質問ですね…とにかくいろんなことがありましたから!映画製作というのはとてもヘヴィなものです。何かダークなものを抱えていると、たとえそれがダークな太陽だったとしても、何年も抱え続けるのはとても重いものなのです。本作を始めてから3年が経ち、今回の来日が本作のための最後の旅なので、すべてが終わったら答えられると思います。
——今でも映画界は男性が多いので、女性監督の活躍はとてもうれしいです。
フランスにいらっしゃい、たくさんいますよ(笑)。アメリカは男性監督が多いですし、日本にもあまり女性監督はいませんよね。私は河瀬直美さんしか知らないです。フランスでは状況が改善してきていて、今では監督の20%ほどが女性だと言われています。50%とは程遠いけれど、他の国よりは良い状況ですよね。状況を改善するには、女性だけではなくすべての監督を支援する必要があると思います。監督業自体の状況がよくなれば、女性も地位を得ることができるでしょう。どのような業界でも、辛い状況や複雑な問題があるときには、男性が信用されがちですから。
text Nao Machida
edit Ryoko Kuwahara
『プラネタリウム』
1930 年代、パリが最も華やかだったとき。アメリカ人スピリチュアリストのローラとケイトのバーロウ姉妹は、憧れのパリへと向かう。美しく聡明な姉のローラはショーを仕切る野心家で、好奇心旺盛で純粋な妹のケイトは自分の世界に閉じこもりがちな少女。ショーでは死者を呼び寄せる降霊術を披露し、話題の美人姉妹として活躍し金を稼いでいた。そんな2人の才能に魅せられた映画プロデューサーのコルベンは、世界初の心霊映画を撮影しようと姉妹と契約する。果たして姉妹の力は本物なのか?見えない世界を見せられるのか? 姉妹の運命が狂いだす――。
9月23日(土)より新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開
監督:レベッカ・ズロトヴスキ
脚本:レベッカ・ズロトヴスキ、ロバン・カンピヨ
出演:ナタリー・ポートマン、リリー=ローズ・デップ、エマニュエル・サランジェ、アミラ・カサール、ピエール・サルヴァドーリ、ルイ・ガレル、ダーヴィット・ベネント、ダミアン・シャペル
提供:ファントム・フィルム/クロックワークス
配給:ファントム・フィルム
PG12/2016年/フランス・ベルギー映画/英語・フランス語/108分/シネマスコープ/カラー/字幕翻訳:松浦美奈/原題:Planetarium
(c)Les Films Velvet – Les Films du Fleuve – France 3 Cinema – Kinology – Proximus – RTBF
http://planetarium-movie.com
レベッカ・ズロトヴスキ
1980 年生まれ、フランス・パリ出身の映画監督・ 脚本家。 2010 年に発表した初の長編監督作『美しき棘』が、第 63 回カンヌ国際映画祭の監督週間部門で上映され、センセーショナルを起こす。 ルイ・デリュック賞では新人作品賞を受賞。続く2013 年の『グランド・セントラル』では、第 66 回カンヌ国際映画祭のある視点部門に出品され、フランソワ・シャレ賞を受賞した。さらに、リュミエール賞では 特別賞を授与された。2014 年には、第 67 回カンヌ国際映画祭の批評家 週間部門のデディスカバリー賞およびヴィジョナリー賞の審査員長に選出された。『プラネタリウム』 は3本目の長編映画監督作品である。