――でも、そこからやっぱり音楽を続けたいと思うターニングポイントはなんだったんですか?
関取「神戸女子大学のCMソングを2012年から3年間担当させてもらったんですね。それが“むすめ”という曲で」
ハマ「覚えてます」
関取「賞金目当てに某コンテストに動画を送ったことがあって。それをCM制作会社の人が観て、『閃光ライオット』以降にお世話になっていたスタッフを通じて連絡が来たんです。『こんな話があって、締切まで数日しかないけど、曲書いてみる?』って。でも、そのタイミングが就職試験の最終面接の日で」
ハマ「すごいタイミングだね」
関取「そう。これも何かの縁だなと思って家に帰って曲を作ってみたら、CMに採用されたんですよね。それが“むすめ”で。就職するにしても秋採用でがんばればいいかなと思いつつ」
――それは明確なターニングポイントですね。
関取「自分でも初めて音楽で社会と接点が生まれたという実感があって。それまでの自分がなぜ塞ぎ込んでいたかというと、とにかく人に嫌われるのが怖かったんですね。人に嫌われるくらいなら、人の記憶に残らない努力をしたほうがいいと思うタイプで。でも、“むすめ”は自信を持って作った曲だったし、CMも素敵だったから。ネット上でどんな感想があっても、私について何を言われても傷つかなかったんです。それは生まれて初めての経験で。それで、このまま音楽をやったら自分が誰に嫌われても大丈夫だって思える、自分が変われるきっかけになるなと思ったんですよね。それなら、就職するより自分を変える道を選んでみようと思って」
ハマ「すごい話だね。僕もちょうど『花ちゃん、どうしてるかな?』と思っていたタイミングだったので。“むすめ”を聴いていい曲だなと感じましたし、花ちゃんもまだ音楽をやっていることがわかってうれしく思った記憶があります」
――そして、2月にリリースされた花ちゃんのニューアルバム『君によく似た人がいる』に収録されている“もしも僕に”にハマくんが参加して。
ハマ「僕も2年くらい前にGARAGEにちょくちょく遊びに行く周期に入っていて。そのタイミングで花ちゃんともひさしぶりに会ったんです。近年は音楽活動を精力的にやっていることも知っていたので、具体的に『一緒になんかやろう』と言わないまでも自然とそういう空気になったというか。吉澤さんの話もしたのかな?」
関取「したと思う。私は普通にOKAMOTO’Sが好きで『Let It V』とかもすごく聴いていたので。同世代だけど、尊敬の対象なんですよね。前のアルバム(『黄金の海であの子に逢えたなら』)のときにコメントのお願いをしたんですよ。でも、私はそういうものが苦手で。当時はまだGARAGEでちょいちょい会うくらいだったし、本気でバンドをがんばってる人を自分の箔付けのために使うみたいな感じがイヤだなと思ったんです」
――花ちゃんらしいですね。
ハマ「そういう気持ちはすごく大事だと思う」
関取「でも、『ゴメン』って言いながらお願いして。今回のアルバムも『ハマくんと同世代だし、一緒にやってみたら?』という提案がまずスタッフからあったんですけど、まだこれという曲がなかったから、やっぱりイヤで。そんなに手軽にお願いできる人じゃないと思ったし。でも、“もしも僕に”を書いて自信を持てるいい曲ができたから、お願いしようと思えたんです」
ハマ「参加できてうれしかったですよ。レコーディングも楽しかったし。すごく変わったところでレコーディングしたのも印象的で」
関取「そう、倉庫で録ったんですよ」
ハマ「現場にいる人も少なかったし、キュッとまとまったレコーディングができて。ただ、すごくいい曲なので、その分緊張感もありましたけどね。今、僕のイメージがなんでもできる人という印象になってきているのが、実は少しプレッシャーで。実際はそんなに器用ではないですし。“もしも僕に”はきちんと歌を届けないといけない楽曲だったので、ひとりのミュージシャンとして体得しなくてはいけないプレイを求められた楽曲でした」
――歌詞も素晴らしいですよね。
関取「うれしいです」
ハマ「18歳のときに初めて花ちゃんが歌っている姿を見たときも感じたのですが、『歌詞を見る』という感覚を味わえる歌だなと思っていて。あらためて、あのとき自分の主催イベントに誘って間違ってなかったなと思いました」