——その作品の中心に”shoppingmall”という身近なテーマとそこから拡散するイメージがあるのも興味深い。
tofubeats「『ショッピングモールを王道として捉えられるか』なんですよね。ショッピングモールって商店街と対比する構造で置かれがちですけど、自分にとって、自分が受容してきたのはデパートであって、ショッピングモールだから、そっちの方が王道なはずなんですよ。だけど、ショッピングモールより商店街の方がいいよね、っていう風な『教育』で思わされてる部分もある」
——僕も田舎の山を切り拓いて街を作った、本当の地元民なんてほぼいないニュータウン出身なので、そもそも商店街なんて無かったし、街に付随して建てられたデパートや大型スーパーが原風景。でも「商店街の方がいい」というような、謎の植え付けがある。DOTAMAくんの曲に”イオンモール”っていう曲があって、それもペシミスティックな感触があるんだけど、その曲について彼に話を聞いたら「でもショッピングモールって楽しいんですよね」って言われてハッとしたんだよね。確かに商店街とショッピングモールを、個人資本と大資本の衝突と捉えがちだけど、自分がどっちを享受してきたかと言えばショッピングモールだし、本当はそれがリアルだよな、って。だから「何がリアルで何がリアルじゃ無いか」というリリックにも同じようにハッとさせられる。
tofubeats「そこで『リアル』『リアリティ』みたいなモノが反転してるな、って思ったんですよね。僕らにとってリアルなのは、ジャスコでありダイエーであり、グルメシティなんですよ。そこに対して嘘をつきたくないし、そこから得た影響で音楽をやってる。東京に生まれ育って色んなイヴェントに子供の頃から行ってたんじゃなくて、神戸のダイエーで新譜のCDを買って、ブックオフの中古CDを買ってたわけです。その上で自分の音楽をやってるけど、一方で、そういう環境下に育った自分が、果たして王道になれるのかっていう、コンプレックスというか、アンビバレンスがあるんですよね。今やったらSuchmosとかD.A.N.みたいなバンドを見ると、めっちゃ羨ましい(笑)」
——確かに、KANDYTOWNに話を聞いたりすると、センスのいい個人商店が近所にあるようなーーそれは少し前の渋谷だったりするんだけどーーそもそもの文化資本の違いを感じる部分は強い。
tofubeats「DJをやりだしてから、東京に来ると同じ世代でも『ものが違うとはこういうことか』って思わされる事が多いんですよね。でも、僕は向こうになくて、こっちにあったモノを自分の個性にするしか無いし、その中にはショッピングモールもあるんです。僕がダメだったら、神戸に住んでる若者は絶望するしか無い(笑)。でも(日本全体を考えたら)ショッピングモールの方が受容してる人口は多いはずなんです」
——ただこれはイメージも込みだけど、tofuくんがリリースしていたmaltine recordの人たちは、そういった文化資本格差をインターネットで乗り越えようとしたとも思うんだよね。
tofubeats「それはポスト・トゥルースの話にも繋がるんですけど、確かにインターネットを利用して僕は世の中に出たけど、一方で、世の中が悪くなってる、少なくとも良くはないのはネットのせいじゃね?って話なんですよ。だから、僕らみたいに『ネットの寵児』みたいに思われた側は、それに対して応える責任があるなっていうのが、今回のコンセプトでもあって。インターネットを利用してきた人が、それに対する意見を出すのが大事なんじゃないかなっていう」
——ネットの恩恵を受けたというのはあると思うし、それは作品としても形にしてきたと思う。ただネットはインフラであって、「ネットの寵児」っていうのも他の人の捉え方だから、それに応える「責任」を感じるのは、誠実だとは思うけど、ちょっと大変すぎな気もするけど。
tofubeats「自分がネットを見ててキツいと思う事が多いんですよね。生きづらいな、って。ネットを利用してきたからこそ、そこに対する気持ちは表明したいんです」
——このアルバムとポスト・トゥルースに関する問題は他のインタビューでも話されているので、その部分は紙幅をとらないけど、そこに対する危機感は強い、と。
tofubeats「ポスト・トゥルースの一番のヤバさは、それぞれが真偽を受け止められない、判断できないって事以上に、『ぼんやりとした情報がなんとなく飛び込んで来る』ことだと思うんですよね。ブックレットにも『世の中が良くなくなってる』って書いてますけど、その印象自体、ホンマなんかなって。でも、良くなくなってるとしても、それを止めるすべが分からんし、これから良くなっていく想像すらできないっていう。でも、そういった事すら疑問に思ったり、どう思うって聞かれた事がない人の方が多いと思うんですよね。だから、そういう問いかけが出来て、あわよくば考えて貰えるような仕掛けのアルバムにしたかったんです」
——ブックレットでもそういういった漠然とした不安が一つのトーンになっているけど、一方で「チャーシューを買い忘れた」という話もその中にはあって。だから高尚な話ではなくて、市井の人の話だし、同時に市井の人がそういった不安の波の中にいるという怖さも感じさせられて。
tofubeats「他のインタビューで話してるSolangeの話もそうで、皆が落ちてるゴミを拾えば、道はキレイになるけど、でも『拾ったほうがいい』って伝えるのは難しいじゃないですか。『拾わなくていいじゃん』って言われたらそれまでだし。でも、そのゴミや道が自分に関係あると思えるか思えないのか、って事だと思うんですよね」
——それも想像力だよね。吉田健一が発して、ピチカート・ファイヴが更に広めた「戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである」という言葉があるけど、それとも通じる気がする。
tofubeats「人に働きかけることじゃなくて、自分を良くすることがまず大事っていう。だから、自分への問いかけをしたかったんですよね。そして自分にとっての『本当』を煮詰めて、リアルとしてどう出すかは毎回意識してるし、今回もそうですね」
——最後に具体的な話として、これからの動きは?
tofubeats「良い曲を作っていくという感じですね。外仕事もいっぱいオファーを受けてるので、それをコツコツ形にしていきます。動きとしては、台湾でのライヴがあったんですが、アジアでのライヴを増やしたいですね。英語圏じゃないところで、世界の中の地方で、もっと音楽をやってみたい。活動をあえて海外に向ける気はないけど、でも僕の作品にアクセスしようと思った時にし易いように、興味を持った人に提供できるようにしたいですね」
photography Satomi Yamauchi
interview & text Shinichiro JET Takagi
edit Ryoko Kuwahara
Special thanks MIU(http://miu-tokyo.com)
tofubeats
『FANTASY CLUB』
発売中
(Warner Music)
http://wmg.jp/artist/tofubeats/WPCL000012632.html
tofubeats
1990年生まれ、神戸在住。トラックメイカー/DJ。学生時代からインターネットで活動を行いジャンルを問わず様々なアーティストのリミックスやプロデュースや楽曲提供を行う。2013年4月にスマッシュヒットした“水星 feat.オノマトペ大臣”を収録したアルバム「lost decade」を自主制作にて発売。同年秋にはワーナーミュージック内レーベルunBORDEから「Don’t Stop The Music」でメジャー・デビュー。2014年10月2日(トーフの日)に、豪華ゲストアーティストを招いたメジャー1stフルアルバム「First Album」を発売。同年、12月には森高千里とのコラボ・アルバム『森高豆腐』をリリース。2015年4月1日エイプリルフールにメジャー3rd EP「STAKEHOLDER」をリリース。同年9月に2ndアルバム『POSITIVE』、2017年5月3rdアルバム『FANTASY CLUB』をリリース。
https://tofubeats.persona.co/