——“ダメだったかもしれない私”というテーマは、UMMMI.さんの作品の底辺にずっとある気がします。このMVの内容はどういう感じで決めていったんですか?
マイカ「年末にリリースの構想が出て、UMMMI.ちゃんとMVの打合せしたんです。そのときにUMMMI.ちゃんが、『プロレスのリングを作って、マイカちゃんが歌ってる後ろで女性プロレスラーがガンガン戦ってるのどうですか?』って言ってきて。曲のデモを渡してあったんだけど、それを聴きながらキャットファイトの映像を観てたら『めっちゃ合う!』となったらしい(笑)。おもしろそうだし、絶対やりたいと思った」
——部外者だったはずのマイカちゃんが戦いに参加しちゃうのがすごく好きです。
UMMMI.「SNSとかもそうですけど、みんな自分の内側に興味が向かっているように見える。でもそうじゃなくて外の世界にも踏み込め! という感じです。スカイダイビングって飛ぶじゃないですか。身ひとつでガクガクになる。なのでマイカちゃんがリングに登っていくシーンは、身ひとつで世界にコミットしようとする儀式なんです」
マイカ「いじけた人の話なんだよね。自分で自分を小さい部屋の中に閉じ込めているけど、それが外に飛び出すという。パッと観た人にどこまで伝わっているかわからないし、それでいいんだけど、思っていることを具現化できたのは面白かったです」
——あのMVが音楽と映像のパーフェクトな融合をしているのは、さっきのファットリップの話のように根底にお互いが通じるものがあるからかなと。
マイカ「撮影の前にごはんを食べて、その時に色々生い立ちの話とかしたんです。同じくらいネガティヴが根底にある感じとか、そうだよねと頷ける部分がたくさんあって」
UMMMI.「私もあの時に話したのが大きいです。モノを作るときにはなるべく相手のことを全部知って、仕事だけじゃなく、外側も内側も知ると作るものに反映できるなと思っていて。話してみたら、私がイメージしてたマイカちゃんが良い意味でそのままで、なんて言うか、こうであってほしかったマイカちゃんだった。それが大きい」
マイカ「意外じゃなくて、やっぱりそうかって感じだった?」
UMMMI.「うん。デモを送ってもらった後にマイカちゃんのことを色々ちゃんと調べたんだけど、家に籠って自分で作ってるスタイルも、作ってる音楽も、家の写真とか見てても、日本でもなければ海外でもない、どこか都市から離れた場所でモノを作っている感じがして。でも実際は東京にいるという、そのバランス感が珍しい。東京っぽい人も郊外っぽい人も、海外っぽい人もいるけど、そこの中間はマイカちゃんならではだと思った」
マイカ「だから何処にも属せないというのはある。でも属したいわけではないからそのままやってるという。ああ、でもそれは自分ではわからなかったかも」
——属していないし属せないというのは、トレンドなどの広い同調よりも、個の体験や主観を重視し、オリジナルな作品を作ろうとしたら当然かもしれない。
マイカ「移り変わるトレンドは儚くて弱いイメージがあるんですよね。そういうものではなく、エバーグリーンでずっと残るものを作りたい。映像や音楽には個人的なものを反映できるからこそ、それができると思っているんです」
UMMMI.「私も移り変わって行くものにそこまで興味がなくて、千年先まで残るものが私にとっての物語であり作品なんです。物語を作りたいから、映像やアートという手法をとっている。でも社会的な動きも内側に向かっていってる気がします。90年代はグラフィックデザイナーにとして自分を表現する若い世代が多くて、それが少しあとの世代だとファッションデザイナーになり、いまは写真が圧倒的に多いのかなと思うんですけど、デザインという社会に消費されるものとしてそこに存在していたメディアから、写真や映像、音楽というもっとプライベートに近いもので表現する流れになっているのは興味深い」
——確かに。
UMMMI.「私もモノを作っていくうえでパーソナルはすごく重要なんですけど、自分自身の気持ちとか表現はあまり内側には向かってなくて、むしろ自分の内側の問題をもっと社会的問題と結びつけてみたりということに興味があって。そのためには、自己の内側に向かっている人たちの存在も必要になってくるんだと思います」
——内側に向かう人の視点を借りて、みんなに届ける。そのふたつの視点を持っているということですね。
UMMMI.「そうですね」