NYのクラブシーンにおける最重要人物として知られるKim Ann Foxmanは、NYでNu Discosシーンの先駆けとなった伝説のグループHercules and Love Affairのヴォーカリストとして知られ、ハウスのDJ/プロデュ—サーとして自身のレーベルを立ち上げるほか、GucciやDior Homme、Prada、Addidasなど数々のコラボレーションを果たす。東京のクラブシーンを代表するDJであり、アートディレクター・近藤麻由としても高い評価を得ているPUNKADELIXは、彼女の活動やスタイルに共感し、東京への招聘を熱望。昨年12月に渋谷のContactで開催されている人気パーティー”MOTORPOOL”で共演を果たした。そのふたりに、現在のクラブシーンから自身のあり方に至るまでを語ってもらった。
——来日は6年ぶりだそうですね。
PUNKADELIX「以前来た時はelevenだったよね。contactのスタッフや一緒にパーティしているメンバーとずっと呼びたいねと話していたから実現できて嬉しい。ここ3、4年NYに行けていないんだけど、今のシーンはどう?面白いクラブがあったら教えてほしいな」
KIM「かなり変わったよ。しばらくは動員が厳しい時期が続いていたし、人を集めるのが大変でちょっとフラストレーションもあった。素晴らしいDJがたくさんいたんだけど、ダンスミュージックがあまり流行っていなかったんだよね。今は爆発的に盛り上がっていて、クラブも混んでいるし、倉庫でやっている不法のパーティーもたくさんある。流行ってるぶん、とにかくクラブに行きたいだけのいろんな人も来ていたりするから、いいヴァイブスを得るのは難しいときもあるかもしれないけど、クラブシーン自体はとても活気があっていい感じ。私はブルックリンのグッド・ルームというところでレジデンシーをやっているんだけど、楽しいしリラックスできる場所だよ。ローカルの人たちや他のDJたちが自然と集まっていて、ファンシーなクラブにしようとしているわけでもないし、みんなが同じレベルで楽しめて居心地がいいんだよね」
PUNKADELIX「同じものを共有できるかどうかはとても大切だと思う。東京もそうだけど、観光地のようになってしまうと音に集中しない人も多くなって共有するものが分散されてしまう。エンターテインメントという要素もクラブの一つのあり方なんだろうけど。東京も小さくてシンプルな箱に音が好きな人たちが集まっていたりするし、どこの都市でも一緒なんだね。でもNYが盛り上がってると聞いてすごく嬉しい」
KIM「ようやく自分の住む街でプレイできる(笑)。NYはポップカルチャーやメインストリームがとても強くて、ダンスミュージックに火がつくのは時間がかかった。ロックやポップはとても人気があって、ハウスも小さなシーンが根強く存在したけれど、どちらかというとBODY & SOULのシーンとか、THE LOFTのデヴィッド・マンキューソのような感じ。でも今ではNYに強いアンダーグラウンドのテクノシーンがある。とても人気があって、すごくフレッシュなシーンなんだ」
PUNKADELIX「NYにテクノの新しいシーンがあるのは、端から見ててもわかる。面白いレーベルもいっぱい出てきているよね」
KIM「うん、ただ、今のテクノシーンの若い子たちは、『ここで流れる音楽は全てテクノであるべき。ハウスはダメ!』という姿勢なんだよね。私はいつでもなんでもプレイしてきたし、テクノもハウスも大好き。ひとつのジャンルに縛られないDJセットが好きなんだ。ハマるのは素晴らしいことだけど、彼らももっとオープンな姿勢でいたほうがいいんじゃないかなーーって言えるのも、もしかしたら私が年齢を重ねて、そういう考え方を乗り越えただけなのかもしれないけどね。自分も『歌詞のある曲は好きじゃない、レイヴだけが好き』とか言っていた時期があったもん(笑)」
PUNKADELIX「いろんなカルチャー、ジェネレーション、セクシュアリティの人がいて、それでいてアンダーグラウンドでカッコいい音がかかっているというのが一番理想とするクラブの形だよね。私もNYのハウスやシカゴハウスと同時にヨーロッパのアヴァンギャルドなテクノやエレクトロニカのシーンからもかなり影響を受けていて。だから自分の中でもそのあたりのジャンル分けがはっきりしていないの。東京も今はどちらかというとテクノが盛り上がっているけど、確かに同じようにちょっと偏りすぎているなと思う時もある」
KIM「私にとっては、サンフランシスコでダンスミュージックにはまったのが良かったと思う。サンフランシスコで遊んでいたころは、すごく良いシーンがあった。私がハマっていたDJたちはいろんなジャンルをプレイしていたから、私の耳もそれに慣れていたわけ。だからディープハウスだけしかプレイしないDJだと、すごく退屈してしまう。それが良くないとは言わないけど、私にはあまり刺激的ではない」