——そう考えるようになったきっかけは?
永瀬「去年、10年ぶりにサーフィンを再開したんです。新月で波が荒れていて、サーファーも誰もいなかったんですが、私のトレーナーは大丈夫だから行こうと。怖いと思いながらもやったら、洗濯機の中にいるみたいにグルグルに脳みそをシェイクされて。最初はもがいていたんですが、それではいつまでたっても海の上にあがれない。逆らわず、波にのると浮かぶことができる。その体験に、細胞レベルの強い影響を受けました。やってきた波に自分がどれだけ軽く力を抜いて抵抗なく乗れるか。そして潮の目を読めるか。プロのサーファーは、波の裏まで見えるけど、初心者の私にはわからない。でもずっとやっていたら潮の波の目が見えると言われて。そのふたつは全てに通じること。その時にすべてが動き、そこから1年かけて自分を軽くすることに専念していました。例えば人と『会わなくてはいけない』では会わないようにし、『会いたい』で会う。テレビなども観ず、余計な沈殿物を溜めないで純粋に作品と向き合う。そうやって野生、自然の感覚を取り戻していたんです」
——すごくおもしろいです。ちょうど去年から今年にかけて時代の波が動き、こうしておけばいいという数字的な定石が通じなくなってきていると感じていて。つまり感覚であったり、自分で考えて動いてきた人が強くなる。もちろん定石で通じるところも変わらずあるけれど、玉石混淆の時代が終わり、進む人と停滞する人の二極化が進んでいる気がしています。
永瀬「変な言い方に聞こえるかもしれないけど、私は受容体であるという意識があって。写真集を作るとき、最初からなにを撮ろうと決めるのではなく、レンズを追っかけているうちに撮れてたものを見て後で答え合わせをすることが多いんですね。組み立てていくときにようやくなぜ撮っていたのかがわかる。受容体として、時代や物事のかすかな波動を感じて形にしているというか。『Water Tower』のときも自分がなぜこんなに給水塔を撮るのかわからず撮っていて。そしたら震災が起きて、人間にとって一番必要なのは水だし、給水塔のタワーはモニュメントだったのかと気付いた。大木の下に長老がいて、なにか困ったことがあったらそこに行くというのは、どの時代にもどの国にもあったことで、そういうことで人間は安心を得ていた。それは父性のようなもので、その父性がなくなってきているなとも思っていた時期でした。
自分のそういうもの作りのあり方が、一時期時代と合わないのかなぁと思ってたりもしたのですが、私もいままさに波が動いていると思います。この波に乗るために1年間削いで、研ぎすましてきたんだなと。声をかけていただくお仕事でも、こんなところで見ていてくれた方がいるんだと思う場面があって、実際にもう始まっているなと実感しています。去年個展を二回もやったのも、いま動くべきだと思ったからです。これからどう波が動くのかは見えないけれど、サーフィンと同じで、身軽にしてタイミングを見て委ねたい。タフに練習したので、いまは身柄ひとつで生きていける自信があります。これまで技術や経験という土台作りに頑張りすぎてきたので、それをこの1年で軽くして、感覚を強めた。土台があるうえでの自由はすごく強いと思うんです。これからなにが起きるか想像つかないけど、楽しめる自信があるので、いますごくワクワクしています」
永瀬沙世
アーティスト、写真家。ヨモギブックス主催。現在まで8冊の写真集を制作。『Asphalt & Chalk』(2011年)と『PINK LEMONADE』(2013年)はパリを拠点とするストックホルムの「LIBRARYMAN」社から出版された。2016年夏には写真集/個展「SPRITE(スプライト)」を開催。2017年9月に「CUT-OUT」をGALLERY360°で開催。今年、NYのSOHOで個展開催予定。
http://www.nagasesayo.com
interview & edit Ryoko Kuwahara
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