女王蜂が自身から沸き上がるオリジナルの音楽を奏でるバンドであることは間違いのない事実だけれど、ゆえに言語が通じないかのような孤高の存在として認識されていたこともまた事実。しかし獄門島一家や“売旬”でのデュエット、様々なミュージシャンを招いての対バン企画「蜜蜂ナイト」を経ての最新作『Q』は、この2年間の人と交わる経験を見事に昇華し、凶暴なほどのアイデンティティと誰しもに刺さるサウンドを融合させたありえないバランスで成り立つ最高傑作だ。このアルバムの完成を祝し、宇宙をモチーフにスペシャルシュートを敢行。アヴちゃんの中に広がる音楽という名の宇宙は、とても美しい。
——今作は遂に里に下りてきたという印象でした。威力はそのままに人に通じさせる方法を覚えたというか。
アヴちゃん「うーん、真逆かな。今回初めてジャケから音から自分の範疇を出たような気がしている。”Q”というのは自分の中の虎の子=少年性なんやけど、女王蜂を始めるまででストップさせていた自分。これまでマレフィセントとして薔薇園アヴが戦っていたと思うんやけど、この眠り姫が起きて、暴れ出して、実は一番強かったというね。今回はその子が曲を書きました」
——そうなんですね。眠り姫が起きるきっかけとなったのは?
アヴちゃん「ある日、“Q”という曲ができて。すごく不思議な出てき方で、最初にあそこで描かれている情景と『台所からは饐えた匂い』という歌詞だけがバキーンと入ってきた。男の子のライヴを観てるとよくそうなるようになって、あの団地や夕焼けの情景はなんなんやろうなと思ってたんだけど、ある日の夕方、出そうと思っていたアルバムのプリプロが終わった帰り途に全部が繋がって、一気に“Q”という曲ができた。『これを出さないとあかん。歌わなあかんことはこれだ』って。かつ、この曲をサブカルだとかメンヘラだとかそういう言葉を使わせずに相手の懐に届くようにするにはどうしたらいいんだろうと考えて、この曲をセンターに置いて、守るようにアルバムを作ったのね」
——ほぼ出来上がっていたアルバムを覆すほどの衝動が襲ったと。
アヴちゃん「そう。アバターとまでは言わないけど、明らかにコントロール不可能な自分がいて、それが少年で——。『奇麗』で女の業をやり尽くし、今回は“少年性”と向き合ったものになった。私は双六があがるように死にたいなと思っていて、全部の立場には立てないけど、全部の感情を知って死にたい。そのために避けては通れない部分だったと思う。私は逃げられないし、目を背けたくないから、そうやってずっと自分を定点観測している。よく“Q”は実体験なのかと聞かれるけど、そういうのはどうでもよくて、このすべての歌詞を枕に凄まじいマグマとドグマと責任を背負っていくという覚悟ができたことこそが全てやと思う。そのために、私はイスラム教の名前で仏教徒やのに誕生日がクリスマスというすごさで生まれたのかなって。ジェンダーについても、『LGBTとか違くない? Sつけてストレートと同列にしーや』とか思ってたけど、そういうのも面倒くさいし、私は陰陽一体になって、すごいバランスで成り立っているような人間だから、改めてそれを自覚して背負う覚悟ができました」
——「部屋の明かり全部消したって誤魔化せない」(“DANCE DANCE DANCE“)などの歌詞も、その覚悟があるからですよね。そしてみんなに響くポップさがあるのはものすごく強い。冒頭で言った「人に通じる」というのは、そういう強さゆえでもあると思って。あまりにダンサブルで、切ない歌詞も別にたいしたことない風に歌っちゃってるのが本当に素晴らしいです。
アヴちゃん「嬉しい。切なさを抱きしめたってことだよね。街に出たときの寂しさや切なさ、フワフワとしたものも全部の感情を描けた。深夜にも、始発の電車で聴いてほろっともなれるし、踊れるし、中性的とかじゃなく、皆の中にあるものを描けたという気がする。めちゃくちゃクラブに行って、遊んで、踊って、『ミラーボールがキレイ!』『いいなあ、この曲!』というのをどっぷりやれて、忘我できたのもよかったんやと思う。私がたくさん踊りに行って無意識に感じてたのは、その瞬間に誰といても切ないなあってこと。それがI FEEL LOVEかなって」
——うん、その抱きしめ方は今作を貫く特徴ですよね。
アヴちゃん「本当に、全曲悲しいんだけど踊れるよね。 “アウトロダクション”はね、逃走=上京で、ここではないどこかへというその気持ちを書かなきゃというので、スッと書けた曲。 “しゅらしゅしゅしゅ”は東京に住んで大変だなあって思ったことを閉じ込めたんだけど、不思議な旋律だから東京という限定もさせない曲で。“超・スリラ”はトレンディをテーマにしてて、深夜の高速ぶっ飛ばしたいねって感じ。免許もってないけどイエイイエイって(笑)。“金星”は声のアンサンブルで、DAOKOちゃんとの相性がすごくよくて。DAOKOちゃんは元々女王蜂のフロアで踊ってたような子なんだけど、私たちふたりがやる時にナイーヴな曲をやったら普通やん。だから雑貨屋でかかる曲じゃなくて、ドン・キホーテでバンバンかかる曲にしたかった。サンダルを履いてるギャルたちも『なんかこの曲アガるくね?』ってなんないとダメだから、ふたりでアッパーになろうと。ドンキをテーマにやりました(笑)。どの曲も歌詞もすごく気に入ってる」