やさしい守護者たち / affectionate guardians
2015
——そこまで俯瞰の目線に惹かれたのはなぜでしょう。
笠井「上空から第三者が見ているというのは、絵巻物にも繋がる目線なんです。西洋画は描かれている場面も含め、被写体と目線が伴っていて、鑑賞者と同じ高さになる。日本の絵は、机や床で見る文化だったからか、斜め上の俯瞰図が西洋よりもものすごく卓越しているんですね。昔の四大絵巻はそれこそ作者不明なんですけど、描いていた人たちは自分を何者と思って描いていたのかなと考えたりします。神様だと思って描いていたのか、もうちょっと気軽に鳥が人間を茶化したような目線だったのか。家の中の仕切りも屋根を外した感じで描いているのも、地上の人たちが地上にいる人物を描いたと思えない、客観的すぎる視点なんですよ。実際にそれがどういう意図だったのかはわからないけれど、あの構図が当たり前のように受け入れられているのがすごいと思うんです。一切パースがないので、絵の中で全部が平行で、手前も奥の人も同じぐらいの強さで見えるんですよね。誰がメインでもなく、全部平等に見えるというのも天からの目線っぽい。色も強さも平等に描かれているのが美しさにも繋がっていて、全部にピントが合ってるとも言えるし、逆に全部がぼやけて見えるとも言える。ピント合わせの西洋的な美術の勉強と全く逆のこの視点を、どうしても取り入れたかった」
——油絵で絵巻物の目線をミックスさせるというのはものすごくおもしろいですね。
笠井「こんなことをやっていることを異様にも思うんです。物語を絵画に置き換える必要が果たしてあるのか、絵画とはなんぞやとわからなくなるときもある。そのときに油絵にしてもマテリアルにしても制約がある中でいかに自由に表現をできるかを考えるとおもしろくなってくる。そしてそれが時代とマッチしているかは常に考えています。
例えば油絵は絵画組成ですごくアカデミックなところから学ばなきゃいけない部分もあって、一層目、二層目、三層目があるのが当たり前なんですけど、スピードがはやい現代には沿っていないのではないかと、あえて一層しか塗らない絵を描いてみたこともあります。いまはそうした技法ではなく物語に軸を置いていて、絵画は構図や色合い次第で道がたくさん開いてくるので、それが既存の物語をどう発展させていくかにトライしているところ。『竹取物語』から発展して、聖書を描いた西洋絵画や神話を題材にしたものも描いていますが、それも現代の日本にいる私ならではの視点を入れた、メタ的な表現にしたくて、手こずりながらも形にしていっているところです」
見知らぬ地 / unknown land
2015
夜明け前に / before dawn
2015
(c) the Artist, Courtesy Yuka Tsuruno Gallery
interview & edit Ryoko Kuwahara
笠井麻衣子
1983年、愛知県⽣生まれ、⾦沢美術⼯芸⼤学大学院修了。2008年『シェル美術賞 2008』準グランプリ受賞。主な展⽰に『アーツ・チャレンジ2010』(愛知芸術文化センター、愛知、2010年)、『第30回損保ジャパン美術財団選抜奨 励展』(損保ジャパン東郷⻘児美術館、2011年)、『シェル美術賞 アーティスト セレクション(SAS)』(新国立美術館、2012年)、『VOCA展2016 現代美術の展望 – 新しい平面の作家たち』(上野の森美術館 、東京、2016年)。コレクションにピゴッチ・コレクション、髙橋コレクション、昭和シェル石油株式会社など。
http://kasaimaiko.com
宇宙特集
『Voyage of Time : Life’s Journey』Sophokles Tasioulis Interview
https://www.neol.jp/culture/54182/
BO NINGEN Special Shoot & Interview
https://www.neol.jp/culture/55272/
画家・淺井裕介インタビュー
https://www.neol.jp/culture/55358/
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Avu-chan from Ziyoou-vachi『Q』Special Photo Shoot & Interview
https://www.neol.jp/culture/55298/
映像作家・山田健人(dutch_tokyo)インタビュー/Kento Yamada Interview
https://www.neol.jp/culture/55540/
写真家・永瀬沙世インタビュー
https://www.neol.jp/culture/55648/