夢から醒めた / awoken from a dream
2015
油絵という手法をとりながら、常に「物語」を織り込んだイメージを描く画家・笠井麻衣子。日常で目にした光景から想像するものから歩を進め、2015年の『竹取物語』を題材にした個展「おはなしのつづきのはなし」(Yuka Tsuruno Gallery)では、既存のストーリーを自身の中で更に膨らませて描くという試みをスタートした。日本における物語の始祖であり、月の子を描いた『竹取物語』を選んだ理由について、話を聞いた。
——笠井さんの作品は、「おはなしのつづきのはなし」以前から物語性がキーワードになっていますよね。最初はいろんな方のプライベート写真を見て、そこに自分が作ったストーリーを投影していたとか。
笠井「はい、物語のアプローチは大学を出たすぐくらいから始めました。人がいない景色を見て、その中で人物をどういう風にアクションをさせていくとおもしろいかを考えて描くという手法です」
——モチーフでは子ども、特に女の子が多い。なぜ少女で物語が進行させるのでしょう。
笠井「自分や兄弟の小さい頃の写真を見て描いていたのが原点なんですが、そこから進んでいっても大人や男の子をあまり描く気にならなかったんです。意志のしっかりした成人を描く肖像画などは、その人に対して思いを馳せることに限界があるというか……うまく言えないけど、この子が考えていることを知りたいと思えるような存在として、誰しもが自己投影したり、誰かを思い起こさせる依り代として少女が存在している。だから、すぐに感情がわかる表情を避けたくて顔を隠したりもしていて。そうすると見てくださった人から全く予期せぬ感想がもらえたりするのでおもしろいです。
あとは、やはり生命的なものに惹かれているからだと思います。未知のものを生み出すのは女性ですし、宿り方も宇宙的でファンタジー要素を強めている。そういう宿す力と無垢とのバランスのようなものに強く惹かれるんじゃないかな」
——なるほど。私には、初期の“Training”シリーズで描かれた少女たちは、強くあろうとする意志を持っているように見えたんです。それが人を超えた存在を描いた『竹取物語』の世界で飛翔するという作品に繋がるのは自然に思えました。
笠井「ああ、嬉しいです。2015年の展示まではすごくパーソナルなことを描いていたのでうまく伝えきれないことが多かった気がして。それが既存の物語を題材にすることで、ある種の共通認識を持つことができるので逆に表現の幅を広げられると思ったんです。
最初は『竹取物語』を詳しく知らなかったんですが、この頃から絵巻物に関心を持ち始めて、調べていると竹取物語の場面がよく出てくるんですね。それで興味を持って辿っていくと、日本最古の物語でこんなに多くの人に愛されているのに作者がわからないという謎めきにウワッとなって。多くのパロディが生まれているのも、作者不明だから物語を自由に自分の身に置き換えられるというのもあるし、物語自体も自由で、“自由”って人間の一番の強みじゃないですか。それを絵でも伝えたい。そのためには『竹取物語』しかないと思いました」
——静かなお姫様ではなくもっと動的な子たちが登場し、自然もたくさん入っていて、既存のイメージとは違うものでしたよね。あれは月に帰った後のおはなしですか?
笠井「タイトルが『おはなしのつづきのはなし』なので、その後と受けとってもいいですし、それも自由でいいと思うんです。『竹取物語』から発想を得ているけれど、それがわからないと言われても構わないというくらいの感じで描いていて。例えば、三連の大きな作品で、女の子たちが何人か並んで少し跳ねながら歩いているシーンがあるんですが、あれはメインになるストーリーの裏側にいる、本編では登場しない人たちを描いている。私にとって、あの女の子たちは宇宙人なんですよ。無邪気で、無垢な月の子。かぐや姫にあげるための綺麗な羽衣を持って、踊りながら竹やぶを歩くシーンがパッと思い浮かんで。それをどうしても斜め上から見た風景で描きたかった。あの展示は全部、俯瞰してる目線で描きたかったんです」
密かに、大胆に愛でる(光)/ admire secretly and boldly (Sunlight)
2015
密かに、大胆に愛でる(影) / admire secretly and boldly (Shadow)
2015
密かに、大胆に愛でる(風)/ admire secretly and boldly (wind)
2015