―最初の頃は自分の声に違和感があった?
サンファ「というよりも……自分の声だから、どうしてもダメなとこばかりが気になっちゃって。以前は自分のヴォーカルが不完全であることを認めたくなくて、ヴォーカルに関してあえて特別なことはしないというスタンスを取っていた時期もあったんだ。だけど、今は不完全さも含めて自分の声を受け入れられるようになった。もっと上手く歌えるはずだってことで、ヴォーカルに関しても色々意識するようになったよ。あまりにも気にしすぎて、逆に見ないようにしてしまうことがあるよね。“人生を生きるためには死を恐れてはいけない”って言うけど、それと同じで、自分の中の恐怖だとかダメな部分を受け入れられるようになったことで、初めて自分の声と向き合えるようになったんだ」
―3年前にリリースされた2枚目のEPの『Dual』は、まさにそうしたヴォーカルに対するアプローチの変化が感じられる作品ですよね。
サンファ「当時の自分や、当時の時間や空気が詰め込んであるドキュメントって意味では面白いと思うよ。作品として今聴いてもやっぱりいいなあと思うしね。あるいは、今の自分と比較して、当時の精神状態やプロダクションなどを含めて、あの頃の自分はこうだったなあって振り返るにはいい。ただ、当時はそれでうまくいったからって、あれをもう一度再現しようというのは得策ではないというか、前に進んで行く姿勢でないね」
―今回のデビュー・アルバム『プロセス』は、自身のどのような状態や過ごした時間が詰め込まれたドキュメントになったと思いますか。
サンファ「新しい作品を作るごとに、毎回、新境地に立つような気持ちではある。ただまあ、今回のアルバムに関して言えば……大人になることに伴う痛みというか、ただ何も考えずにお気楽に生きていられる時期が過ぎたということかな。初めて死というものを身近で意識するようになったり、自分自身や他人に対する責任であったり、思いやりを持つことであったり、介護のことであったりを考えた。人生で自分が今までに経験したことのない局面に差し掛かってきたんだ。母親がずっと体調を崩してたんだけど、実は癌で、しかも末期だったんだ……まあ、自分もそれなりに大人になって、それを理解して受け止められるだけの年齢にはなってたし……だから、まさにさっき言ったように、作っていた当時の心境がそのままドキュメントとして今回の作品に反映されているわけで。それは歌詞だけじゃなく、楽器の使い方1つからハーモニーやプロダクションに至るまで、アルバム全体を覆うムードとしてある」
―大変な制作過程だったんですね。
サンファ「そうだね……いろんな意味において、たしかにしんどい時期ではあったよ。ただ、それも人生の次のステージに進むために必要なプロセスだったというか。だから今回のアルバムは、自分の感情を分析して、理解して、受け入れるという意味で、ごく私的な自己分析でもあるんだ。政治的・社会的メッセージを打ち出すタイプの作品ではなくて、むしろアルバム制作を通して、自分の内側を見つめ直して感情を整理する作業をしていたんじゃないかな」