ーーすごくダイナミックなデュオだった。タイプは違うんだけどお互いを補っていてね
Best Friends Forever特集2弾。スマートフォンで全編を撮影したとして世界中の映画祭で大きな話題を呼んだ映画『タンジェリン』が、1月28日より全国公開される。舞台は犯罪が多発するLAの悪評高い地域。クリスマスイブの一日を通して、2人のトランスジェンダーの女性たちの友情や恋愛がリアルかつポップに描かれた。監督、脚本、撮影、編集、プロデュースまでもこなし、演技未経験だった主演の2人を見事に輝かせたのは、今作が監督5作目となるショーン・ベイカー。先日プロモーション来日した彼に、今作の誕生秘話を聞いた。
—日本でもアメリカの映画はたくさん公開されているのですが、今作で描かれているのは、多くの日本人が知らないアメリカの一面かもしれません。どうしてこの物語を伝えようと思ったのですか?
ショーン「僕は人生の大半をニューヨークで育って、2012年にロサンゼルスに引っ越したんだ。LAはものすごくデカい街で、ハリウッドのメインストリームの業界や、映画やテレビではあまり取り上げられていないコミュニティーや小さなミクロコスモスがたくさんあった。それで、やらない手はないな、と思った」
—なるほど。
ショーン「本当にすぐそこなんだよ。ドーナツ・タイムはスタジオから1ブロックしか離れていないんだ。車で通るだけで誰も知ろうとしないエリアなんて、不思議だなと思っていた。それで探求したくなったんだ。あそこは非公式なレッドライト地区(※売春の多い地区)のような場所で、ここ10年ほどはトランスジェンダーの売春婦が多い。きっとたくさんの物語があるはずだと思っていた。
そこでプロデューサーに電話して、『サンタモニカとハイランドの交差点』についての映画を作りたいと話した。文字通り、僕が言ったのはそれだけ。彼はすぐに理解してくれて、『わかった、完璧だね、許可する』と言われた。
そこから僕と共同ライターのクリス・バーゴッチはリサーチする必要があった。あのエリアについてよく知らなかったから、ただ適当に話を作るわけにはいかないからね。それでリサーチを始めたんだけど、驚くべきことがたくさんあったよ。マイヤとキキにも会えたしね。マイヤがみんなに紹介してくれたんだ」
—マイヤとはどのように出会ったのですか?
ショーン「彼女はドーナツ・タイムから1ブロックのところにある、LGBTセンターにいたんだ。僕らはストリートの女性や地域の住人に話しかけていたんだけど、警察やジャーナリストだと疑われて全く進まなかった。それで、LGBTセンターなら人に話しかけやすいと思ったんだ。すてきな中庭まであって、地域の困窮している若者をサポートしている場所だから、話せる人がいるだろうとわかっていた」
—そこにマイヤがいたわけですね。
ショーン「ああ、中庭の向こうにマイヤがいて、『すごい!なんて個性的なんだ!』と思った。それで近づいていって、『やあ、僕らは映画を制作するんだ。この地域や君の人生経験について知りたいんだけど』と話したんだ。すると彼女は、『わかった!いいよ!私は歌手なの。だから歌いたいわ!』って(笑)。『OK、ミュージカルじゃないけど、劇中で君が歌える方法を考えてみるよ』と伝えたよ」
—キキとの出会いは?
ショーン「僕らはマイヤとファーストフードの店で会うようになって、そこでの暮らしについて、いろんな話を聞いていたんだ。ある日、マイヤから『私の友だちに会ってほしいの。彼女は役者なのよ』と言われた。それでキキがやって来たんだけど、実際には高校時代に演劇をやっていただけだったんだよね。でもみんなの間ではパフォーマーとして見なされていたんだ。その時にあの2人が一緒にいるのを初めて見たんだ。すごくダイナミックなデュオだった。タイプは違うんだけどお互いを補っていて、お互いの話にオチをつけたりしてね。可能性を感じて、もし彼女たちに演じることができたら、これで決まりだなと思ったんだ」
—彼女たちは普段からあんな感じなのですか?
ショーン「ウィットやワクワク感とか、ユーモアやエネルギーといった意味では、あのままだよ。でもキキはシンディには似ていない。決して凶暴ではないよ(笑)。彼女は仲間内以外ではシャイで内気なんだ」
—ということは、演技が上手なんですね。
ショーン「そうだね。彼女はすばやくオンとオフを使い分けることができるんだ。2人に会った時は、みんなから聞いた話をもとにプロットを考えている段階だった。彼女たちには最初から、すべてのステージにおいて承認してほしいと伝えたよ。それはとても重要なことだった。僕らはあの世界の外に生きる、シスジェンダーの白人男性だからね。すべての映画でやってきたことだけど、特に今作では重要だった。トランスジェンダーのセックスワーカーに敬意を払って、ちゃんと彼女たちの意見を取り入れて語られた物語は少なかったから。
それで彼女たちに7ページのトリートメントを見せたら、とても気に入ってくれたんだ。いくつかコメントはあったけど、制作過程で調整して、ワークショップも開いた。ポスプロの段階でも、少なくともキキは編集室に来て意見を出してくれたり、とても協力的だった」