――役作りにはどのくらいの時間をかけましたか?
オマール「ロシュディ・ゼム監督との話し合いとジェラール・ノワリエルの著書を読んだり、当時の社会や政治情勢を理解するためのリサーチをしたり。サーカスも未知の領域だった。幸運なことに、フティットを演じたジェームス・ティエレは、サーカスの世界を知り尽くしていた。僕らは4週間にわたってリハーサルをした。僕らはどうやら道化師の末裔だ。ジェームスは僕に道化師のテクニック、リズム、身体の動きなどの特徴を教えてくれた。普段と違う身体の使い方を身につけなければならなかった。ジェームスがどんな風に動くか見せてくれたけど、それは彼の道化師の動きだ。僕は自分なりの道化師にならないといけなかった。いろいろ探求して、たくさん練習した。すごく大変だったけど、準備をするのは好きなんだ。ちゃんと準備をすることで、自分の技術のなさを補えるし、より自由に演技できるようになる。現場に入ると、ちゃんと役に入り込むまで数日かかっちゃうんだけどね。話し合いとシーンを重ねていくうちに、やっと自分の考えと監督の考えのいいバランスを見つけることができるんだ」
――ジェームス・ティエレはショービジネス出身ですが、どうやって共通の土台を見つけましたか?
オマール「簡単ではなかったね。僕らにはそれぞれの個性、それぞれの世界観があった。お互いをよく知って、役同士の間に存在したのと同じような一体感を見つける必要があった。僕はコメディアンのコンビ出身だから、パートナーとの仕事の仕方は分かってる。でもジェームスは違う。僕らは言い争いをして、ふたりとも男だから、掴み合いのケンカになった。激しい戦いだったけど、意味があったよ。調子のいい時も疲れている時も、機嫌のいい時も悪い時も一緒にいることで一体感が生まれる。その経験を撮影現場で生かして、僕らは本物のコンビになった。ジェームスはすばらしい相手だったよ。自信に溢れている時もあれば、不安に陥る時もある。そこが彼の魅力さ。それに、自分の仕事に情熱を持っている。僕はシーンの合間には、静かに座って考えたい。でも、彼にはそれができないんだ。彼はすごくアクティブで、常に新しいアイデアを探す。ちょっと頭がおかしいのさ。笑っちゃうね。でも、僕らのパフォーマンスがとても詩的なものになっているとしたら、それは彼のインスピレーションのおかげだ。彼と一緒に仕事をして、とても勉強になったよ」
――ジェームスから何を学びましたか?
オマール「僕を成長させてくれた。パートナーが優れていれば優れているほど、自分も良くなる。テニスみたいなものさ。相手がいいショットを打ってきたら、うまく打ち返すために、相手のレベルまで自分を高めないといけない。ジェームスは限界を押しのけていくタイプだ。僕もそうさ。その程度は違うけど。彼の探求心が、僕を自分では辿りつけなかっただろう場所まで連れて行ってくれた。彼のおかげだよ。彼はリハーサルが好きで、僕は好きじゃない。いつもリハーサルは気楽にやってしまう。本番の撮影まで新鮮さを残しておきたいからね。でも、彼を真似ることで、演技が機械的になることなく、リハーサルを重ねることができると知ったよ」
――フティットとショコラの関係性をどのように捉えていますか?
オマール「僕とフレッド(・テスト。オマール・シーとコンビ『オマール・エ・フレッド』を組んでいる)のような関係さ。お互い自分の世界を持ってる。コンビの関係は少し恋愛に似ているね。ひと目ぼれから始まる。自分に合う相手に出会って、その相手と物事を共有して成長していく。フレッドと僕もそうだ。僕とジェームスも、より凝縮された時間の中で、そういう関係になった。フティットとショコラの関係を想像するために、自分の経験を生かした。ステージ上では関係がうまくいっても、実生活ではもっと複雑だ。ふたりは別々の世界を持ってるのだから。フティットとショコラは、社会の中の立ち位置が違う。ふたりは共に成長したけど、友情を続けるには対等の立場にいないといけない。フティットはショコラを対等に見ていたが、残念ながら、いったんサーカスの世界を出ると、そうはいかなかった。