―今回のアルバムでは、愛の始まりから終わりまでが、その光と影の両方を捉えるかたちで描かれています。
オリヴァー「今作は、今まで以上に喜びについて歌ってるのかもしれない。だからって、失恋を歌った曲がないわけじゃなくて、君がさっき言ったように光と闇の両方について触れていて、そこがいいと思ってる。この中で描かれている喜びにしても、何も無理しているわけじゃないというか、『つらくても元気出して頑張ろう』みたいな(笑)、とってつけたみたいなものじゃないし。むしろ、自然な感情から生まれたものであって……。そもそも、失恋ソングを聴いて必ずしも悲しい気持ちになるとは限らないというか、号泣することが一番の目的ではないからね。むしろ、悲しみや失恋について歌った曲を聴くことで、自分自身の中にある悲しみに気づいて、それを理解して肯定してあげることで、共感が生まれて癒されることだってあると思うんだ。そこが今回のアルバムのいいところだと思うよ。喜びをたたえつつも、そればかりではない……悲しみも同時に存在してるんだよ」
ジェイミー「今回、曲順を決めるのになかなか苦労したんだ。今はこの順以外には考えられないっていう気持ちだけど。そもそも、今回は曲数が多かったんで、20曲くらいある中から、本格的にレコーディングの段階に進める曲を選び出さなくちゃいけなくて、その作業からして相当辛かった。どの曲もきちんとした形にして、僕達3人だけの世界から外の世界に送り出してあげたかったしね。だから、3人でさんざん話し合ったし、まわりの人達からの意見も参考して、なんとか方向づけをしようと。今回のアルバムの形に至るまで、曲も順番も取っ替え引っ替えしながら、10パターンくらいの形を試してたんだよ」
―ちなみに、オリヴァーとロミーがふたりで歌うナンバーでは、互いに男性目線、女性目線を意識して歌っているんですか? というのも、聴いていると、その境界線が揺らいでいくような感覚にとらわれる瞬間があります。
オリヴァー「そうだね。対話形式で、ふたりの両方の視点から語られているんだけど、どちらが男性側で女性側なのかが限定されていないところがいいと思う。そのあたりは自分達でも意識している点のひとつで、例えば歌詞の中で彼女、彼という言い方はしていないし、時勢も特定していないから、誰でも自由に解釈できるんだ。今回、対話形式みたいな歌詞が増えてるのは、僕とロミーが実際に面と向かって、語り合いながら書いてる歌詞が多いからなんだ。以前はもっとコラージュ的な作り方をしていたけど、今回は語り合いながら、それをもとに作っている。“On Hold”なんかまさにそういう曲で、同じひとつのストーリーを両方の視点から描いてるんだ」
―“Lips”では、デイヴィッド・ラングの“Just (after Song of Songs)”がサンプリングされていますが、あの曲を選んだ理由ってあるんですか?
ジェイミー「もともとあの曲が好きで、空いてるスペースが合ったんで入れてみたんだけど、あんな曲が書けたらいいなって思いが自分の中にあったんだろうね。色々試しているときに、ある朝、あの曲をサンプリングしてみようって思いついてやってみたら、すごくいい感じになった。深く考えてたわけじゃなくて、本当に思いつきからなんだよ。それをスタジオに持って行って聴かせたら、ふたりともこれに歌詞を書いてみようって言ってくれて、すごく自然にああいう形になっていったんだ」
―その“Just (after Song of Songs)”ってそもそも、旧約聖書だかにある「Song of Songs (Song of Solomons)」という文章が引用された曲なんだそうですね。
ジェイミー「いや、全然知らなかったよ。へえー……『グランドフィナーレ』って映画を観たんだけど、その中でこの曲が使われてて、歌詞がすごくいいなと思って」
―つまり、あの曲の中の「You」とは、永遠なる者、つまり神のことで、神への情熱を表現する曲だと。そういった背景を意識したうえでサンプリングされたのかなって?
オリヴァー「すごい話だな(笑)」
ジェイミー「いや、全然そんなの知らなかった。っていうか、そうなんだ、すごいね(笑)」
オリヴァー「うわ、なんかもう(笑)、ビックリっていうか」
―余計なこと訊いちゃいましたね(笑)。ところで、先日、“On Hold”のミュージック・ビデオを公開する際に、アメリカのファンに向けたメッセージを添えていましたね。
ジェイミー「今、色んな意味でアメリカが大変な状況にあるから、あのビデオ・メッセージは、それでも僕達はアメリカのこんなところが好きなんだよってことを伝えたかったんだ。僕たちはアメリカでかなりの時間を過ごしてるし、実際、今回のアルバムもアメリカでレコーディングしてるしね。それを伝えたかったんだよ。アメリカの良い面というか、まだまだいいところがたくさんあるよって。だからって、今まさに現実で起きている問題を無視することはできないし……だから、自分達がああいうビデオ・メッセージを作った背景について、何かしら伝えなくちゃいけないって気持ちだったんだ」
―それはやっぱり、「Bregret」を経験したイギリス国民として、アメリカの状況も他人事ではない、という思いがあったからなのでしょうか?
オリヴァー「そうだね……うん、そうなんだと思うよ。やっぱり、今世の中が厳しい状況にあるってことはどうしたって否定できないからね(笑)。ただ自分達と音楽との関係性でいうと、とくに音楽を作るっていうことになると、政治と音楽は完全に切り離して考えているし……むしろ自分達が音楽に求めてるものであったり、あるいは自分達の音楽を通して提供したいのは、現実との繋がりよりも逃避の部分だったりする。もちろん、政治をうまく音楽に取り入れて社会的なメッセージを発してる人達はいるし、心から素晴らしいと思うけど、僕達と音楽との関係性はそれとはまた少し違うというか……自分が今現在抱えている諸々の状況から少しでも解放されるための、まあ、言ってみたら、避難場所だよね(笑)。自分が心から安らげる安心できる場所。自分のまわりで起きている現実から一切切り離された完全に守られた状況に身を委ねて、すっかり気持ちが落ち着いた頃に、それまで気づかなかったけど、自分は今も誰かとこうして繋がっているんだってことに気づいてもらえたなら……それが自分達にとって最高の音楽との関わり方かもしれない」
photo Alasdair McLellan
interview & text Junnosuke Amai
edit & direction Ryoko Kuwahara
The xx
『I See You』
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