―その「自信」というところとも繋がってくる話だと思いますが、今回のニュー・アルバムの『I See You』は極端な言い方をすると、静から動へ、モノローグからダイアローグへというふうに大きな飛躍を感じさせるアルバムだと思います。
ジェイミー「今回、何も決めずに……自分達が何をしたいのかも、どういうサウンドにしたいのかもはっきりわからなかったけど、ただ今までとはまったく違う経験をしてみたいという気持ちがあって。それはレコーディングに関しても同じで、それで地元からできるだけ離れたところで曲を作ってみようってことで、今まで行ったところのない土地に行って、3人で一緒に生活した。そうやって長い時間を一緒に過ごすことで、お互いのことをより深く知り合ったり、お互いや自分自身について今までとは違う新しい発見があったりしてね。それまではスタジオに篭って、緊張感のあるピリピリとした空気の中でレコーディングするのに馴れてたから、それはそれで良い経験にはなったけど、逆に難しい面もあって、作品との距離があまりにも近くなりすぎて、かえって難しいと感じることもあったよ」
―「新しい発見」?
ジェイミー「どうだろう、新しい何かを発見したというよりも、むしろ元々自分達が持っていた性質に気づいたって感じじゃないかな。ステージの上でこんなに楽しめる自分がいるんだってこととか……前はステージで何かやるにしても、頭でっかちになってあれこれ気にしてたりしてたけど、今は余計なことを考えずに楽しめるようになった」
―今回のアルバムは、より自分達の本質、本来の姿に近い感じですか?
ジェイミー「というか、単純に大人になったんだろうね。それに年齢的なことも絶対にあると思うよ。この仕事を始めたときはまだ10代だったのが、今は30代に近くになったんだから」
オリヴァー「失礼な(笑)、僕はいまだに18歳のままだからね(笑)。気持ちの上では、永遠の18歳だよ(笑)」
―(笑)資料によれば、今回のアルバムの制作に臨むうえで大きなモチヴェーションのひとつになったのが、オリヴァーとロミーも参加した去年のジェイミーのソロ・レコードだったそうですね。
オリヴァー「一番感動したのは、アルバムよりもむしろステージのほうだよね。観客としてステージで演奏するジェイミーの姿を初めて観たんだよ。普段はジェイミーがステージで演奏してる姿を目にする機会なんてないからさ。ステージでは観客側を向いて演奏してるし、たまにジェイミーの様子をチラッと伺うくらいで(笑)。ただ、実際、観客としてステージの上で演奏する姿を観て、すごく不思議だったし、ものすごく感動して……しかも、ジェイミーってあんなに踊れる人だったんだって意外な発見もあったりしてね(笑)。ステージで堂々と演奏してるジェイミーの姿を観て、こんなに自信に満ち溢れた人だったんだって。それに感動して、僕もロミーも、その自信に満ちたジェイミーの姿をもう一度観てみたい、僕が観客席から眺めていたあのジェイミーと一緒のステージに立ちたいって気持ちになっていったんじゃないかな。あの心から幸せそうで輝いている、まさに僕達2人にとっての自慢のジェイミーと一緒にステージに立ちたいという気持ちと同時に、僕もロミーも曲を書きたい衝動に駆られたし、今の自分達にできる最高の曲を書いて、ジェイミーと一緒のステージに立つんだっていう気持ち……そこに今回ものすごくインスパイアされたよね」
―逆にジェイミーに訊きたいんですけど、あの『In Colour』というアルバム自体、あるいはあのアルバムを作った経験は、今回のニュー・アルバムの制作にどういうふうに反映されていると思いますか?
ジェイミー「個人的には、あのアルバムでツアーをした経験から学んだことが大きかったかな。それに技術的なことについても、ソングライティングについても色々学ぶことがあった。ソロ・アルバムを作ることで、それまでとは違う曲作りの方法を経験して、さっきも言ったように自分自身が前よりも少し成長したこともあったしね。それと今回のアルバムに関して言うなら、目標を設定しないで曲作りができたのがよかった。自分がソロを作ったときと同じように、ライヴで曲をどう再現するかとか意識しないで曲を作ることができて……そういう意味では、今まで以上に自由だったのかもしれない。単純に、何年もスタジオで一緒にレコーディングする機会がなかったこともあるし、また3人で一緒にスタジオに入って曲が作れるというだけでもすごく嬉しかった。今言ったすべての要素が折り重なって、今回のアルバムの音に影響してるんだろうね。スタジオに入って、ただ今のこの瞬間を楽しもうという。実際、作ってて本当に楽しかったしね」
―たとえば“I Dare You”みたいな高揚感のある曲って、これまでのThe xxにはなかったタイプの曲ですよね。
オリヴァー「そうだよね、本当に“I Dare You”はこれまで作った中で最高にポップな曲だと思う。3人とも大のポップ好きなんだけど、それまでポップ・ソングをやることに多少照れ臭さがあったんだよね(笑)。あの曲はアイスランドのレイキャビクに滞在中に書いてたんだけど、曲作りの合間にもラジオでずっと音楽を聴いてて、まさに今どきのヒット曲を大量に聴いてたんだけど、もともとポップ好きってこともあって、それで自然にああいう曲が生まれたんだろうね。これまでだったら、ポップ・ミュージックをやることに気恥ずかしさみたいなものがあったけど、今回それがなくなったんだよ」
―ジェイミーはどうですか?
ジェイミー「いや……もちろん、各セッションごとに自分なりにこういう形に持っていきたいっていうアイディアはあったんだけど、なかなか自分の思い通りにはいかないというか、あくまでも3人の共同作業で作ってるわけだから。曲も最初に自分が思い描いていた形とはどんどん変化していくし……ただ、あくまでも自然に変化していったもので、そのほうが曲にとっても一番いいと思ってる。あらかじめ決まった型に押し込むよりも、その場で一番いいと思ったアイディアを自由に出していくほうがうまくいくから」
―ちなみに、今回3人で共同作業していく中で一番変化した曲っていうと何になりましたか?
オリヴァー「1曲につき20パターンくらい違うヴァージョンがあるからなあ……しいて言うなら、“A Violent Noise”あたりかな」
ジェイミー「うん、そうかもしれない」
オリヴァー「あの曲は、もともとは『In Colour』用に作ってた曲なんだよね。まだ『Coexist』のツアー中で、思いっきりジェイミー色が強いんだけど、僕とロミーとがギターとベースのヴァージョンを作ったりして。その後もさんざん色んなことをやってみて、もうどうにもならないかもっていうくらい色んなヴァージョンを試して、最終的にはあの形に落ち着いた。まあ、今回のアルバムの中に入ってるヴァージョンが、現時点で自分の中で一番しっくりくる形にはなってるけどね」
―先ほど「成長」や「大人」という話が出ましたが、そうした変化は今回の歌詞の部分にも影響していますか?
ジェイミー「歌詞に関しては、自分達が歌っていたことを実際に経験するようになったことが大きかっただろうね。ファーストを作った頃は、それこそまだ10代だったし、その多くがラヴソングで、もちろんパーソナルな内容なんだけど、実体験をもとにしているというよりは、自分が頭の中で想像したこととか、こうであったらいいなという理想をもとにして書いている部分もあって。あるいは、自分じゃなくて、まわりの人達の経験をもとにしていたりね。その意味で言うと、『Coexist』はファーストよりも自分達の実体験が反映されてるんだろうね。で、今回のアルバムではそのさらに先を行ってるというか、歌詞を書くことで自分自身が癒されていくような、セラピー的な感覚すらあって……曲を書くことで、それまで自分自身が経験したことや、これまで生きてきた人生を、自分なりに整理してるんだろうな。そういう意味では、これまでの歌詞とは、そもそもの出所が違っているような気がする」