安定とは、私にとって不健康そのもの
————いま、“破壊”問いう言葉が出ましたが、既存の概念を壊すためにはとてつもない意志や勇気が必要だと思います。それを打ち破るにあたって恐怖を感じますか?
レフン「もちろん恐怖は感じるよ。誰だって安心を好むし、安心できる場所に留まっていたいと願うものだから。けれど、ことクリエイティビティに関して言えば、“安心”は目指すべき場所の真逆に位置するものだと思う。結果、これはあくまで私の考え方に過ぎないが、安心、安定というものは不健康そのものと言えるだろうね」
————どうやってそれほどの表現に対する強靭な意志を獲得できたのでしょうか。幼い頃からご両親にそのように教えられたとか、学校で学んだことが実ったとか、才能を実らせた背景があるのでしょうか?
レフン「私の人生?そんなの面白くもなんともない、フツーの人生さ。デンマークで生まれて8歳の時にニューヨークに移り、両親もフツーだった。もちろんトラウマ的な出来事や事件に見舞われたこともない。だったらどうしてこんなになったのかと思われるかもしれないけれど、それはこっちが聞きたいくらいだよ(笑)。
ただ、昔から『普通に生きて何が楽しいんだ?』と自分に問いかけるタイプの性格ではあったな。それにディスレクシア(失読症)を患ってもいた。そう聞くと日常生活における負の側面にばかり目が行くかもしれないが、逆にディスレクシアの人は脳の働きが一般の人と異なるそうで、ある種の制約が生じる一方、ある部分に関してはとてもスマートになるという見解もあるみたいだよ。そうやって脳内の機能を補完しているんだろうね。そう知ってから『これは一つの才能かも』と考えるようになった。脳内でいかなる変異が起ころうとも、それをそのまま資質として肯定的に受け止めるようになったんだ」