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藤代冥砂「新月譚 ヒーリング放浪記」#36 座禅

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 では、その座禅についてノウハウ的に語っていきたいと思う。
 まず場所である。慣れてしまえば自室でも良いのだろうが、まずは禅寺での座禅会に出席することとお勧めする。
 根本的なことだが、仏教のお寺に行けば、どの宗派でも座禅会をやっているわけではない。禅宗のお寺に行かなくてはいけない。主な宗派として、曹洞宗、臨済宗、黄檗宗などがある。浄土宗、浄土真宗、真言宗、日蓮宗、などは有名だが禅宗ではないので、座禅会はやっていない。瞑想会はやっている所もあるが、座禅とは言わないはずだ。近くの禅宗を探して、参加すると良いと思う。大抵は日曜にやっていることが多い。早朝からの場合も多いので、住所近くの禅寺が適していると思う。


 自分がよく通っていたのは鎌倉の円覚寺で、暁天座禅会に時々参加していた。夜明けの頃に行われる会で、夜明けの闇の中で始まり、夜明け後の朝日で終わる気持ちの良い会だった。半ばの好奇心と、半ばの信仰心を持ち合わせて通っていたと思う。
 体調をコントロールすることにはある適度の自信がついた頃で、では心の状態をコントロールするにはどうしたらよいのだろう、と興味を募らせていたのだ。
 最初は少し緊張していたはずだ。もそもそと未明の境内を歩き、聞いたお堂へとぽつりぽつりと集い始めた他の参加者と歩き進み、見よう見真似で座布団に座り形を整えると、約一時間ほどの座禅の時間となった。
 座禅の説明があったかどうかは覚えていない。手馴れた手つきで先輩方が戸を開けたり、場を整えたりするのを手伝いながら、当たり前のように座禅が始まったように記憶している。
 禅僧がお経を唱え線香の匂いが漂うと、自分がいっぱしの座禅者になったかのようだった。先輩方のように綺麗に足を組むことすらできなかったが、最初にしては楽しめたと思う。以後、数度訪れたが、やはり最初の会が印象的で、今でも座禅を組むと、あの時の砂利の音が足裏で響き始める。夏目漱石も踏んだという円覚寺境内のあの音が。

 ミーハーな視点で恐縮だが、白と黒にきちんきちんと整った禅の世界は、ビジュアル的にもお洒落だ。スティーブ・ジョブスの禅への傾倒は有名だが、アップル製品の佇まいには、しかと禅が読み取れる。おそらく座禅の経験があり、ちょっとの知識があるだけで、外国人からの評価が上がるだろうし、何よりも自信への知的投資として豊かだと思う。


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