―そうしたアーティスティックな関心はもちろんですが、同時に彼らに対しては、“音楽を生業とした同じ職業人である”という視点もあったりしますか? そうした視点から、彼らとの対話を通じて学ぶようなことはありましたか?
「そうね、観光客気分でこの仕事はやってられないってこと……友人でもあるヤー・ヤー・ヤーズのニック・ジナーから教わったことなんだけど、この業界でやっていくにはツーリストではなく、つねに生身の人間でなくちゃいけないってことね。要するに、これを仕事にするのなら、自分の人生のすべてを捧げなくちゃいけないってことよ。観光客気分で業界に入ってくる人達がたくさんいるでしょ。ただ楽しいからとか、チヤホヤされたいとか、生半可な理由でこの世界にいる人間はたくさんいるけど、私が番組に呼ぶような本物の人達は、何があっても音楽を作り続けるっていう覚悟を持った人達なのよ。もちろん、音楽を仕事にできてるっていうのは、すごくラッキーなことよ。自分の好きなことを仕事にしてるわけだから。ただ、同時にものすごく大変な仕事でもあるから」
―たとえば、たった今ネットでは、このインタヴューの数時間前にリリースされたフランク・オーシャンのニュー・アルバムのことで音楽ファンが大騒ぎしているわけですけど、そうしたリリースの方法や形態の変化について、あるいはアルバムというパッケージが今置かれている状況については、率直にどう感じていますか?
「そうだなあ、まあ、アルバムよりも優れた形態を誰かが発見するんだったら、それもいいんじゃない? そもそもアルバムの形態自体が昔に比べて変化しているわけで、1曲45分で1枚のアルバムとか……私達がボー・ニンゲンと一緒にやった『Words to the Blind』なんてまさにそうじゃない? あれは果たして従来のアルバムを位置づけていいものなのか?っていう。ただ、私自身は今でもアルバム以上に素晴らしい形態にはまだ出会っていないの。4分間のソングライティングをもっと極めていきたいし、今の自分には無理かもしれないけど、まだまだできることがたくさんあると信じてる……ってことは、もっと頑張らないとってことよね(笑)」
―それこそまさに、先ほど話した、音楽を生業とした職業うんぬん、というところと大きく関係してくる問題だと思うんですけど。
「たしかに、今の時代にアルバムは売れないよね(笑)。私もミュージシャンって立場からすれば、音楽業界が危機に陥ってからの状態しか経験してないから……デビューしたのが2007年でしょ? 音楽業界がまさに危機的状況に陥った最初の年で、そこから毎年悪くなっていく一方なわけじゃない? だから、正直、自分にもわからないの。私達は前の世代と今の世代のちょうど中間を経験してる世代なんじゃないかな。今はもう完全に時代は移り変わっちゃってるけどね。私達よりも前の世代のレコード黄金期には、レコード会社から大金をもらって契約して、何週間もスタジオに篭って膨大な予算を使って一つの作品を作ることが普通だったんだけど、今はもうそういう時代じゃないわけじゃない? そこでガーンとなっちゃう人もいるわけじゃない? さっき言った、音楽以外の目的で音楽業界にいる人達がダメージを受けてるじゃないかなあ……で、今のインターネットで音楽を聴くのが当たり前になっている世代は……というか、私達はちょうど中間世代にいて、インターネットで音楽を聴くのとアルバムで音楽を聴くのと両方を経験しているのね。私が今よりももっと若い頃には、新作を聴くのに1週間も待たなくちゃいけなかったり……実際にCDを手に入れるとかいう以前に、ただ曲を聴くためだけに1週間よ? それが今ではインターネットで、いつでもどこでも好きな曲が聴けるようになっている。そうしたインターネットで音楽を聴くのが主流になった世代が、今の音楽業界のリリース形態を変えていってるのかもしれない。音楽業界の置かれてる状況って温暖化みたいなもので、みんな危機的な状況だってことがわかってるんだけど、対処法を知らないのよ(笑)」
―わかりました。では、最後の質問になります。すでにご存知だと思いますが、先月、スーサイドのアラン・ヴェガが亡くなりました。サヴェージズは2年前にスーサイドと12インチのスプリット盤をリリースしていますが(※その中でスーサイドの“Dream Baby Dream”をカヴァー)、アラン・ヴェガの訃報に触れたとき、どんなことを思いましたか?
「やっぱり、悲しかったし……アラン・ヴェガにはものすごく影響を受けてるし、真のアーティストであり、パイオニアよね。アラン・ヴェガって、とにかく時代の先を行っていたじゃない? あまりにも時代に先駆けているせいで否定されて、でも否定されても自分の表現を貫いた。個人的にものすごく光栄だったと思うのは、スーサイドの最後のステージで、最後の曲を一緒に歌えたってこと……ロンドンのバービカンの会場で“Baby Dream Baby”をボビー・ギレスピーと歌ったの。アラン・ヴェガとマーティン・レヴと一緒にね。自分の今までの人生の中で、あんな奇妙なステージに立ったことはなかった(笑)! 良いとか悪いとか完全に超えちゃったところで、ただひたすら奇妙な世界の真っただ中に放り込まれて、その場にいる全員が発狂状態で客席のイスの上に立ち上がって叫びまくって(笑)……アランもそのときすでにだいぶ体調が悪かったみたいだったんだけど、それでもね(笑)、本当に奇妙な光景だったわよ。それ以来、自分達のライヴでも“Baby Dream Baby”を歌うようにしてるのよ。名曲だし、ライヴで演奏するには本当に完璧なのよ。一瞬で心臓に訴えかけて、何かが解放されていくの……そのとき解放されるものは、たぶん愛なのよ(笑)、って、本当にそう思う」
―もしもアラン・ヴェガを自分のラジオのゲストに呼ぶことができたとしたら、どんなことが訊きたかったですか?
「あー、良い質問ね(笑)。そうだなあ……あ、そうだ、音楽についてよりも絵について訊きたいかもしれない。アラン・ヴェガは画家としても活動してたでしょ? しかも、作品もすごく評価されていたし。ただ、画家としての活動の情報量が少ないから、それについていろいろ訊いてみたいな。どうやって日々創作活動をしてるのか、とか。あと画家と同時に作家としても膨大な数の作品を残してるし、ヘンリー・ロリンズが作品をコレクションしてるのよね。だから、作家として画家としてどういうふうに制作に向き合ってるのか訊いてみたい」
Savages
Adore Life
発売中
(Matador / Hostess)
※日本盤はジャケ写ステッカー、歌詞対訳、ライナーノーツ付
トラックリスト>
01. The Answer
02. Evil
03. Sad Person
04. Adore
05. I Need Something New
06. Slowing Down The World
07. When In Love
08. Surrender
09. T.I.W.Y.G.
10. Mechanics
https://itunes.apple.com/jp/album/adore-life/id1051201757?app=itunes&ls=1&at=11lwRX
Savages
2011年にジェニー・べス(Vo)、ジェマ・トンプソン(G)、アイシャ・ハッサン(B)、フェイ・ミルトン(Dr)で結成されたロンドン出身女性4人組ポストパンク・バンド。2012年に「フライング・トゥ・ベルリン/ハズバンズ」でシングル・デビュー。同年ライヴEP『アイ・アム・ヒア』を自主レーベルより発表。レーベル契約前にBBCサウンド・オブ・2013ノミネート、英人気テレビ番組「ジュールズ・ホランド」に出演するなど話題を集める。同年5月にデビュー・アルバム『サイレンス・ユアセルフ』をリリースすると米ピッチフォークでは8.7点、NMEでは8/10という高い評価を受ける。2016年、セカンド・アルバム『アドア・ライフ』をリリース。
photo Akihito Igarashi (TRON)
interview&Text Junnosuke Amai
edit Ryoko Kuwahara
photo edit Lina Hitomi